私は以前、生命保険の営業をしていました。
その時に、1年先輩の方から聞いた話です。
先輩と同期入社で、別の支部で働いていた女性(Aさんとします)の体験。
ある日Aさんは、自分の担当地区内を、一人で飛び込み営業していました。
あるアパートの一室を訪ねると
「保険の説明を聞きたい」とのことで、家に上げてもらうことができました。
Aさんはとてもうれしかったそうです。
私にも経験があるので、気持ちは良くわかります。
飛び込みの営業などしても大抵は門前払い。
「○○生命ですが…」
と言っただけで
「ウチは結構です」
と、インターフォンは切られてしまいますから。
なのにそのお宅のご夫婦は二人とも優しく良い方で。
保険の設計書を作るのに必要なアンケートをすんなり書いてくれ
「保険に入りたいから、次回はプランを作って持って来てください」と。
(これは契約がいただけそうだ…!)
Aさんは喜んで会社に戻りました。
数日後。
保険の設計書を持ち、アパートを訪ねましたが、お留守。
せっかくの見込み客なのでその後もマメに足を運びましたが、アパートのご夫婦はいつも留守でした。
しばらくして、Aさんは新聞で衝撃的な記事を見つけました。
そして、いくつかのことを理解したと。
あぁ、だからご主人は、奥さんを保険に入れたいと言っていたのか…
最後にアパートを訪れた時に漂っていた、
あの今までに嗅いだことのない嫌な臭いは、
このせいだったのか…
『アパートの一室で女性の遺体が見つかる。
犯人の夫は、遺体を押し入れに隠していた』
この事件がきっかけで
Aさんは、仕事を辞めたそうです。
仲がよさそうに見えた夫婦と、アパートの前で嗅いだ異臭。
嫌な記憶が忘れられなくて営業に回ることが、できなくなってしまったと。
怖い話投稿:ホラーテラー ROSYさん
作者怖話