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中編6
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朝鮮壺 その弐 (こぴぺ)

前回の続き…

「…はぁアホだなぁ…」

私はため息をついた。

バカみたいに寒いロシアの田舎町に、その老人の家はあった。

老人は確かに朝鮮人の顔立ちをしていたという。

ただ、生まれも育ちもロシアだというのだから、老人が語ったのは父の祖父…つまりヒイヒイおじいちゃんの話だ。

その老人も90代というのだから、確かに時代は合っているようである。

老人はしわが垂れてわずかに開いた瞳で彼を見据えて、ゆっくりと話し出した。

わしらの先祖さんがこの国にやってきたのはもう1世紀以上も前の話だ、正直この話はあの世まで持っていくべきことなんだよ。

お前さん、知ってどうする? この世には知らなくてもいいことが山ほどある、その山の頂点に位置するだろうこの話を聞くというのなら、お前さんは地獄に落ちてしまうだろう、それでもいいのかい? もしかしたら、ボケた老人の戯言かもしれんだよ?

まぁ、いいさ…逆に知っておかなければならない話…かもしれん。

そもそもこの話は、わしは父から聞き、父は祖父から聞いた話だ、つまり曽祖父にあたる。

そうか、墓の山があったというのであれば…あの話は作り話ではなかったのだな。

正直、お前さんに話すのは何ももったいぶったワケではない、怖かったのだ。ずっと作り話だと…父がわしを怖がらせようと作った話だと思っていた。

それが…まさか…そうか本当にあったことだったとはなぁ。

わしは家族にも、誰にも話したことは無い、そもそもお前さんが現れるまでは忘れていたことだ。今さらとんでもない者が現れたもんだ…やれやれ。

わしの父の祖父は、小さな村に住んでいた。

貧しく苦しい生活だったらしいが、まあ当時としてはそれが普通だったんだろうよ。そうだな、仮に父の祖父の名をキムとしよう。

色々な人が集まり、様々な民族、人種が入り乱れる、当時の人間からしてみれば。よその人種というだけで争い、殺しあう。

山は1つの部族の集まりだ、だから隣の山は敵だらけなんだ。

キムはそう教えられた、その村人全員がそう教えられて育つ。おそらく他の山の集落でもそう教えていたはずだ。

だから基本的には生まれた山で過ごし、暮らす、自給自足が当たり前。だから下手に下界と干渉しないんだ。

キムはその日、畑を耕していた、いつものように畑で汗を流し、家族の元に帰る。

貧しく苦しいが、それでも幸せだった。

「山が燃えているぞ!!」

突然の村人の叫び、キムが駆けつけると遠くで山が燃えていた。

まずい、このままではあの山火事はここまで来る!

キムたち村人は総出で消火にかかった、川の水を汲み、火にかけるが…自然の力は本当に強かった、結局火は集落に流れ込み村が山が灰になる…その光景をただ見つめていた。

問題はそれからだ、早い発見で村人はほとんど逃げ出せた。隣の山の住民も逃げてきていた。

そして、地域一帯で唯一無事だった山がある、逃げ延びた人々はその山の集落に助けを求めたが…それは、他民族の山だったんだ。

殺されはしなかったが、扱いはあんまりだった。

男は毎日奴隷のように働かされ…女子供は…わかるだろ? まぁ、そういうことだ。

ただ、奴隷のように働かされるのは仕方が無い、しかし女性は妊娠しちゃうんだよ、もちろんコンドームなんてないし堕胎技術もない…産むしかない。

しかし怖いね

「他民族の子を孕んだだと!」

怒りに狂った男は、妻や娘を殺し、腹を割き 胎児を取り出しぐちゃぐちゃにつぶした。

それが1つの夫婦・親子じゃなかったから尚恐ろしい…。

んで、その胎児と女が例の墓になったか? 違う、墓なんて立派なものじゃない。

壷に溜め込んだんだ…なぜ壷なのかわからない。ただ、殺した女子供は壷に流した。

(キムたちのいた山では壷は邪悪なものを封じる魔よけのような物だったんじゃないだろうか? と友人は仮定してる)

