高校1年の時のことです。ワンダーフォーゲル部という登山を楽しむ部に入っていました。
入部してから2回目の山登りの時です。5月の終わり頃だったと思います。今度サミットが行われる洞爺湖からも、そう遠くない山に登ることになりました。
残雪が残る春山を必死の思いで登って行き、6合目あたりの位置でテントを張り、そこをベースキャンプとしました。
そして、そこに必要のない荷物を置き、頂上を目指したあと疲れ切った体で戻ってきました。
夕食も終わり、疲れのこともあり皆泥のように眠りにつきました。
体を揺らせれる感覚で目を覚ますと、隣で寝ていたK君が「トイレに行きたいんだけど怖いからついてきてくれないか」と声をかけてきました。
確かに電気も通って無く、民家の明かりなども全くない夜の山は漆黒の闇という言葉がよく似合う状態です。
僕は快く引き受けヘッドライトを手に持ちテントを出ました。
K君は茂みの方に行き、僕は帰ってくるのを待っているとK君が足早にこっちに向かってきました。
何かあわてた様子なのでどうしたの?と聞くと、K君は「今日登ってきた登山道のあの下の方に変な光が見えないか」と言うので下の方を見てみるとはるかに下の方、おそらく距離にすれば3,4キロは離れていそうな場所に光がありました。
驚いてよく見てみると、それはぼんやりと体の周りが均等に光っている登山客の男の人でした。
格好も本格的な服装をしていて、いかにもベテランとした様子なので、こんな深夜に登るなんてすごいなぁと思いましたが、そこで気づきました。
……なんでこんなに見えるんだ。
ライトで照らしているぐらいではありえない光りかたで、指向性がない光が体全体を包んでいる感じでその人の周りのみをまんべんなく包んでいます。
そして、何よりもおかしいのが着てる服までしっかりと判別できることです。
いくら光がそこにしかないとはいえ、数キロ離れている人の服装が見えるはずがありません。
僕はあれはまさか幽霊かと考え込んでいるとk君がつぶやきました。
「なぁ、あれってこっちの方に登ってきてないか……」その声を聞き見直してみると確かにこっちの方に登ってきています。
僕たちのベースキャンプは唯一の登山道の途中に張ってあるので登山客は当然その前を通過することになります。
そのことに気づき慌ててテントに入り寝袋に頭まで隠すようにしていると、疲れもあいまりいつの間にか眠りに落ちていました。
朝起きて隣のK君に夜中にあったことを聞いてみると確かに覚えていてあれは夢ではなく本当にあったことなのだと確認できました。
はっきりと見えた不思議な体験の割にはそれほどは怖くなかった様な気もしますが、あのまま1,2時間待っていたとしたら、あの男の人はぼくたちの前まで来ていたはずだということを思うと少しぞっとします。
死んだ後も山に登り続ける山好きは本当にいるのだということが認識できました。
怖い話投稿:ホラーテラー rokiさん
作者怖話