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中編3
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会子手、手上有血

「…なんで開けた」

庭でぶん殴られて、そのあとずっと自分の部屋で縮こまっていたが、夜になって親父が俺の部屋に来た。俺は怖くて親父の顔が見れなかった。

「答えろ。もう一回聞く。」

「なんで開けたんだ」

いたずらで、なんてとてもじゃないが言えなかった。どうにかして上手い言い訳ができないかともごもごと言葉を繋いでいると、親父が強烈に殴ってきた。

「お前、まさか意味もなく開けたんじゃないだろうな。あの南京錠を壊して、あろうことかあの箱を開けて、いたずらだとでも言うんじゃないだろうな。」

ああ、これは土下座でも許してくれないんだろうな、と。

殴られた痛みなのか、親父が怖いからなのかわからないが、涙が止まらなかった。

ごめんなさい、ごめんなさいと畳に額を擦りながら親父に許しを請うたが、親父は俺の首根っこを掴んで顔を上げさせると思いっきり突き飛ばしてきた。

そこで、俺もキレた。

壊れたものは蔵の南京錠だけで、あとは中にあった箱を開けただけだったのにどうしてここまで殴られなければならないのか。

「なんだっていうんだよ。そんなに開けちゃいけなかったのかよ。」

俺がそう言うが早いか、親父は俺の腹を蹴飛ばしてきた。思いっきり蹴飛ばされて、呼吸ができないほどだった。

もう反撃とかそういうんじゃなかった。

怒りの度合いが違うというか、憤怒というか。

親父は今まで見たこともない形相で、また俺の首を掴んだ。

「お前、人柱(ひとばしら)ってわかるか」

そこで気付いた。親父は泣いていた。

「お前の開けた箱はな。人柱なんだよ。」

親父は俺を放したかと思うと、今度は自分の頭を掻き毟りだした。

俺に背を向けていたが、どうしたらいい、どうしたらいいと呟いているのが聞こえていた。

「じじいを呼んでくる」

そう言うと、親父は部屋を出て行った。

ずっと部屋に閉じこもっていたから気付かなかったが、来ていた親戚はみんな残っていたらしい。

親父は親戚のじいさんを連れてきた。

「おめは今晩、あの蔵の中で寝ろ。どうなるかはわからんが、おめだけで済む。」

俺の顔はもうボコボコだった。

一階へ降りると、親戚一同が俺をにらんできた。おじさん、といっても一度も話したことないが、

親父と同じように俺を殴りにかかってきた。

何度も殴られた痛みと、親戚の異常な雰囲気で何が何だかわからなかったが、これで許してもらえるならという感じで俺はそのまま蔵へ入った。

すぐに蔵の扉は閉められたが、俺はようやく安堵することができた。

ああ、これで殴られない。

顔の痛みがひどく眠ることはできなかったが、解放された喜びでそんなことはどうでもよかった。

そう、眠れなかったんだ。だからこれは夢ではない。

ブブブ…ブーン…

突然だった。耳をつんざくような轟音が蔵の中に響いた。

ちょうど外の電灯の光が蔵の中に入ってきていたから、何がいるのかすぐにわかった。

蝿だった。

俺よりでかい蝿だった。ブブブと羽根を鳴らすと、バンッと粉々に砕けた。

真っ黒な灰のようになったそれは俺の口に吸いこまれた。

俺はまだ生きているが、俺の体の中にいるのがなんなのか、まだ分からずにいる。

親父が死ぬ何日か前に俺に言った言葉だ。

「お前が開けた箱に入ってた紙。あれはな、」

「殺した者の血で染まった己の手の平は、決してその血が消えることはない、って意味なんだよ」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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