「どうしたの?」
河原に一人体育座りをしている少年に、少女は話しかける。
『何か、大切なことを忘れてるような気がするんだ。』
少年は、石を川に投げ入れ、答えた。
「思い出せないの?」
『………うん。』
寂しそうにうなずく少年。
『君は?』
「おばあちゃんとこに、行くところ。ずっと入院してて、会えなかったから。」
『そう。おばあちゃんも喜ぶね。』
「…そうかなぁ?」
『きっとそうだよ。僕のおばあちゃん、2年前に死んじゃったから…。』
「……あ、ごめんね……。」
うつむいて謝る少女。
『ううん。いいんだ。』
「忘れてること、一緒に考えよっか?」
『ほんと?ありがと!』
それから、少年はいろんな話をした。
学校のこと
親のこと
友達のこと
大好きな野球のこと
最近覚えた歌のこと
少女は優しく頷きながら、黙って聞いていた。
どれぐらい時間がたっただろう。
それでも少年は、忘れていることが何なのかを、思い出せずにいた───。
「ごめん。そろそろ、行かなきゃ。おばぁちゃんが心配するから。」
申し訳なさそうに、立ち上がる少女。
『そうだね。話を聞いてくれてありがと。またね!』
「まだ帰らないの?」
『帰るって?』
「決まってるじゃない!」
突然少女は立ち上がり、少年の頬を平手打ちした。
『なにすんだよ!僕が……………。』
少女を睨んだ少年の言葉が止まる。
少女の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
『そっか!僕は……。』
全てを思い出した少年は、その場から駆け出した。
その少年の後ろ姿をじっと見守る少女。
しばらく走った少年は振り返り
『ありがとう!!』
大きく手を振っている。
少女は、少年が帰っていくのを嬉しそうに見送っていた。
そして、
「さぁ、そろそろ行きましょうかねぇ。」
老婆に手を引かれ、少女は川の中へ歩いていった──────。
「先生!患者の脈拍がもどりました!」
「よし。ボスミン心注の用意!メイロンを側管から10ml打て!」
僕は
まだ
生きたいんだ!
時を同じくして
その病院では
一人の少女が
家族に見守られながら
静かに息をひきとった
三途の川で会った少女
十年にも及ぶ
病気の苦しみや
薬の副作用からくる
吐き気や激痛に
その小さな体で
耐え抜いてきた少女は
その壮絶な闘いとは裏腹に
安らかな笑顔を浮かべていたという
誰もが皆
朝、目覚めたときに
忘れていることがある
こうして
今日も
生きている
ってこと───。
故川村カオリさんの言葉
『明日が来るって
奇跡なんだ!』
怖い話投稿:ホラーテラー ソウさん
作者怖話