長編13
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オーガマドキ

*注意

これからの話は事実と数か所内容を変えています。

特定の宗教・信仰への偏見はありません。またそれを助長するような意図はありません。

具体的な場所の詮索、個人特定をしないようお願いいたします。

上記の内容を了承いただけましたらお進みください。

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最近の猛暑日が続く時期になると、数年前の私と家族の体験を思い出す。

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中学生のころ、家族で初詣に地元でも有名な神社に行ったことがある。

県外から来られる初詣客も多く、参道の土産物屋も客でごった返していた。

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あまりに人が多く人の多さにつかれただけで、土産物屋でゆっくり品定めもできないので、「また今度一人でこよう」と思ってた。

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夏休みになり家にいてもやることもないのでその神社に行くことにした。

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昼飯を食いバスを乗り継いで到着したのは夕方になっいた。

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その神社の参道入り口は初詣の時はあれだけ人がいたのにひとっこひとりいない。

土産物屋、食堂も半数は閉店しており(祭りや行事があるときは開く)ビニールでできたアーケードは薄暗く昭和風情が色濃く残っていた。

でも、ちょこちょこ店は開いており土産菓子やおもちゃを売っていた。

真夏の暑い中遠くセミの鳴き声が聞こえ、ノスタルジックな雰囲気に酔っていたのを覚えている。

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参道の中腹あたりまで来たときに、50m先の道の端のほうに人影が見えた。

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よくみると70代ぐらいの小柄な老人で、キャップをかぶりランニングシャツにダルダルのズボンをはいてこちらに背を向けていた。

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なんか得も言われぬ不気味さを感じたので足早く追い越そうと思っていたら、10m先くらいで自分に気づいたらしく

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「おっ」

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と独り言を言い、こちらを振り返り笑っていた。

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丸顔でしわくちゃで、目がぼっこり奥まっていて、歯が数本抜けていた。

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「おいおい、おいでなすったか」

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まだ日も明るいしお化けや幽霊じゃないだろうが、ゾクッとした。

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嬉しそうに近づいてくる老人はどんどん話しかけてきた。

「きょうはあちいなぁ。」

「どっからきたんで。」

「小学生か?中学生か?」

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今なら適当にあしらうこともできるが、当時中学生だった自分は黙って足早に歩くしかできなかった。

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「なー、そんないそがんでもおりゃせんけ」

「無駄無駄。はしってもだめ」

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走るまではしなかったけで早歩きでやり過ごそうとしたけど、その老人はひょこひょこついてきた。

こっちが息が切れそうなときにその老人は自分を追い抜いて土産物屋の冷蔵庫からジュースを一本だして

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「あちいけえなぁ、ほれ」

そういって蓋を開けて自分の前に突き出してきた。

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え?それ店のジュースだけどおじいさん金払ってないじゃん。やばいこいつ。

そう思ってさらに足を速めて進むことにした。

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「ん?ジュースはいらんか。なら・・・」

老人は再度自分を追い抜いて土産物屋の店先にあるまんじゅうを取り、セロハンをむいて

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「ほれ、うめえぞ」

と黒くくすんだ掌で出してきた。

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よっぽどやばいと直感して一目散に走って神社に向かった。

さすがに自分が走ると思っていなかったのか

「おいおい」と言ってそれ以上はついてくることができなかった。

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大きな鳥居をくぐって神社にたどり着き「もうついてきてないだろう」と後ろを振り返ると、

さっきの老人はおらず、ビニールのアーケードの参道が見えるだけだった。

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たすかったぁ。

そう思って近くの自動販売機でジュースを買い、ごくごく飲んだ。

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参道は自分しかいなかったが(あの老人はいたが)神社に来ると数人参拝客もいたのでとりあえず安心した。

神社を観光しようかと思ったけど、さっきの老人のことを忘れることもできずに適当に本殿を見てお守りを買って帰った。

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もしかしてあの老人は妖怪じゃないのか?だったらこのお守りが効くんじゃないか?

