続きです。また長いです。
今回から後編です。よかったら読んでください。
続き・・・
「ノートがこんなに・・・手紙まで・・・」
僕はノートと手紙の入った箱を床の上に置いた。
ノートの数は全部で42冊。
1と書かれたノート(以降1ノートとする)が21冊。
2と書かれたノート(以降2ノートとする)が21冊。
手紙は束でまとめられており、21束あった。
「冷静になれ、冷静になるんだ僕。」
僕は頭がパニックになりそうだったが、ただ今起こっているこの現実を理解する努力をした。
送り主のノートの内容を見る限り、1ノートは手紙が来ている時の日記ノート。
2ノートはここに住んでから書いた日記のノート。
それは間違いない。
送り主は「全ての日記」、「僕たち」と書いていた。
という事はこの沢山のノートは僕が書いたノート。
送り主、いや僕は複数いた事になる。それも間違いないだろう。
送り主の事を踏まえると1ノートと2ノートで一人の僕だ。
という事は僕は21人いた事になる。送り主を合わせれば22人。
「まさか僕は・・・23人目の僕という事か。」
こんな状況なのに頭が回ることは喜ぶべきなのか。
僕ってこんなにも頭がキレる奴だったのか。
少し自分に驚いたがこんな事思っている暇はない。
僕が22人いたことは分かった。問題は日記の内容だ。
まず送り主に手紙を送っていた僕のノートを読むんだ。
僕の日記と送り主の日記とは違う点がいくつかあった。
例えばAだ。Aは送り主の日記には書いていない。
送り主は「確実に未来は変わってきている」と書いていた。
だから送り主の日記と送り主に手紙を送った僕の日記とでは内容が違う所があるはず。
「このノートの中から探すのは大変・・・ん?」
僕は見つけた。各ノートの裏表紙に番号が書かれていた。
という事は・・・
僕は送り主のノートを手に取り調べた。
書いてある。番号が。
「何で気が付かなかったんだ。」
先ほど頭がキレると言ったがやはり違った。
でも僕はノートを読む事に気を取られ、裏表紙の事など気が付かなかった。
それは仕方がない事だろう。
送り主のノートにはNO22と書かれていた。
1ノートと2ノートにも。
という事はNO21のノートを探せばいい。
「あった。NO21。」
僕は急いでNO21の1ノートと送り主のノートを照らし合わせる。
NO21の1ノートも最初は4月1日の日記が書いてある。
内容は送り主と同じだった。
僕は黙々と読み、照らし合わせる。
そして最後の日記にたどり着く。
3月12日の日記。内容は送り主と同じ。
やはり所々違う点はあった。僕の憶測は間違ってなかった。
僕は次にNO21の1ノートとNO20の1ノートを照らし合わせた。
やはり日記は4月1日から始まっている。
内容はNO21と一緒。
そして3月12日に終わっている。
内容はNO21と一緒。
でも所々違う点もある。
僕はもう何かに取り付かれたようにこの作業を繰り返していた。
辺りが暗くなってきている事など気が付きもしなかった。
僕はNO2のノートとNO3のノートを照らし合わせ終わった。
僕は最後のノート。NO1のノートを読む前に少し休むことにした。
疲れたのもあるが、最後のノートを見るのが怖かったのだ。
NO1のノートにはこの出来事の始まりが書いてある。
それを読むのが怖かった。
だってそうだろう?
この出来事の始まりを知るということは、つまり。
なぜこんなことになっているかを知ることである。
それにそれを知るには心の準備が必要だったんだ。
僕は今までのノートを読み、気付いたことがある。
確かに所々違う点がある。でもどのノートにも共通な点が3つある。
1つ目は、日記は4月1日から始まり、3月12日で終わっている事。
2つ目は、4月1日の日記の内容と、3月12日の日記の内容だ。
4月1日に部屋を手に入れる事。
3月12日に最後の手紙と鍵が来ること。
これは僕にも言えることだ。
そして3つ目、それは誰の名前も書かれてないという事。
それが衝撃的だった。
日記なら誰かしらの名前が出てきてもおかしくないだろう。
でも今まで読んだ中で出てきたのは上司の事や、会社の同僚の事だけ。
そう、友人との思い出や、彼女との思い出など一切書いていない。
書いてあるのはただ「上司」、「同僚」という言葉だけ。
特定の人物が出てこないのだ。
僕はAという友人に出会った。
そのことは今の日記にも書いてある。
彼女はいないから書いていないが。
じゃあこれらの日記を書いていた僕には友人や恋人と言う存在がなかったのか。
ずっと一人ぼっちだったという事か。
「誰にも相談なんか出来ずに、一人ぼっちで・・・
一人ぼっちで生きていたのか・・・
あんな不思議な手紙が送られてきて怖かっただろうに・・・
でも一人で頑張って生きていたんだ・・・
逆に嬉しかったのかな・・・
知らない相手とはいえ、自分の為に手紙を書いてくれる。
応援してくれる。それだけでこころ強かったのかもしれないな・・・
そりゃ信じるさ。だって初めて自分を心配、応援してくれる存在に出会ったんだから。
僕でもそうしてる。いや、僕でなくてもそうしてるよ。
なんて・・・なんて辛い思いをしてきてるんだ・・・
僕なんかいい方じゃないか。Aが・・・Aがいるから・・・
うわあああああ・・・・」
僕は泣いた。号泣した。だってそうだろう?
