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中編3
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初めて見たのは中学一年生のときだったと思う。

ばあちゃん家で従兄弟とかくれんぼをしていたときだ。 

家はとてつもなく広かった気がする、当時は。

俺は押し入れに入った。

積んであるふとんを寄せて体を丸めた。ハハハと笑っている従兄弟。フーフーという自分の鼻息。

ばあちゃん家の臭いが詰まった布団。

シャワシャワジワジワとうるさい蝉の声。

思い出せるのはこれくらい。

 

ベタだが、かくれんぼで押し入れに隠れるとなかなかに見つかりにくい。

しばらくすると、物音がした。「来た、来た。」心の中は楽しさでいっぱいだった。耳をすませる。もういったのだろうか?

様子がおかしかった。

ザザッザザッと畳を擦るような音、小声でなにかしゃべっていた。

俺は襖を静かに引いた。理由はなかった。なんだいまの?その程度だった。

従兄弟ではなかった。

女。

花柄のワンピースを着た女だった。髪は短かった。ショートボブよりちょっと長い髪の毛。髪の毛はゴワゴワしていた。習字の筆でガサガサとかいたような髪の毛。そんな表現を当時の僕はした。

襖を引いたおかげで声がよく聞こえるようになった。

前まではよく思い出せなかったのだが、最近になって思い出した。

掠れ声という喉を押しつぶした声でぶつぶつとしゃべっていた。

「あはっ。いいんだって。そんなぁ、かかか、みてるだけだってぇ。うん?んっとお・・・。」

こんな感じ、脂汗がにじみ出てきた。

このときはまだ、どこのおばさんだろう・・・程度。背中しか見えなかったが、この人は危ないと思わせるには十分の姿だ。

「だれがぁみでるきがするなぁ。」

歯がカタカタとなり出す。僕は襖を閉めた。勢いよく、力をこめて押さえた。そのときには涙がぼろぼろと止まらなくなり、「えっぐ、えぐっ。」と嗚咽を漏らしていた。

スッと開いた。力を込めていたにもかかわらず。「あっ。」

そして顔を見た。見てしまった。

目が真っ黒、肌が真っ白本当にこんな表現しかできない。

口が開いた。体全体が震え出す。いつのまにか、蝉の声は消えていた。従兄弟の声も聞こえない。無音。

静寂のなかで女の声を聞いた。

「ふはっ。」という笑い声。

そこから先は思い出せない。泣きじゃくって母のもとにかけより。ひたすら泣いた。

あのおばさん、ダメだ。見てはいけないものを見た。

  

これが最初に見たあの女の顔。

次に見たのは、中2の春休み。夏の部活の途中。三月の終わり。部屋のベットの隙間。風呂のサッシ。カーテンのなびいたとき。家具と家具の隙間。・・・全部を覚えている。

流れ目でその女の顔が見える。「ひっ。」と声をだすとそこにはもういなかった。

ただ、右半分しか見えなかった。なぜかは分からない。だが僕からしてみれば半分でも全体でも関係なかった。

殺される、僕は。

高校生の頃の僕は、やせこけていた。

ストレスだった。髪も薄い。

あの女はなにをするわけでもなく、スッと戸を開き右半分しか見えない顔で「あはぁ。」笑う。

それだけで十分だ。

 

精神科での治療も受けた。

先生が安心して、もう大丈夫だ、といったところでその横のドアには女が見える。

見るたびに、寿命が削り取られていく気分だった。

いま僕は二十一。高校も中退し、家で治療を受ける生活を送っている。

あの女のように目がくぼんで、黒く見えるようになった。

三日前にも見た。女はカチャと戸を開き、「えええふ。」と笑って去っていった。

俺はもう可笑しいのかもしれない。あの女は幻覚なのか。

雪がとけたら僕は大きな精神病棟に入院する予定だ。そこならもっとよい治療を受けられるだろうと母がいった。

病棟?隔離施設の間違いだろが。喉の奥にまででかかった。

母も父もやつれた。歯車が狂ってきた。ぐらぐらと。

最近きになったことがある。

女の鼻の少し左にほくろがあることに気がついた。

前まではほくろなんて見えなかったのに。

少しずつ、右半分しか見えなかった顔が見えてきている。

顔全体が見えたらどうなるのか。そんなこと知らない。

ただその女の顔を見るたびに生気が失われていく気がした。

もうどうしようもない。

そのうち、目を瞑っているときでも出てくるだろう。

今も女の声が聞こえて気がした。

なにもできない。

怖い話投稿:ホラーテラー ろうそんさん  

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