中学生の思うことは単純でちょっと高めのお札も買うことにした。

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帰りもあのアーケードを通るしかなく、気持ち悪かったが意を決して走り始めた。

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あいかわらず人はおらず、さみしい雰囲気が漂う。

老人の影は見えないがひょっこり横道から出てくるんじゃないかという恐怖と闘いながら参道の入り口の鳥居までたどり着いた。

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よかったと思った瞬間

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「おいおい」さっきの老人の声が聞こえた。

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「ひゃ」と変な声が出て後ろも振り向かずに一目散で走った。

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50mくらい走ったところで振り返ると、鳥居の横でじっとこっちを眺めている老人がいた。

バス停を抜けて、さらに次のバス停まで走って、バスに乗り家に帰ることができた。

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帰りのバスの中でよくよく考えてみると「ただたんに子供としゃべりしたかっただけのおじいさんだったのかな?」と、ちょっとかわいそうに、また自分の態度は失礼だったのではないか思ってみたりもした。

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怪奇現象もお化けも幽霊も出なかったが、夏休みの体験にしてはちょっとスリリングな思いができ、怖くもあったが話のネタができたと嬉しくもあった。

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数年が経ち

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そんな自分も社会人になり、学生時代の同級生と結婚して、子供も生まれた。

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子供が4歳になった正月に「初詣に行こう」と嫁が提案してきた。

「あそこの神社に行きたい」そう言った神社は例の老人に遭遇したあの神社だった。

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中学生の記憶がフラッシュバックしたが、なにか危害を受けたわけでもないし、あれから十数年たっているのでさすがにあの老人もいないだろう。

あの夏の体験もあったので、久しぶりに自分も行ってみたくなった。

しかし嫁の実家の四国に帰ったり、友達が来たりと結局近場の神社で初詣は済ませ正月に行くことはできなかった。

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夏休みになり、子供の友達の家におよばれしたのでケーキを買ってお邪魔した。

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子供同士きゃーきゃー遊んでいた。

大人は持ってきたケーキと淹れてくれたコーヒー飲みながら子供たちを眺めていると友達の親が

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「うちのチョビ(犬)って、家の人以外には絶対吠えるんだけど、太郎君(息子仮名)にはすっごいなつくのよね。」と言われた。

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確かに太郎が生まれてから犬にほえられたことがない。乳児のころ公園で散歩していると太郎に犬がすり寄ることも多かった。意外な才能(?)があるもんだと笑っていた。

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嫁が「そうだ、帰りに○○神社寄ってみない?」と提案した。

確かに家から行くよりここからのほうが近い。昼からは用事もなかったので行ってみようかということになった。子供はまだ友達と遊びたがってしくしく泣いていた。「じゃお邪魔しました」家を出る瞬間、

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ワンワンワンワン

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これまでおとなしくしていたチョビがワンワン吠え始めた。太郎は初めて犬にほえられたので「こわい~」とお母さんにすがった。

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「あらあら、さっきまでおとなしかったのに。どうしたの・・・」

友達のお母さんはしどろもどろ。

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「多分太郎とサヨナラするのがさみしいのね。チョビちゃんまた来るからね」

半ば強引に友達と別れて車を発進したが、車を追いかけるように犬の鳴き声が続いていたのが印象的だった。

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神社近くのラーメン屋で遅い昼飯を食べ、コンビニに寄ってたりしたら神社に着いたのは夕方近くになっていた。

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駐車場に車を止め、大きな鳥居を潜り参道に入っていった。中学の頃に来た雰囲気と何も変わらず昭和ノスタルジーな商店街がここまで残っているのは反対にとても嬉しかった。ただ店はだいぶ潰れ、ベニヤで入り口を封鎖している数件の店を見ると時代の流れも感じた。

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お土産屋は「これあの当時から売れてないだろ」と笑いたくなるようなおもちゃや木彫りのお面とか、食堂もガランとしておりハイシーズンは頑張るけど今はとりあえず店開けてるだけって雰囲気がなんとも面白い。

