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中編6
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水面幽霊

真夏日。友達4人と、海に遊びにきたときの話。みんなでパラソルを立てていた。

「ちょっとこっち手伝ってー」

「今いくー」

そう言い、私が友達のKちゃんのほうへ向かったとき。Tちゃんがジッと海のほうを見つめていた。

「どうしたの?」

「あ、いや…なんでもない」

なにかを隠していた。

なんだろう、と思ったがあえてそこは聞かないでおいた。

パラソルも立て、レジャーシートも敷き終わった。友達たちとビールを飲み、かき氷を食べ、ビーチバレーをした。

あっという間に時間が過ぎていった。

「ふあ〜…疲れた〜」

「うちもだめ〜…」

KちゃんとIちゃんが疲れを訴える。

「えー?もうダウン?」

「むりむり。UちゃんTちゃん遊んできていいよ。うちら荷物番してるから」

「ほんとー?ありがとう」

「じゃあ遊んできまーす」

「いってらっしゃーい」

私とTちゃんは、友達に見送られながら再び海へと走っていった。

「きゃー冷たい!」

私がそう言ったとき、Tちゃんはなにか不安そうな顔をしてジッとなにかを見ていた。

後ろのほうだ。私もTちゃんと同じほうを見る。

なにもなかった。ただ、どこまでも続く海の水面が見える。

「どうしたの?さっきから様子変だよ?」

「いや…なんでもないよ」

「なんか隠してるでしょ!」

「隠してないよ」

そう言い張るTちゃん。

本当になんでもないのならいいが、と私は胸をなで下ろす。

そして、二人でビーチバレーを始めた。水飛沫をたてながらのビーチバレーは楽しかった。

足首が浸かるくらいのところでやっていた。

――ポチャッ!

