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中編4
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白いベンチのあるバス停

久しぶりに故郷へと帰ってきた。僕はもう三十七歳。しかも、田舎育ちだ。辺りは全然変わっていない。

道を歩いているうちになんだからわからない場所へきてしまった。

「あれぇ…迷ったかな?」

辺りを見回し、誰か人がいないか探してみるものの、誰もいない。

だんだん暗くなり、僕は坂道をのぼっていった。

十メートル先のほうに古い屋根がある。ベンチもあった。街灯もあるし、なにやらバス停と書かれていた。

「あそこでバスでも待つか」

ため息を吐き、坂道をのぼった。

古い屋根の下には白いベンチがある。そこに腰をかけると隣りに女の子が座っていた。

「わっ!」

咄嗟になって驚いた。さっきまではいなかったのに。

女の子はおかっぱ頭で、白いブラウスに赤いスカートを着ている。ちょっと大きめの下駄を履いていた。

驚いてしまった。失礼だったかな、と僕は女の子に謝った。

「ごめんよ、お嬢ちゃん。驚いかせたつもりじゃなかったんだよね…」

女の子はなにも言わない。

再び僕はベンチに座った。

隣りにいる女の子は、ずっとこちらを見ている。

「パパとママは?」

「…いない」

「一人なの?」

女の子はうなずく。

腕時計を見てみると、もう十一時半。こんなに小さな子が一人でいたら危ないじゃないか。

「お家、どこなの?」

「ここ」

「…おいおい。変なこと言う子がなぁ」

苦笑いをしなが僕は言う。

だが女の子は笑み一人見せなかった。

「ここバス停でしょ?」

「ちがうよ」

「え…バスこないの?」

うなずいた。

なんだ、それならここには用がない。僕はベンチから離れた。正面には林がある。よくよく考えてみれば、こんなところにバスがくるはずがない。

女の子はまだ僕を見ている。

「じゃあ、おじさん帰るね」

女の子はなにも言わない。

だが、女の子を一人にさせるわけにはいかない。例えここが家だとしても、親元に返さなければ。

僕は振り返った。

「おじさん、お家まで送ってあげるからおいで」

女の子はなにも答えない。

「ほら、はやく」

そう言いながら、僕は女の子の手を引っ張った。

そして、さっき通った坂道をくだっていくと、坂道に当たった。

さっき、こんな坂あったっけ。不思議に思いながらも坂道をのぼる。

古い屋根、白いベンチがある。

さっきと同じ場所だ。

「え…」

同じ場所にくるはずがない。一方通行だ。僕は走りだした。坂をくだり、またのぼった。バス停に着いた。

「そんな…どうして…」

女の子の手を握り締めながら、僕は変な緊張感にとらわれた。歩いても歩いても、バス停に着く。どうしてだ、なぜだ。

もう一時。

ずっと歩き続け、疲れた。

「どうして同じ場所にくるんだ。なんで…」

「あたしがいるから」

女の子がつぶやいた。

「え…?」

「あたしはあの古い屋根の下の白いベンチにいなくちゃいけないの」

「どうして?」

「だってあたし、あそこで死んだんだもの」

「え…」

女の子は手を離す。

そして、ベンチにちょこんと座った。

「死んだって…きみは一体…」

「あたしは五歳のとき、このベンチに捨てられたの」

「え…」

「あたしはこのバス停を住みかにしている生霊」

足が震える。

女の子の声がじょじょに低くなっていく。

「何度かこのバス停にきた人はいたけど、あたしをここから連れ出そうとした人は初めて」

女の子はジッと僕を見ている。うつろで淋しそうな目。

僕は女の子との視線が怖くて仕方なかった。

金縛りに遭い、体が動かなかった。唇が震え「あ…あぁ」としか言葉が出ない。

話を続ける女の子の口元がどこから不気味に笑んだ瞬間。

「うわあぁぁぁ!!!」

僕は逃げ出した。

坂道をくだり終えたところで石につまずき転がった。足を引きずりながらも逃げ、僕は最後に後ろを見た。

バス停のところで女の子が包丁を手にしなが笑っているのを。

――…

その後、僕は近所の人にあのバス停のことを聞いた。

何年か前にあのバス停のベンチで女の子が捨てられていたそうだ。栄養失調で亡くなり、誰にも葬ってもらえぬまま、生霊となって現れることがあるそうだ。

あそこは元々本当にバスが通っていた。バスの運転手が女の子を見つけたが、気味が悪いので放っておいたところ後ろから刺し殺されたと。

他にもいろいろとあり、あのバス停にいった人たちは僕以外、全員包丁で殺害されていたそうだ。

今はもう使われていないバス停。女の子はまだ、あそこでこちらを見ている。

僕は手を合わせ、無事天国へと向えるように、と拝んだ。

: JHARD

怖い話投稿:ホラーテラー JHARDさん  

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