子供も初めて見る昭和レトロ商店街にキャッキャ騒ぎ、お土産屋をのぞいて「あれ買って!」とアンパンマンのおもちゃを指さしていた。

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「こんな雰囲気の商店街まだ残ってるのね」

「ほんと中学生の時きたそのままなんだよな」

「タイムスリップした感じね」

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タイムスリップ・・・

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その言葉であの老人のことを思い出してドキッとした。しかし次の瞬間「いや、あれから10数年経ってるからいるわけないさ」と自分に言い聞かせた。

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見覚えのある通り、あそこの緩いカーブを曲がったところ。

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当時あそこにあの老人はいた。

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あそこに誰もいなかったら大丈夫だ。

根拠のない言い訳を自分で考えた。

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すると、さっきまではしゃいでいた子供がみるみるうちに不機嫌になってきた。

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「ん?どうしたの?」嫁が子供を抱いてあやすがどんどん涙目になってきてシクシク泣き始めた。

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(ヤバい。フラグ立ってきたんだけど)

冷や汗が止まらなくなってきた。

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祈るように足を進める。いつしか嫁子供をおいて一人早足になっていた。

カーブを抜けてみると。

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いた。

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そこには10数年前にいた同じところに、同じ格好つまりキャップをかぶりランニングシャツにダルダルのズボンをはいてこちらに背を向けてあの老人がいた。

汗が一瞬で噴き出る。

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子供の泣き声はさらに大きくなってくる。

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その声に気づいたのか老人はこちらをゆっくり振り返る。

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あの老人だ。

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さらに老け、歯も少なくなったが目がボックリ窪んだあの顔は忘れていなかった。

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老人はニチャッとした気味の悪い笑顔を作り

「ありゃありゃ、ボクどうしたんかな」

とヒョコヒョコ近づいてきた。

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前の時のように土産物屋のジュースをつかみ、パシュっと蓋を開け

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「これのみ?うめえで」

と近づいてきた。

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老人が近づいてくる距離に比例して子供の泣き声はワンワン大きくなる。嫁も異常に気付き顔が強張ってくる。子供の顔を見ると大声で涙を流しているが、目は大きく見開いていた。

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「おいおい、オーガマドキに来ても神様はおりゃあせん。これ飲んでかえりいな」

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どんどん近づいてくる老人を私はダラダラ汗をかきながら見ることしかできなかった。

老人は近づいてくる。

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子供は泣き叫び、嫁は子供を顔をこわばらせながら子供をギュッと固く抱いている。

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老人が嫁と子供の前まで来て

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「おうおう、こんなに泣いて。何が怖いんじゃ」

手をニューッとのばし子供の頭を撫でようとした。

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途端に私は「コラ!」と大声を出した。

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ビクッと老人は肩をすぼめたが

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「おめえ、だれなあ」

ギリっとこっちを睨んだ。

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窪んだ目の奥の眼光はどんどん険しくなってきた。

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やばい。

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老人は手を合わせてモニョモニョ呪文を唱えてこちらににじり寄ってきた。

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「おめえ、だれなあ。やっぱりオオマガドキじゃ!犬畜生がきやがった!」

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ジリジリにじり寄ってくる。

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「逃げるぞ」

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そういうと、嫁から子供を受け取り、来た道を走り出した。子供を抱いたら汗でパンツまでぐっしょりしていた。

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振り返ると老人はモニョモニョ呪文をとなえながらこちらに歩いてくる。

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抱っこしている太郎を見ると相変わらずワンワン泣いているが、目はぱっちり開いており老人をじっと睨みつけていた。

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嫁は走りながら「こわい!こわい!」と大声で叫んでいた。

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俺も怖い。とりあえず老人から逃げないと。

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追いかけてくる老人を振り返って見ると中学生の時に比べ体力も落ちたのだろう。汗をかきながらかなり苦しそうに、そして畏怖の表情を浮かべながら必死に手をすり合わせながら呪文を唱えていた。しかしこっちは4歳児を抱っこしながら走っている。日ごろの運動不足もたたり体が鉛のように重い。

