父と母が体験したことです。
北海道の玄関口、新千歳空港からほど近い牧場に用事があり、出かけた帰り道のことです。
ドライブも兼ね、見知らぬ町並みに車を走らせ楽しんでいると、前方に趣き漂う洋館が見えてきました。
洋館と言ってもそれほど大きなものではありませんでしたが、永らく手入れがされていないのか廃墟とまではいかなくても空き家という雰囲気が漂うものだったそうです。
車を停めて観てみると、売家の看板が出ていました。
見学したい方はこちらにお電話を、と不動産屋の電話番号が書かれていたのですが、入口の鉄門に鍵が掛かっていなかったこともあり、ちょっと敷地に入り窓の外から家の中を覗いてみることにしました。
庭の中ほどに入り込み、窓を覗き込むとそこは書斎か応接室なのか高級そうな絨毯が敷いてあり重厚感のある机や立派なソファーが並んでいて、それを見た母は「へぇー家具なんかが残ったままなんだ」と思ったそうです。
そのまま部屋の中を覗き込んでみると奥の方に、品の良い感じの年配の男性の姿が見えました。
その時母は、「あ、まずいまだ人が住んでいたんだ」と考え、後ろにいた父の手を掴み「人がいるから早く出よう。」と声をかけ、急いでその場を離れました。
車に戻り急いで発進すると、父が「人なんか居たんだ、俺からは見えなかったけど……」といい、母は「えっ、そうだった?でもあの部屋立派だったわね。」と返しました。
すると父は「そうだったか?がらんとしてたし、部屋の奥の方になんかステージみたいな段差みたいなのがあっただけの汚い感じの部屋じゃなかったか。」と言いました。
お互い何か噛みあわないものを感じ、自分の見たものをそれぞれ話すと父と母は全く違う光景が見えていたそうです。
母が見たのは、歴史を感じる重厚感あふれる立派な洋室。
父が見たのは、ダンボールなどが転がっていてがらんとした正に空家という風な汚い部屋。
多少立ち位置が違ったとはいえ、見間違いという言葉で表すにはあまりにあり得ない程のくいちがいに父と母は唖然としたそうです。
慌てて、車を翻し洋館の近所まで戻ってみましたが夕暮れ時になっていた事や、本当に人が住んでいたらどうしよう……という事もあり、そのまま家路につくことにしました。
この話を家に帰ってきた後に、僕と妹に聞かせ何だったろうという話になり、後日明るい時間に皆で出直してこっそり覗いてみたところ、そこにある光景は父の見たものそのもので、家具などはなく絨毯も敷いてありませんでした。当然の如く人が住んでいるであろうはずもありません。
あの時母が見たのは往時の家の光景だったのか、ただの見間違いだったのかその答えは定かではありません。
長文失礼いたしました。
怖い話投稿:ホラーテラー rokiさん
作者怖話