ちょうど1年前の今頃。
雪の降っている夜でした。
とても寒かったので、時計のアラームをセットして、いそいそとベッドにもぐり込みました。
その日は疲れていたので、すぐに眠りに落ちることができたみたいでした。
けれど、おかしい。
眠っているのに、意識がはっきりとしている。
けれど少しの間のあとで理解し、
『ああ、またか。』
と、体の力を抜いた。
それは、何かが私の部屋に来ている時に良く起きることでした。
私の体の方は眠っている状態なので、一切動きませんが、金縛りとは異なったものです。
自力ではどうすることもできないので、黙ったまま、相手の出方を見ていました。
危ないものではなさそうだったのですが、しきりに何かを伝えようとするのが感じられたので、私のイメージの中の手を伸ばしました。
ふと、わたしは目を開けました。
そこは、わたしたち家族の質素だけれど大切な家。
見慣れた木の壁、木の天井、木の家具。
夫が作ってくれたテーブルの上で、蝋燭が暖かな光を放っている。
その光は、わたしの腕の中の愛しい赤ん坊を照らします。
ああ、今日はなんて寒い日なんでしょう。
薄いガラスの窓がすっかり凍り付いているわ。
わたしはぱりぱりに乾いた薪を暖炉にくべて、残りを傍らに積み上げました。
あの人(夫)は寒くないかしら?
どうか、無事に帰ってきますように……
息で火を消して、赤ん坊を抱いたまま、何枚ものごわごわした毛布に包まりました。
ゆっくりおやすみ、わたしの可愛い可愛い赤ちゃん。
わたしは目を閉じました。
真夜中。
わたしは荒らされた家の床に呆然と座り込んでいました。
開いたままのドアから雪が吹き込んで、火の気の無くなった家に少しずつ溜まっていきました。
わたしの目から熱いものがぼろぼろと落ちます。
わたしは獣のように叫び声をあげました。
「わたしの赤ちゃんーーーっ!!」
足元で鏡が割れる音がしました。
私はむくりと飛び起きました。
冷や汗と、激しく脈打つ心臓。
かつて人だったものと精神を繋げた疲労から、私は気絶するように眠りに就きました。
朝、アラームの音で目を覚ますと、私は何事も無かったかのようにきちんとベッドの上にいました。
とてつもない疲労感から、体を起こすことができず、加えて激しい頭痛に目を開けられません。
いつもの時間を過ぎても起きないことを不審に思ったのか、母がわざわざ起こしに来てくれました。
何度か治してくれようとしたのですが、なぜか全く癒えない。
私は疲れていたので、〇〇さん(曾祖母の同業の方)を呼んでと母に頼み、再び眠りに就きました。
それからどれくらいの時間が経ったのかは分かりませんが、目を覚ましたときには〇〇さんがおいでになっており、私の体調もすっかり良くなっていました。
「Aちゃん(私の本名)、」
〇〇さんは深刻な顔でお話を始められました。
「いつもAちゃんが体験してるのは、ただ亡くなった方の記憶を見せてもらっているだけ。
生きている人同士で言うと、お話を聞いているだけになる。
でも、今回のはAちゃんが亡くなった方の記憶に引きずられちゃった。
まるでAちゃん自身が体験したことみたいに感じなかった?」
〇〇さんは、私の目の奥から昨夜の様子を引っ張り出して(私はそう感じた)、
「うん、もうこのままにしておくわけにはいかないみたいよね。……天寿を全うする前に、仏さんになっちゃうね。」
今思い出してもパニックを起こしてしまいそうです。
あの頃の私は、こういった事象を忌まわしいと思い込んで、なるだけ避けていました。
それが、今では曾祖母と同じ道を選んでいるのですから。
人生ってどうなるか分かりません(^-^)
お付き合い下さり、ありがとうございました。
怖い話投稿:ホラーテラー あおもりんごさん
作者怖話