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「こっち!こっち!」

ふと見ると数軒先の喫茶店のドアからおばさんがこっちに手招きしていた。

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「はいりなさい!早く!」

藁をもすがる思いで三人でその喫茶店に飛び込んだ。

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3人入ったのを確認すると、おばさんはドアの鍵を閉め、ガラス越しに老人の顔をにらんだ。

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老人は合わせていた手をぶらんとおろし「ちぇ」と舌打ちしてぶつぶつ言いながらもと来た道を歩いて行った。

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「もう大丈夫だと思うけど、ちょっとゆっくりしていきなさいね」

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年のころは50歳くらいの恰幅のいいおばさんが、ニコッとこっちに笑顔を見せてくれた瞬間どっと疲れが出た。

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「ちょとまってね、お冷を持ってくるから」

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奥に消えていくおばさんの背中を目で追いながら、助かったと安堵し大きくため息をついた。嫁と子供は少しは安心したがまだドアの方をじっと睨んであの老人が来ないか心配そうだった。

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あらためて喫茶店の中を見回してみた。

本当に昭和のころから使っているテーブルや椅子、照明器具、ショーウィンドーには焼きそば焼うどんなど蝋細工のサンプルが並んでいる。

さすが神社の参道の店だけあって奥のレジの横には線香とろうそく、お土産コーナーがあり、奥は自宅へのあがり框になっており畳敷きで少し広くなっており、おみやげ物がごちゃっと並んでいた。大きな神棚があり、やはり信仰深い地域なのだなと思った。

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その瞬間目線を感じてヒヤッとした。

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よく見るとその神棚の下に80歳くらいの老婆が座布団に座ってこちらを眺めていた。

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「・・・こ、こんにちは」

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挨拶をすると、ニコッと笑いこちらに一礼してくれた。悪い人ではないようだ。

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「はいお冷」

おばさんは氷が入った水を3つだしてくれた。

「ありがとうございます。」

のどが渇いていたので3人ともぐっと飲んだ。少しレモンの味がした。だいぶ落ち着いてきた。

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家族と少し離れて椅子に座ったおばさんはあの老人について話し始めた。

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「あのおじいさんはね、ちょっと頭がおかしくなっちゃったの。昔からここに住んでる人なんだけど、商売が下手でね。代々の店も売っちゃって、親戚の家に居候してるの。昔は優しい人だったんだけどね。子供のころは遊んでくれたりもして。でも店を売ったころから徐々につかれちゃって」

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「なんか呪文のようなものを唱えられましたけど、大丈夫でしょうか?」

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「あんなのここに住んでいる人は誰でも唱えられるわよ。呪文なんて危ないもんじゃない。お経だからお経。お経ってのはその人が生きる方法や約束のようなものであって人を呪うことなんてできるもんじゃないわ。」

そういって、もにょもにょ唱えてくれた。

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「夕方ってオ一ガマドキといってお化けや幽霊に合うような雰囲気を持っているのね。逢うに魔物の魔に時で『逢が魔時』。神様も日が欠けるときには帰ってしまうというし夕方た夜は変なものが出る、だから夕方に神社にお参りするなっ迷信があってね。迷信だからいつお参りしてもいいと私は思うけどお参りするには朝とか昼までがすがすがしくてよいと思うわ。」

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(あ、あの老人が言っていた「会えない」ってのはオーガマドキだから神様には会えないってことなのか)と合点した。

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「あのおじいさんはオーガマドキになったらああやって見張ってるっているらしいんだけど、気味が悪くって観光客が減って、こっちもえらい迷惑なわけ」

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「見張る?ってことは私たちは・・・来たらいけないんでしょうか?」

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そういうとおばさんはケラケラ笑って

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「ないない。小学生が仮面ライダーごっこするようなもんよ。適当な人を見つけてショッカーだっていうのと一緒。あのおじいさん頭おかしいから」