「あーん、ごめーん!」

「大丈夫、大丈夫」

笑いながらTちゃんが流れていってしまったボールを取りにいく。

ふらついたまま、深い場所まで入っていき、胸まで浸かる場所にいった。ボールを両手で持ち、取ったよー、と私に言うかのようにして手を降る。

それに私が手を振り返したとき、ヒュゥッと風が吹いた。

水面が揺れる。

そして、Tちゃんの顔から笑顔がなくなったとき、Tちゃんは後ろを振り返った。

なんだか不安になる。

さっきよりも少し強い風が吹いたとき、Tちゃんが手にしていたボールが飛ばされた。

Tちゃんがいる場所から10メートルほどのとこでボールは水面に落ちた。

「大丈夫ー?」

私が声をかけると、Tちゃんはボールを追いながら、手で丸を作った。

ほっとした瞬間。

「きゃああああああ!!!」

突如、悲鳴が聞こえた。

Tちゃんのほうを見ると、Tちゃんはバシャバシャと暴れている。

足でも滑らせたのか、と私は即座にTちゃんのほうへ向かった。

「助けてっ…たすけ…!」

「Tちゃん!」

近くにいた男の人がTちゃんを抱え、岸まで運んでくれた。

ガクガク震えるTちゃんの顔は、なにかに怯えるような表情だった。

レジャーシートのとこにいたKちゃんとIちゃんがやってくる。痙攣しているTちゃんにタオルを被せ、体を温めてやる。

なにがあったのかわからない。

私は海を見た。水面に浮かんでいるボールをただジッと見ていた。

そんなに溺れるほどの深さでもない。Tちゃんは私よりも背が高いのだ。

疑問に思いながらも、Tちゃんを見ると、彼女の右足首が真っ赤になっていた。まるで紐で縛られたように。

――…

ホテルに戻り、私とKちゃんとIちゃんで話をしていた。Tちゃんのことだ。

「ねぇ、今日なにがあったの?」

「私にもわからない。ボールを取りにいって…あ。Tちゃん、なんか海のほうジッと見てたよ」

「なんだろう。なにかいたのかなぁ?」

「やめてよー。Tちゃんが幽霊でも見たっていうの?」

「わかんないけどさぁ…」

「Tちゃんの右足首に変な跡があった」

「え…まじで?」

「うん」

「Tちゃん、ミサンガつけてんじゃん!きっとそれだよ」

「ちがうの!なんかロープで縛られたっていうか…誰かに掴まれたような跡だった」

「ねぇ、もうこの話やめようよ」

Kちゃんがそう言い、私たちは眠りについたのだった。

――…

翌日。

今日もまた海へきた。2泊3日の旅だ。明日で帰る、なんて思うときたくなかった海にも思わず足を踏み込んでしまった。

「気持ちいぃ〜」

「やっぱ青春感じるわー!」

昨日の出来事がなかったかのように、KちゃんとIちゃんは水着になる。

そして、ビーチボールを片手に海へと飛んでいった。

楽しそうな二人を見るだけで、こっちも楽しくなっていた。私は笑いながら二人を見ていた。

「ウケる〜」

そう言いながら、私がビールをクールボックスから取ろうと思ったとき。隣りにいたTちゃんの様子が変だった。

震えている。

「…Tちゃん?」

「…い」

「え?」

「…怖いよぉ」

「大丈夫?ねぇ、Tちゃん?Tちゃん!?」

震えはどんどん増していく。

痙攣レベルではなくなったとき、私はTちゃんをギュッと抱き締めた。

震えは止まった。

そっと手を離してみると、真っ青な顔をしたTちゃんが苦しそうにしていた。呼吸が荒い。

背中をさすっていると、少し落ち着いてきたようだ。まだ息があがっているものの、意識はある。

「もう、平気だよ…」

「大丈夫?むりしないで」

Tちゃんはうなずいた。

「…話したいことがあるの」

なんだろう、と思いTちゃんの目を見る。震えた唇。怯えた目。間違えなく、Tちゃんはなにかを見たのだ。

そして震えながら言った。

「昨日、海の真ん中らへんに人が立ってたの…」

「真ん中って…?」

「すごく遠いところ。あのオレンジ色のポールらへんのところ」

とても人間が立てる位置じゃない。足は確実につけないはずだ。

「髪の長い女性だったの。最初は、なんかの幻って思ってたんだけど…」

Tちゃんの瞳から涙が落ちた。

私はTちゃんの頭をなでてやる。

「ぐすん…それで、ボールが飛ばされたときに…」

私は黙って耳をかたむけた。

「…す、す…」

Tちゃんは震えた唇を必死に動かしながら、私になにかを訴えようとしていた。

「水面に女の人の顔が…」

そうTちゃんが怯えながら言った瞬間。

「きゃああああ!!」

「きゃあああああああ!!」

KちゃんとIちゃんの悲鳴が響いた。

真っ青な顔をしながら、Kちゃんだけがこちらへ走ってくる。Iちゃんは溺れていた。

私が駆け寄ろうとする前にTちゃんが立ち上がった。目を丸くしながら言う。

「あの女だわ…!」

私は即座に海へと走っていく。

海岸で腰が抜けてしまったKちゃんを避難させ、私はIちゃんのほうへて走っていった。

バシャバシャと水飛沫をたてながらIちゃんの手をつかんだ。

「Iちゃん!」

「いやぁ!離してぇっ!」

パニックになっていた。Iちゃんは私ね手を振り払った。指が目に入り、私はひるんだ。

「いた…」

Iちゃんの手が水面下に向かう。

私は咄嗟に潜った。Iちゃんがどんどん深い場所へと吸い込まれるように、引きずられていくのを見過ごすことしかできなかった。

水中から顔を出すと、私は水面に浮かぶ、Iちゃんが首につけていたネックレスを拾った。彼氏とお揃いのものだ。

それをギュッと握り締めた。

Iちゃんは死んでしまった。私の目の前で、何者かに連れられて。

被害に遭いそうだったKちゃんのほうへいった。震えている。

「Iちゃん…」

隣りにいたTちゃんが悲しそうな声をあげていた。震えていたKちゃんが泣き出す。

周りの人たちが私たちのことを見ていた。

私は即座に警察に連絡し、Iちゃんの行方を探してもらった。

――…

あの日から何年経つだろうか。Iちゃんの行方はわかっていない。

なに一つ残っていなかった。

残ったのは、このネックレスだけだ。私はそれを彼氏のM君に渡した。

M君はそれを見て、彼女の名前を呼び続けながら泣き崩れていた。

Tちゃんの右足首に出きた痣は今だに残っている。前よりも色は濃くなっていて、時々痛みを感じるときもあるという。

これはあの海にいた女の呪いではないか、と思っている。TちゃんやKちゃん、Iちゃんになんの恨みがあったのかは知らない。

でも、人を殺すことだけは絶対に許せない。私は今もそう思っている。

: JHARD

怖い話投稿:ホラーテラー JHARDさん  

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