テレビで怖い話をみて、兄がぽつりと話し出した。
もう二十年以上前の話。
実話だけど怖くはないです。
うちの伯父は独身で狭いアパートで死んだ。
借金こそないが、財産もない。
私たちが駆け付けた時には警察も帰り、遺体も検死のためにひきあげられていた。
身内の恥だが、近くに住んでいた姪や姉妹達が既に集まり伯父の家具に名前を書いた紙を貼った状態。
父の兄弟は悲しむより、遺産がないなら現物をと思ったらしい。
それを見た父が怒鳴ったのは覚えている。
兄も子供ながらに、こいつら浅ましいなと思ったらしい。
そんなに欲しいなら持っていけ!と父が伯母らをたたき出した。
で、従兄弟は真新しい自転車を貰ったらしい。
乗って帰った。
行方不明。
従兄弟は死んだ伯父のアパートから車で30分ぐらいの地域に住んでたのだが、帰らない。
電話がかかって来て、そっちにいないかと言われたが遊びに行っただろうと父は言った。
薄情な奴の息子だからありうると兄も思ったらしい。仏壇を掃除し、今日は伯父のアパートに泊まるしかないので私たち家族は伯母らが荒らした部屋を片付けた。
あとから聞いた話だが、従兄弟は深夜に泣きながら帰ったらしい。
もう慣れた道でそこは田舎ではない。都内の下町で車が入り込めない路地が多くて、家がぎっしり建ち並ぶような区域。
なのに、従兄弟は迷子になった。人がいない状態の道を必死で走っていたと言うのだ。
夜になったのに明かりのつかない民家の間の路地を延々と。
従兄弟は兄に、そんな訳だからおまえに自転車をやると言ったらしいが、県外から来てるのでいらんと断ったらしい。
従兄弟は親に信じて貰えないし、もう自転車が怖いと泣いたので兄は信じたそうだ。
そりゃ伯父さんだって怒ると思う。死んだ日にテレビやポットに貼られた名札は、幼い私も強烈に覚えているから。
叔父や叔母は早死にしたり借金に負われたり、今不幸らしい。
父は兄である伯父への仕打ちに怒り縁を切ったので詳しくはわからないが祟りってあるんじゃないかと言っていた。
作者恐怖新聞