暑い夏の夜。
誰かが言った。
「プールに行って泳がへん?」
週末の夜になると勝手に俺の部屋に集まっては酒を飲みながらテレビを見たりして過ごすメンバーの一人が言いだした。
「あっ、それええやん。」
酒もいい感じでみんなテンションも高く、卒業した地元の中学校のプールに向かう事になった。
「卒業してからもう十四年か。」
「時間がたつのは早いもんやなぁ」
「そう言えばお前あの頃、、、」
と、好きだった女の子の話しをしたり、悪さをした話などをしながら学校に向かった。
学校までは家からは歩いて三十分位のところにある。
田んぼが挟む真っ暗な道をぽつんぽつんとてらす街灯と下弦の月がやさしくてらす道に笑い声が響いた。
家から駅に向かう反対のところにあるので普段近くを通ることもなく、みんな卒業して以来だったみたいだ。
「うわ!変わってねーなぁ。」
「むっちゃ懐かしいやんけ!」
懐かしい景色と酔っていた事もあり、叫び出す奴もいた。
「おいおい、中に入ったらあんまりでかい声だすなよ!通報されんで」
誰かが注意した。
「そうやな。もうええ年やし、警察に追っ掛けられたらかなわんしな」
「むっちゃかっこわるいやんけ」
そう言いながら学校に入っていった。
「最後の奴は門をちゃんと閉めとけよ」
正門は鍵が掛かってなかったから手で門を開けて入れたがプールはしっかり鍵がかかっていたためフェンスをよじ登った。
先に下りた奴から走りだし、短い階段をかけのぼってプールサイドで服を脱ぎ飛び込んでいった。
「むっちゃ気持ちええ」
「痛て!」
「よいしょー!」
「おりゃー」
「アムロ行きます!」
???
誰かが背中から飛び込んだみたいだ。
「アホちゃうか!痛いに決まってるやろ」
酒とプールには勝てなかった。結局みんな騒いだ。
泳いだり、水をかけあったり。
どれくらい時間がたっただろうか。
煙草を吸うためにプールサイドにあがった。
「煙草吸ってくるわ」
月明かりの下でみんなはしゃいでる。
「パンツ脱がしてやれ!」
煙草を吸いながら眺めていた。
『潜ってるあいつは何やってんだよ。アホなことしとるなぁ』
『?????』
『一人多い?』
『まさかな。酔ってるんかな』
いやいや、今日集まったのは五人のはずだ。
脱ぎ捨てられた服を数えた。
『一、二、三、、、四、五』
確かに五人だ。
来る途中で誰かが加わったりもしていない。
先に誰かがいたわけでもない。
もう一度みんなの数を数えた。
水の中に五人いる。
『やばい!』
俺たち以外の何かが水の中にいた。
「早くあがれ!警察が来た!」
「まじで!?」
「逃げんぞ!」
とっさの一言だったがみんな急いでプールから出た。
服を持ち走った。
「こっちや!」
一人が更衣室のプレハブの裏の草むらに入っていった。
「ここに隠れんぞ!」
その言葉につられみんなプレハブの裏に走った。
『そうじゃねーよ!』
そう思いながら一緒にプレハブの裏まで走った。
プレハブの裏には五人。
俺を含めてちゃんと五人だった。
『さっきの一人はなんやったんや!?』
「おい!お前びびりすぎやろ!」
言われて気付いた。
震えていたようだ。
「ここおったらみつからんて」
「警察も逃げたと思ってどっかいきよるって」
『違う!そうやないんや』
「警察ちゃうねん!」
「あっ、靴一個落としてしもうたわ」
同時に誰かが言った。
靴を落としたらしい。
「え?警察きたんちゃうんかいな」
「びびらせんなよ」
「なんやねん」
「そんなら戻ろうや。はしって損したわ」
口々に文句を言われた。
「ちょっと待ってくれ」
「話を聞いてくれ」
プールの中にもう一人誰かがいたことを話した。
みんな信じてはくれなかった。
「まぁええわ。結構遊んだし帰えろか。」
「とりあえず靴とってくるわ」
「ちょっと待ってくれ!」
「とりあえずみんなで戻ろ。服着るのは後にしてくれ。頼むからあいつ1人でいくのだけは勘弁してくれ」
「わかった、わかった」
「おーい、待てや、俺らも行くから」
「ん。」
後を追った。
『まだおったらどないしよ』
『頼むから消えててくれ』
『笑い話で終わってくれ』
『湿気た言うて文句言われてもええから。』
「逃げろ!」
「え!?」
振り向きざまに走りだした。
