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共同戦線スピンオフ−カール編終−

中編6
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共同戦線スピンオフ−カール編終−

何故、住所のとこだけ マジックで消されているんだろうか?

透かしてみたが はっきりしない。

マジックならもしかしたらと、ゆうや君の母親の徐光液を借り使ってみたが、その部分だけ破けてしまった。

名簿の紙はあと二枚。

慎重にやらなくては…。

だけど どうしたらいいのか…。

もう一度透かして見た後

……これ、マジックじゃないな……と気づいた。

マジックじゃないとすると…

「これは 墨だ。」

そうだったのか。

それなら…!

僕は洗面所へ行き、ティッシュを濡らして固めに絞ってから、黒く塗られた部分を拭いてみる。

すると墨は溶け、紙はみるみる灰色に染まった。

「……見えた!」

はっきりとではないが、住所を読む事はできる。

名簿を見てみると、ここからはかなり遠い所だとわかった。

……明日行ってみよう。

必ず何かあるはずだ。

あの女に繋がる何かが………

次の日僕は、その住所が書いてあった所へ向かっていた。

人に聞く事が出来ないので、なかなか難しい。

しかし周りには何もない、辺鄙なとこだ。

まるでここだけ開発されていないかのように。

しばらく道なりに進むと、遠目だが一カ所だけ暗い場所がある事に気づいた。

あれは…?

近づくにつれて、そこだけ空気が澱んでいるのがわかる。

雑草だらけだが、そこはかつて家が建っていたんだろう。

火事で焼けたのか、あちこちに煤けたような跡があった。

そこに…四人の霊がいた。

老婆と中年の男性…。まだ小学生くらいの子供、か?

老婆と男性は、もう話しができる状態ではなかった。

意思もなく、ただ何かに怯えているだけだ。

子供も、兄の方は老婆と男性のように黒く染まり、何かをぶつぶつと呟いている…。

しかし一人だけ、七歳くらいの女の子だけが 僕をじっと見つめていた。

「君は…僕の言っている事がわかるかい?」

……………………。

「ここは君の家?」

その子は こくんと頷いた。

よく見ると顔や首、至る所に穴があいていて 痛々しい…。

一体何があったんだ!?

「あのね、君に聞きたい事があるんだ。」

僕が言うと、女の子はおずおずと近づいてくる。

女の子の目線までしゃがみ、

「君のお母さんの名前を教えてくれる?

もしかしたら、この人じゃないかな。」

僕が、あの写真を見せると 彼女に異変が起きた。

「ああぁぁあああぁぁぁ…」

ガタガタと震え、頭を左右に激しく振り出した。

「イヤ、イヤ、イヤァァアアア!!」

するとその声に反応した三人も

「ヤメテェ!タスケテ…」

「ゴメンナサイ!ゴメンナサイ…ユルシテ オカアサン!」

「オネガイダ…!コドモタチダケハ…!アア!ヤメロー!」

と口々に叫びだす。

そして、風が巻き起こった次の瞬間には 四人は掻き消えてしまっていた。

間違いない!

ここは あの女の家があった場所で…あの四人は家族だ。

その家族をあいつは、殺したに違いない。

なんて恐ろしい…!

焼け跡に立ち尽くしていると、何か光っている物が 地面に刺さっているのを見つけた。

なんだろうか…?

アイスピック?

いや…飾りは取れてしまっているが、かんざしのようだ。

手に取ってみると、ビリビリと痛い程に悲しみと恐怖が伝わって来て、思わず落としてしまった。

これは…あの子達を殺した凶器だ!

黒い気を纏うように見えるそれは、怖い程に冷たさを放っていた。

僕はあの後、交差点へと来ていた。

あの女はいない。

でも かなり近づいたはずだ。僕は、この一年を振り返っていた。

皮肉な事に、死んだからこそ 僕はここまでやってこれたのだ。

あいつに対しての恐怖心もない。

勝てる自信なんてないけど…必ず一矢報いてやるんだ!