女と子供は数えるほどしか残らず、女はいつ妊娠してしまうか震え、憎い憎いその他民族に抱かれる日々。

そしてある日…他民族の子供が壷に近寄ってきた「これなあに?」と聞いてくる。

「幸運の壷さ」とウソを教えると、子供はその壷を持って帰っていった。

ちなみに、ヤツらはこの壷の中身は知らなかった。

女が殺されているのは、日に日に減っていく数を見れば分かったが、まさか壷に入れてるなんて思ってなかったんだろうな。

その壷のつくりは何か特殊で、どうやら簡単に開けられないような仕組みらしい、詳しい事は分からないがそういう壷らしい。だからバレなかった。

次の日から、不思議な事が起こった。

他民族の家から叫び声が聞こえ、その家の子供が死んでしまったのだ。壷を持って帰った子だ。

そしてその家の妻、隣の家の子と…次々に他民族の女子供が死んでいったらしい。

キムたちは「我ら部族の呪いがヤツらに降りかかったんだ」そう思ったが、そういうわけではなかったんだ。

キムのまわりの女性や子供も死んだんだ。…おかしい、やはり実際に殺した我々も恨みの対象なのか…。

しかし、よくよく考えると女と子供ばかりが死ぬんだ。男性は無事なんだ。

そこでわずかに生き残った女子供をつれて村の大半がついに逃げ出した。

奴隷に逃げられようと他民族はそれどころじゃなかった、大切な跡取りが次々と死んでいく。

これは間違いなくキムたちが何かをしているに違いない。と、気づいた時には後の祭り、キムたちはすでに逃げていたんだ。

逃げ延びた先が、例の山さ。そこで再び生活を始めたキムたちは、今回のこともあり、他の集落ともできるだけ仲良くするようになった。

苦しいときは助け合い、笑い合うようにすると。そして貧しいけど、またつつましい生活が始まった。めでたしめでたし。

…とは、いかなかった。例の他民族がやってきたんだ。

男だけになった彼らはニタニタ笑っていたそうだよ、何せ分かったんだからね。

呪いの正体、それは例の壷だったんだよ。

彼らは壷の中身を無理やり調べたんだろう、子孫を殺す呪いの壷。

そして壷はパワーアップしてたんだ、どうやら壷の中身が多いほど…強いんだ。だから彼らはその壷で死んだ我が子、我が妻をたっぷり入れてね。

あとはもうグダグダさ。呪い呪われ、死んで壷に流して。

その話が都のお偉いさんの耳に入り、役人が来たときにはすでに、女と子供が消えていたんだ、その村から山から地域から…ほとんどね。

男たちは都へ連れて行かれ処刑され、女と子供の怨念を恐れた都の人はそれぞれに墓を作った。

そうなる前にキムたち含むわずかな生き残りは北へ北へと逃げていったそうだ。

気味が悪い話だよ、飢饉で子供を食った話とか色々聞いてきたが、この話だけは何か…気分悪ぃぜ。

しかし壷はどうなったんだろうか。ま、恐ろしいものだから、国に処分されたんだろう。

友人が「え?」と聞き返してきた、私はもう一度聞いた。

「本当に壷なのか?」

「う〜ん、まあ壷だって言ってたと思うぜ」

「壷じゃなくて箱じゃないか?」

「え? なんでよ…別に壷だろうが箱だろうが、とりあえず入れ物だろ?」

「だって、しってるよ…その壷…というか箱」

「あ? マジかよ!!」

「うん、その壷(箱)の作り方知ってる部族の人、多分日本に来たことあるんじゃないかな?」

「…え…」

「しかも、日本でソレ作ったんだよ」

「…え…ウソだろ、なんでお前が知ってるんだよ!!」

「うん、オカ板で一時期流行ったんだ」

「…? 何が?」

「コトリバコ」

………この話………

嘘か? 真実(まこと)か?………

怖い話投稿:ホラーテラー 雫(こぴぺ職人)さん  

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