蝉の鳴き声が五月蝿い8月半ばの話。
夕方、学校から家に帰った私は、一息つく間もなく母の指示で飼っている犬の散歩に出掛けた。
私が住んでる町は東西を山に囲まれており、8月も半ばならば、6時には山に日が掛かり、町が綺麗なオレンジ色に染まる。
そうなってしまえば日が落ちるのは早い。
私が散歩に出たのは調度空がオレンジに染まる頃だった。
日が暮れるまでに戻ろうと、リードを握り足早に家を出た。
犬は私に余り懐いていないのか、私が犬に引かれて歩く事が多い。
近所の散歩コースを犬も覚えているのだろう。
引っ張られながら何度も散歩した道を歩いていた。
元々この時間にもなれば道で人と会う事は少ない。
幅も車が一台通れるぐらいの道で、左右に家が立ち並んでいる。
どの家も垣根を持っており、中がどうなっているかまで見ることは出来ない。
垣根と電信柱、そしてオレンジに染まる空しか見えない殺風景な散歩道だ。
犬に引かれながら十字路を曲がった。
視界の奥に何かが見える。
人か?
人にしてはやけに小さい。咄嗟に目を細めて見るが、ここからでは、はっきりとその正体はつかめない。
犬に引かれながら徐々に近づくと、まるで椅子に腰掛けているように、道路の脇にある用水路へ足を伸ばし座っているお爺さんだと分かった。
お爺さんは垣根の方を向いて座っており、着ているチャンチャンコはオレンジ色に染まっている。
……
何かがおかしい。
そう感じながらお爺さんの後ろを通る。
その時、普段滅多に吠えることのない犬がお爺さんに向かって吠えだした。
考え込んでいた私は、普段鳴かない犬の鳴き声に驚き、お爺さんにすいませんと謝罪の一言を伝え、吠え止まない犬を引きずりながら足早に次の十字路を曲がった。
一息付き、用水路にふと目をやる。
用水路は調度ソフトボールが納まる程度の幅、そして深さだった。
お爺さんは椅子に腰掛けるように用水路へ座っていた。
違和感無く。
逃げ込んだ十字路からお爺さんのいた道を覗き込む。
お爺さんの姿は既に無く、ただ、道が広がっていた。
蝉が鳴き始める。
まだ空はオレンジ色だ。
私は再び家に向かって歩きだした。
季節は夏。
お盆の時期だった。
作者ぎば