プールサイドから五段ほどの短い階段を飛んで下りてこっちに走ってくる。
「なんやねん!」
「わけわからんわ!」
ただ、さっきの俺の警察や!とは違いやばいんやろなってみんなが思った。
「幽霊か!?」
「ええから走れ!!」
『さっきのやつがまだおったんや』
濡れたトランクス一枚で走った。
服を投げ捨てフェンスを越えた。
一目散に走った。
グランドを走りぬけ正門をよじ登った。
冷静に重い扉を開けようとは誰も思わなかった。
自動販売機のある明かりまで走った。
「もう何も追っ掛けてきてないって」
「休も」
「もう走れへん」
「痛っ!うわ。血が出とる」
「うわっ、俺もや」
「痛っ」
下り坂勢いよく裸足で走った為、足からはみんな血が出ていた。
「で、お前らは何を見たんや!?」
「誰かおったんかいな!?」
「一人ちゃうやんけ!むっちゃおったわ!!」
『どんどん集まっていたようだ』
「俺が見たときは一人増えとっただけなんや。」
そいつが言うにはプール一面に人がいっぱい浮いたり沈んだり。
麦ワラ帽子をかぶったおっさんがプールに浮かぶ裸の人間を棒でつついて水の中に沈めてたらしい。
「しゃれにならんな」
「でも、まぁ、この年でトランクス一枚で走り回ってるのもしゃれにならんわ。」
「アホ言うな!お前は見てへんから!」
とりあえず陽が昇ったら戻ることにした。
学校で事故があったり、幽霊が出たなんて話は聞いたことなかったから明るくなったら大丈夫だろうと。
まだ酒残っていたからか強気だったのかもしれない。
「プールに入った時は大丈夫やったし、夜遅くに集まってくるんちゃうか」
と、言うことで二時間位自動販売機の前で朝が来るのを待って陽が昇ってきてから学校に戻った。
一人がフェンスの上によじ登ったところでプールを覗き何もいないことを確認した。
「何もおらんわ」
「ほんまにさっきおったんかよ」
「まじでやばかったって。この年じゃなかったら泣きながらパンツ一枚で家帰っとるわい。」
フェンスを越え、さっき投げ捨てた服を拾い服を着た。
「あっ、俺の靴の一個プールサイドんとこや。みんな一緒に来てくれ」
「びびってるんかよ!」
「いやいや、まじで頼むわ。ってか、お前もさっき逃げとったやんけ」
「まぁ、ええわ。みんなでいこ」
明るくなったらプールは先程とはまったく違う景色に見えた。
「あった、あった。ってか、何でこんな水ギリギリんとこにあんねん。ってか濡れとるし」
「うわっ、何やねんこれ!!」
靴には大量の髪の毛が絡まっていた。
気持ち悪かったが、朝になってた事もあり逃げる程の恐怖はなかったので、靴は捨てたが逃げるわけでもなく歩いて帰った。
足が痛かったのもあるし、夜中の恐怖に比べたらたいしたことないと思った。
後々にわかることだが、今ある学校は戦後に医療関係の施設として建てられたらしい。
そこで人体実験や解剖がおこなわれていたと。
死んだ人が腐らないようにプールにホルマリンを入れ人を浸けていたそうだ。
浮いてきた人を棒でつつき腐らないように沈める。
麦ワラのおっさんは当時、浮いてきた人を沈める仕事をしていた人なんだろう。
それにしても、靴にからんでいた髪の毛は何だったんだ。
あのまま気づかずに遊んでいたら死んだ人に囲まれて、麦ワラのおっさんに棒で沈められて死んでいたのかもしれない。
そんな施設を改築してある学校で、今までプールで事故がなかったのを不思議に思う。
もう二度と夜の学校にはいかないし、プールにも行かない。
この前会ったときに話してくれた。
靴を捨てて帰ったあいつは何度も同じ夢を見るらしい。
水がつまったからと、配水管の工事に呼ばれ行ってみると医療施設の建物で、どうやっても水がうまく流れない為、配水管を外してみたら中から内蔵が出てくるそうだ。
パイプが内蔵でつまっていて水がうまく流れなかったのだと。
窓の外を眺めたら麦ワラのおっさんはが棒で押さえて沈めている。
おっさんがふと顔を上げ目が合うのだと。
いつもそこで目が覚めるのだそうだ。
学校のプールでは今夜も夜中には麦ワラのおっさんが死体を棒で沈めてホルマリンに浸けているのだろう。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話