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中編4
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ホストを止めた理由

俺は2年ばかり関西の某ホストクラブにいた。

ホストって女騙して金貰うちょー楽な仕事だと思ってる人多いだろうけど、実際はみんな命削ってやってるんだ。

イッキ飲みしてトイレで吐いて、平然として席に戻り、またイッキ飲みしてトイレ〜これを10回近く繰り返した時はマジ死ぬかと思ったな。

関西は○クザも多いし、当然それ関係の客も多い。

「最近○○見んな」

「ヤバい女に手出してたから消されたんちゃう?」

そんな、本気とも冗談ともつかない会話もチラホラ聞いた。

ホストって○クザと似たとこあって、新人でも先輩に可愛がられればそこそこ生きていける。

飯オゴってくれるし、服くれたり、時には自分の客を恵んでくれたりする。

勿論本命は先輩で俺なんか眼中に無いわけだから、先輩に頼まれて仕方なく俺と先輩2人指名してくれるんだけど、これが結構大変なんだ。

先輩がいない間、その客を退屈させちゃあアウトだからな。まあ、本命が席に着けない間の面倒見料ってとこか。

俺は3つ年上のMさんには特によくして貰った。ホストの割にあまり欲のない人で、高いボトルを下ろそうとする客に

「無理せんでええで」

と、逆に止めるような所があった。それでも売上は常にベスト3には入ってたな。

(あの人が本気出したら誰も勝てないな)

たぶんみんなそう思ってたんじゃないかな。

忘れもしない。

入店して半年ばかり経って、俺にもボチボチ指名客が付き始めた頃、見たとこ四十過ぎくらいのおばさんが1人店に現れたんだ。

そのおばさん、いきなりMさんを指名して店で一番高いシャンパンを下ろした。一見の客でそんな事する事はまずなくて、強烈に印象に残ってる。

その月には、そのおばさん頻繁に現れては豪遊した。1日に一千万使った事もある。

Mさんによると某有名政治家の娘だという事だったが、俺は初めて見た時から内心疑ってたんだよな。

どう贔屓目に見ても金持ちには見えない。郵便局の職員が無理矢理厚化粧して着飾った感じ、とでも言おうか・・・とにかく貧相なんだ。

Mさんが席に着けない間は例によって俺が面倒みるんだけど、そのおばさんマジで先輩の事しか頭に無いんだ。

「Mって、本名は何?」

「Mって、客と寝る事あるの?」

「Mって、女と一緒に住んでるって事ないわよね」

「Mって、Mって、Mって・・・・・・・・・・・・」

俺は口元まで出てくる言葉飲み込むのにいつも必死だった。

(おばさん、鏡見てからもの言いや)

何度も食事に誘われたらしいが、Mさんは一度も店の外では会わなかったという。

「粘着質でホンマ気味悪いでえ、あの女、店に来る前から俺の事知っとったみたいやし、なんやしらんが初恋の男にそっくりなんやと」

Mさん苦笑してた。

予想通りと言うべきか、キャッシュでばんばん払ってたのは最初のひと月だけで、次第につけで飲む事が多くなった。客の未払いはホストが被るシステムだ。

Mさんは当然のように、おばさんに出入り禁止を告げた。

その時のおばさんの様子は、まるでオモチャを断られた幼児だった。恥も外聞もなく、おばさんは狂ったように泣き喚いた。

その後もちょくちょく店に来てたが、ことごとく追い返された。

「Mを出して!」

半狂乱の声が店内にもれてくる事もあった。

出入り禁止になって1年以上が過ぎ、おばさんの事も話題に上がらなくなったある日の夜。

突然おばさんが姿を現したんだ。おばさんというよりばあさんといった方がいいくらいヤツレてた。

つけ分を完済し、Mさんを呼んだ。大きめのバッグを開けて中身を見せてる。

「今日はたんまりあるわよ!」

おばさんが叫ぶ。ホストが周りを取り囲み馬鹿騒ぎが始まった。俺は嫌な胸騒ぎを覚えながらその様子を見ていた。

Mさんが甘いセリフでチークに誘う。が、Mさんは馬鹿じゃない。表情から、警戒しているのが手に取るようにわかった。

抱き合って踊り続ける2人。

俺は傍にいた新人ホストに「あの女、気を付けて見張っててくれ」と頼んで席を離れようとしたまさにその時、

「何すんねんコラア!」

Mさんの怒声が店内に響き渡った。

見るとおばさんが突飛ばされて、仰向けに倒れてた。どこから出したのかナイフを手に持っている。

それからはまるでスロー画像を見るように事が進んだ。

「キエー!」

おばさんは奇声をあげると、右手に握っていたナイフを左手の付け根に当て、力を込めて、ゆっくりと引いたんだ。

ざっくり切れた傷からは大量の血が噴き出した。

「キャー!」

店内が騒然となる。

「救急車!」

誰かが叫ぶ。

おばさんは白眼を剥いてて、すぐに痙攣が始まった。

(止血せな!)

俺はようやく現実に戻っておばさんの手首をワインに掛けてた布で縛った。

意識なんかない筈なのに、おばさんの声が耳に入ってくる。

「好き、好き、好き、・・・・・・」

救急車が去った後、椅子に座って呆然としていたMさんがおばさんの残していったバッグを開けた。

札束は十個あったが、十枚だけ本物を使った偽物だった。そしてその下から出てきたのは、顔にあたる部分にMさんの顔写真を貼り付けた藁人形だった。

その顔には、それまで見たこともない蛇のような形をした錆び付いた長い釘が刺さっていた。

俺はしばらくしてホストを辞めた。おばさんは助かったらしいが、病院を脱け出していまだに行方不明だそうだ。持ち物に身分証のような物が無かった為、一体何者なのか結局判らずじまいだという。

よく面倒をみてくれたMさんとは、今も連絡を取り合っているが、現在体調を崩して入院している。

「目やにが酷くて、時々錆びのような物が混ざってて痛くてたまらん」

Mさんの言葉が気になって仕方がない。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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