こんなに悲しい事なんてあるか。
あんな手紙が来ても相談なんかする人がいない。
言いたくても言えない。
こんな事他人に言っても馬鹿にされるだけ・・・
手紙を見せても筆跡が同じだから自分が書いたんだろと言われる・・・
今まで読んだ日記の中にも耐えられず、誰かに言った事が書いてあった。
案の定、馬鹿にされ、信じてなんかもらえてなかった・・・
これから起こる事を話し、実際起こっても。
気持ち悪い、近寄るな、ただの偶然だ。
と言われる始末・・・
これも日記に書いてあった。
信じられるのは自分と手紙の送り主だけ。
だから最後の手紙が来たときに、会いたい、お礼が言いたいと強く思ったのだろう。
その点、僕はどうだ?
ただ手紙を便利だと思い、送り主に感謝の手紙も送らないで。
今日だって
「どんな奴か知るチャンスだ。一言お礼くらい言うか。」
と、思って来ただけだ。
でもこの21人の僕は、本当に送り主の事が知りたくて、お礼が言いたくて来たんだ。
僕はAが居たから・・・Aが居てくれたから相談も出来た。
Aが居たから楽しい思い出も出来た。
Aが居たからあんなに充実した毎日が過せたんだ。
「A・・・本当にありがとう・・・。僕と友達になってくれて。」
この時程、僕は友人という存在に感謝したことはないだろう。
思えば僕に友人なんて今まで居なかった。
元から内気な性格で、周りにも馴染めずにいた。
両親を早くに亡くし、そのせいでもっと内気になった。
顔は覚えていない。
死んだ理由も覚えていない。
僕はこの頃の記憶が全く無い。気が付いたら病院にいた。
そしてそのまま施設に連れていかれた。
その時僕は4歳になっていた。
そして覚えているのは父親は作家だった事、歳は23歳という事。
そして大好きだったという事。
これだけだ。
施設でもいつも一人で過し、学校でもいつも一人。
ただ時間があれば、小説を書いていた。
いつか父親のようになりたい、そう思っていた。
小説を書いている時が一番幸せだったんだ。
そのせいで「暗い」、「キモイ」など言われいじめられもしたが。
いつかこいつらを見返すような小説を書いてやる。
そう思い生きてきた。
お金なんてない。大学は国立を狙い、必死に勉強した。
「父さんのようになりたい。」
その理由だけで大学に入学した。
もちろんお金はないから奨学金制度を使って。
就職はとても難しかった。こんな内気な性格だ。
企業に面接に行っても上手く喋れず落とされる。
自己アピールが出来ないのだ。
何社も落ちた。そしてやっと今の会社に就職できた。
人手不足が理由だが。
そのため物件を探すのが遅れたのだ。
日記は物件が決まってから始まっている。
以前書いていた日記はこの就職を機会に自分を変えようと思い、全て処分した。
今までの自分をリセットしたかったのだ。
それはどの僕も一緒だろう。なんたって僕なんだから。
NO1~NO22と書かれたノートしかないのだから。
もし残していたらここにあるだろう。
だから22人いる僕と僕とではこれまでの人生は同じだったと思う。
違うのは物件が決まってからの僕の人生だ。
だから友達という存在は僕にとってAが初めてなんだ。
僕はAが友達になってから変われたと思ったんだ。
今まで生きてきた中で一番嬉しかったと思う。
そして僕はついにNO1のノートを手に取る。
そこには思っても見なかった事が書いてあった・・・・
「4月1日僕はAと一緒にこの物件を決めた。
探していた家具付の物件じゃないが・・・
Aとは面接の時に会い、仲良くなった初めての友達だ。
Aはこんな僕に話しかけてきてくれて、彼も小説家を目指しているらしい。
そんなこともあり、僕たちはすぐに意気投合した。
そしてAが一緒に物件を見に行こうと言い出し、ここに決めた。
Aが「ここがいいんじゃない?」
と僕に勧めてきたからだ。
それで決めたんだ。
Aとはずっと友達で居たいな。
やっと僕も社会人。
夢に向けて頑張るぞ。」
!!!!!!
「Aが・・・Aが居る。何でAが・・・」
僕は思わずノートを閉じた・・・・
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話