私が中学生の時の話です。
放課後、仲の良い友達とこっくりさんをやろう!という事になり、私を含めた3人で始めました。
しかしコレと言った反応も無く、私達は何だかバカらしくなってしまい終わりの儀式もそこそこにこっくりさんを終了させ、家に帰る事にしました。
私の家は共働きで、家に帰っても誰も居ない事が多いので、その日もいつも通り誰も家には居ないと思ってました。
ところが、玄関のドアを開けると家の中に誰か居る気配を感じるのです。
私は母親が早く帰って来てるのかな?と思い「ただいまーお母さん帰ってたの?」と言いながら玄関に上がったが、家の中からは私の呼びかけに返答はありません。
「お母さーん、いるんでしょー?」
私は制服のコートを脱ぎながら居間、台所と見て回ったが母親の姿はなかった。
(2階かな?)
そう思って階段を上がり始めた時、人の気配が濃くなった気がしたので、私は母親が体調でも悪くて寝てるのかな?と思い、両親の寝室のドアをそっと開けました。
……誰も居ない。
自分の部屋を見てももちろん母親が居る事はありません。
「気のせいか」
私は自分の部屋に戻ったついでに着替えをすませ、再び1階に降りようとした時、私がさっきから感じた気配が気のせいではない事を改めて確信しました。
階段の手前の部屋、今は物置になっている部屋の前に立った時はっきりとその部屋から気配が感じられるのです。
私はそっとノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けました……。
普段使っていない部屋独特の埃の匂いが鼻をつきます。
薄暗い部屋を見回しても誰一人といないのだが、部屋に入った瞬間人の気配だけではなく、誰かの視線すら感じる。
視線を感じる先を探す私の目にある物が映りました。
一体のフランス人形。
それは亡くなった祖母が大切にしていた人形で、母親が形見として譲り受けた人形でした。
私は昔からこの人形が苦手でした。
この無機質なフランス人形を見ていると、何だか言い知れぬ恐怖が込み上げてきてしまうからです。
(やだなぁ、何でこんな時にこれを見ちゃうかなぁ)
私はすぐに視線をそらそうとしたのですが、その思いとは裏腹に、私はそのフランス人形と向かい合ったまま動けずにいました。
何故なら、私は気付いてしまったのです。
家に入った時から感じられた人の気配がどこから漂ってきてるか、そしてこの部屋に入った時に感じた視線の先はどこなのかが…。
それは私が今見つめている物、そのフランス人形からだったのです。
私はそのフランス人形のガラス玉で出来た蒼い瞳から視線を外せませんでした。
気持ちはすぐにでもこの部屋から立ち去りたいのに、まるでか金縛りにあったみたいに私の体はその場に固まってしまいました。
……どの位そのフランス人形と向かい合っていたでしょうか?
私が理性を失いかけ始めた時、1階から救いの声が聞こえました。
「ただいま~○○帰ってるの~?」
紛れもない母親の声でした。
その声を聴いた瞬間、今までピクリとも動かなかった私の体に自由が戻りました。
「お母さん!!」
私はそう叫びながら部屋を飛び出そうとしました。
しかし、いくらドアノブを回しても扉が開きません。
鍵なんて付いてないのに!
「お母さん!お母さーん!!」
私は必死で母親に助けを求めました。
ドアの向こうから母親の声が近付いてきます。
「○○どこにいるの?」
「私はここだよ!」
私はドアをひたすら叩き続けました。
その時です。
ドアを叩く音と母親の声に混じって、私は何か別の声が聞こえる事に気付きました。
私はドアを叩くのをやめてその聞こえてく声に意識を集中しました。
「…ここから……出しはしない…」
まるで私の背後から聞こえてくるような声で、はっきりそう聞こえました。
もう私には振り向く勇気なんてありません。
狂ったようにドアを叩き母親を呼び続けました。
「○○?何でこんな所にいるの?早く出てきなさい」
母親の声がドアのすぐ向こうから聞こえました。
「お母さん!開かないの!!ドアが開かないのよ!!」
「何言ってるの?早く出てきなさい」
「だから開かないのよ!!」
突然私の足元に何かが触れ、私は反射的に足元を見てしまったのです。
薄暗い足元にあったのは、さっきまで部屋の奥にあるタンスの上に座っていた、あのフランス人形でした。
もう私は理性を保つ事が出来ず、「ひぃっ」と声にならない悲鳴をあげ、その場にへたり込みながらも必死でフランス人形から離れようとし、這うようにして部屋の奥へ逃げました。
部屋の奥で座り込む私は、じっとそのフランス人形を見続けることしか出来ません。
しかし、それからフランス人形は動き出す事もなく、ドアの前で座るような格好のまま時が過ぎました。
未だ続く母親の呼びかけ、動かないフランス人形。
そんな中、僅かな落ち着きが私に戻り、それと同時に新たな疑問が浮かび上がりました。
私を呼ぶ母親の声に、どこか違和感を感じたのです。
母親の声には間違いないのですが、さっきからドアの向こうから聞こえてくる母親の呼びかけは、「○○?何でこんな所にいるの?早く出てきなさい」の繰り返しで、例えるなら母親の声を録音して繰り返し流しているような感じなのです。
「お母さん…?」
私の呼びかけに応える様に、今まで聞こえていた母親の声がピタリと病みました。
辺りを静寂が包み、私はその静けさに耐えられず、再びドアの向こうにいるであろう母親を呼びました。
「お母さん」
その瞬間
ドンドンドンドンドン!!
ものすごい音を立ててドアが揺れ出しました。
「○○!早く出てきなさい!!○○!早く出てきなさい!!○○!早く出てきなさい!!」
声のトーンをまったく変えず、外にいる母親…、いえ、母親を装っている何かは私の名前を叫び続けます。
「もう…やだよぅ……」
耳を塞いでも、ドアを叩く音と私の名前を呼ぶ声が聞こえてきます。
私はあまりの恐怖に気が狂う寸前でした。
視界が涙で滲み、ぼやける世界の中、私はドアの前にあるフランス人形が動いたように見えました。
気のせいであってほしい。
私の一縷の望みは、次の瞬間脆くも打ち砕かれました。
フランス人形がゆっくりと、しかし確実に私の元へと歩いてくるのです。
もう叫び声さえ出ません。
叩き続かれるドア。
私の名前を呼び続ける何か。
私の目の前まで迫るフランス人形。
私の精神が限界を迎えた瞬間、私の意識は深い暗闇へと落ちて行きました。
その後、私は母親によって起こされるまで物置で気を失っていました。
目を覚ました私は真っ先にあのフランス人形を探しましたが、気を失う直前に私の目の前にいたはずのフランスの人形は、物置で初めて見た場所に座っていました。
これが私の体験した出来事です。
この話には後日談があり、それは翌日の学校の話になります。
朝のHRで、私は恐ろしい出来事を耳にします。
それは前日私と一緒にこっくりさんを行った二人が帰り道に交通事故に遭い、大怪我をして入院したとの事でした。
こっくりさんのせいでしょうか?
それならば何故私はこうして無事にいられるのでしょう?
私は前日の恐ろしい出来事を思い出し、自分が大きな勘違いをしている事に初めて気付きました。
物置の中で聞こえた声は私を襲う為ではなく、友達二人を襲った何かから私を守る為にあのように言ったのではないでしょうか?
きっとそうです。
可愛い孫娘を守る為に。
それ以来、あのフランス人形は私の部屋の机の上が定位置となりました。
そして今日もフランス人形にこう語りかけ、私の一日が始まります。
「おはよう、おばあちゃん」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名改め、HN:ロンドさん
作者怖話