小さな旅館を営む、私の実家での話。
あれは数年前の夏の日の事だった。
合宿で泊まりに来ていた大学生達が、近くで肝試しをするのだという。
こういうのは、夏の時期にはよくある事だった。
田舎であるため街灯や民家の明かりも少なく、都会の者からすれば雰囲気は十分だろう。
まずは怖い話を皆で聞き、盛り上がったところで肝試しに出かけるという予定だった。
地元で伝わる怖い話を聞きたいということで、母が一つ皆の前で話をすることになった。
母は適当に考えておいた怖い話を、代々伝わる実話という事にして聞かせていた。
『昔、この旅館に泊まっていた女の子が近所で行方不明になり、見るも恐ろしい姿の死体となって発見される…
そしてそれ以来、その女の子の霊がたびたび近くに現れる…』
大体こんな感じの、良くありそうな作り話だった。
しかしこれがかなりウケたようで、中には震え上がっている女子もいた。
そしていよいよ、メインである肝試しが始められた。
(まあ、実際に霊など現れることはないだろうが…)
と、母もタカをくくっていた。
しかし、何かが違った。
大学生達の中で、実際に女の子の霊を見たという人が続出したのだ。
母としては(まさか…あれはただの作り話で…)という気持ちだったが、それを打ち明けては台無しだ。
しかし、実際に霊を見たという人達も皆真剣で、冗談や嘘を言っているようには見えなかった。
全員無事に肝試しを終えた後も、その霊の話で大学生達は盛り上がっていた。
何だかいつもと雰囲気が違い、どうも気になった母は、自分の目で確かめようと現場へと向かった。
その霊が目撃されたという場所に来ると、妙な寒気がしていた。
やがてキーンという耳鳴りと軽い頭痛がしだし、空気が重くなるのを感じた。
ポツンと一本立つ杉の木の陰に気配を感じた。
恐る恐る目をこらすと、そこには女の子の姿…
両目はくり抜かれ、あちこち傷だらけでボロボロになった姿は、明らかにこの世の者でないと見てとれた。
まさかの信じられぬ光景に度肝を抜かされた母は、必死で家に逃げ帰ってきた。
…それからというもの、母はその話を誰かに聞かせるのをパッタリとやめた。
ほんの作り話のつもりが、大学生達の強い恐怖の念により本物の霊までをおびき寄せてしまったのだろうか。
にわかには信じがたい話だが、その真意は未だに謎のままだ。
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話