僕の全てを賭けて………

家に戻り、ゆうや君の部屋で本を読んでいると 朝日が差し込んできた。

もう、朝か…。

時間の概念が薄れてるせいか、一日がやたらと早く過ぎていく。

「あれ?カール、帰ってたのか。オッサンは?」

「おはようございます、ゆうや君。

おじさんは見かけませんでしたよ?」

その時、彼の顔色がひどく悪い事に気がついた。

「そうだ!チョビを見なかったか?」

「いいえ…見てないですね。

何かあったんですか?」

ゆうや君の顔を じっと見てみる。

彼がこんなに怯えているのを、僕は初めて見た。

しかし

「実は昨日………」

そう語りだした内容を聞いて、今度は僕の方の血の気が引いた。

聞けば聞く程、彼の話しに出てくる女は…シノだ!

なんて事だ。よりによってゆうや君があいつに…!?

ダメだ!のんびりしてる暇なんてない!!

僕は出かける事を告げ、あの場所へと急いだ。

シノの家へ………!

あの場所に、女の子達はいた。が、僕に気づくと 怯えて後ずさってしまう。

「待って!待ってくれ!お願いだ…君しかいないんだ!」

しかし、悲しそうな顔をしながら 彼女達は消えてしまう…。

現れては消え、現れては消え…一体何度繰り返しただろうか。時間ばかりが過ぎていく。

「お願いだよ!時間が…時間がないんだ!

頼むから、僕の話しを聞いてくれ……。」

僕はとうとう、地面に突っ伏し 土下座をして頼み込んだ。

「僕の大切な人が殺されるかもしれないんだ…。

た、助けたい、んだ…!

僕に、力を、貸してくれ…!」

涙が溢れ、上手く言葉にならない。

その時、肩にそっと手が触れた。

顔をあげると 女の子が目の前にいた。

「…あれを持って行って…。」

彼女が指差したのは、あのかんざしだった。

「あれでお母さんは、あたし達を殺したの。

その後、自分を刺して…お母さんは…」

指先は震え、目には涙が溢れている。

きっと思い出す事さえ、恐ろしいに違いない…!

僕は思わず 女の子を抱きしめた。

「もういい!もういいんだ…。ありがとう、本当に……。」

そう、僕が聞きたかったのはそれだった。

どんな霊体だって、自分の死因になったものは怖いはずだ。

それが弱点に必ずなる!

「お母さんを…止めて?

お願い…!」

僕は頷き、かんざしを拾うと急いでゆうや君の元へと向かった。

頼むから、間に合ってくれ!

もう、日が暮れている。

急がなくては……!

僕が家に着いたとき、ちょうどゆうや君達が 玄関から転がり出た所だった。

良かった!まだ無事だった!

走っているゆうや君に、真っ直ぐ走るように指示を出す。

このまま、あの交差点へ誘い込んでやる。

昨日あそこへ行ってみて、先の道路が工事中なのは調査済みだ。

車は来ないから、ゆうや君に危険が及ぶ事はない!

そのまま走り続け、あの場所へ着く。

あいつは必ず来る。

僕には確信があった。

何故ならあいつが、狙った獲物を逃がす事は絶対にないからだ。

あの命が助かったと思った男の子も、意識を回復した翌日に 病室から飛び降り、謎の死を遂げている。

シノがやったんだ!僕にはわかる。

一瞬、全ての音が消えた時 静かに奴は 姿を現した…。

シノ!! 今、その嫌らしい笑いを消し去ってやる…。

そして僕の…いや、僕達の 最後の戦いが始まったのだった。

あの長い長い夜を征したのは、結局僕達だったらしい。

情けない事に、途中からの記憶がない。

でも、今ここに みんなの笑顔がある。

それが、僕の守りたかったものの………全てだ。

僕は、死んでから初めて神に感謝した。

大切な友達を…奪わないでくれて ありがとう、と。

怖い話投稿:ホラーテラー 桜雪さん  

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