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「わたし、あの人が子供を触ろうとしたのでコラって怒っちゃったんですよね。そうしたらさっきまで笑顔だったのに怖い顔になって追いかけてこられて。だから自分にも悪いところがあるっていうか・・・」

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おばさんは少しびっくりした顔になり、

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「そうなの。ごめんなさいね。あの人頭おかしいから」

そして悲しそうな目になった。

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「お水お代わり持ってくるわね」

そう言ってまた奥に消えていった。

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「あんた」

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奥の老婆が話しかけてきた。

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「あんた、もしかして戌年?」

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急に話しかけられてびっくりした、また自分が戌年と当てられてさらにびっくりした。

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「え?わかりますか?」

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「やっぱりなぁ。あの人も悪い人じゃなかったんじゃがおキツネさんに見込まれてからは鼻が利くようになってしもうたけんな。」

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「戌年は相性が悪いんですか?」

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「犬とキツネじゃけな。キツネはうちの神様の使いじゃけ、ええように思わん人もおる。」

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奥からおばさんが飛び出してきて」

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「おかあさん、あんまり変なことは言わんといて」

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おばさんがキッとにらむと「はいはい」と言って老婆は黙った。

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「気を悪くするような話してごめんなさいね。この土地に古くから住む人はそんなこと言う人もいるけど、時代遅れよ。

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私だって商売してるんだし、お客様は平等に扱わないと。お客様は神様っていうじゃない」

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「あ、そうだ。なにか注文しないと」

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いいの、気を使わなくてというおばさんを遮りアイスコーヒー二つと子供にアイスクリームを頼んだ。出てきたアイスコーヒーは店で淹れているのかめちゃくちゃ苦かったが自分も嫁も一気に飲んだ。子供はスプーンでアイスを弄んでいたが一口食べて「もういらない」と皿を手で奥に押した。

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お金を払うと「そうだ」と言っておばさんは神棚から封筒を取り出し、中から一枚お札をだして

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「これあげるから、おたくの神棚に置いといたらいいわ。」

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印刷されたものではなく版画のように刷られており、赤いハンコがいくつもペタペタ押してあった。

中学生の時に神社で買ったものとはだいぶ違って見えた。

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「ありがとうございます。えーと、お代は」

「ええのええの。またお参りして頂戴ね。外にあの人いないかみてあげるわね。」

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「大丈夫、もうあの人は来ないから。」

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おばさんがそういってくれたので安心できた。

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ドアを出て少し歩くと店の中から老婆とおばさんのののしりあいが聞こえた。

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そしてガラッと扉が開くとヨタヨタと老婆が出てきてパッパっと何かを撒くのが見えた。

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多分塩だろう。撒き終わった後にさっきのお経をごにょごにょ唱えていた。

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おばさんが走ってきて、

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「ごめんなさいね、気分悪くなったでしょう。

また来てちょうだいって言いたいんだけど

・・・もう来ないほうがいいかもしれないわ。

だって、あなたたち三人とも戌年でしょう?」

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俺は戌年だとは言ったが嫁子供のことは言っていなかったはずだが

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「私たちも神様のおかげで商売させてもらってるから、神経質な人もいるのよね・・・」

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「それに・・・」

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おばさんは子供の顔を見て口ごもった。うっすら涙を浮かべているようだ。

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そして何度もごめんなさいと言いながら小走りで帰っていった。

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もうあたりは夕暮れ近くになっていて、ヒグラシがケナケナ鳴いていた。

大きな鳥居を抜けて駐車場に着いた。

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やれやれと思っていると

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「あれ」

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と嫁が指さした。

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鳥居の横で7~8人の老人がこちらを恨めしそうににらんでいた。

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みんなで車に走り、後ろを振り返らずに家に帰った。

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帰りの車内で子供が

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「もう神社に行きたくない。さっき食べたアイス、変な味がした」

といった。

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夫婦で顔を見合わせ全身鳥肌がたった。

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もらったお札ですが、カバンから出すと変なにおいがしたので後日他の神社で処分してもらおうと思っております。

おわり

Concrete
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