【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

双子の兄 匂いと臭い 2

中編3
  • 表示切替
  • 使い方

双子の兄 匂いと臭い 2

兄が「怖い、怖い」と連発する海。

そんな口癖には慣れっこだった俺でも、「死霊がうようよいる」とか言われればさすがに気味も悪くなる。

なんせ〈見える人〉直々のお言葉だからな。

それでも真夏の、眩しい日差しの中での海水浴は、やはり恐れよりも楽しさの方が勝っていた。

しかし

夕陽が沈み辺りが闇に包まれるようになると

ぞわぞわしてきた。

海に身をひそめているらしい不気味な存在をいやが上にも意識せざるを得なくなるのだ。

兄の能力がただものじゃない事は分っていたし、その怯え方からも普通じゃない事が分る。

クラスで気になっていた子も参加する肝試し大会。

楽しみにしてたんだけど・・・・

怖くなって、参加するのをやめる事にした。

テントの外に出るのが怖くなったのだ。

「兄ちゃん、外にいるの?幽霊」

「言っても信じないくせに」

その時兄は、魚の腐ったような臭いで倒れそうになりながらも、心の中で叫んでいたらしい。

「何で俺だけこんな目に遭う!」

(キャンプなんてどこでもやってる。俺だって変な物が見えたりしなきゃ楽しい夏の思い出になってる筈なのに!)

妹は疲れたのかビニールシートの上で、バスタオルに包まれてすやすや眠っていた。

!?

突如テントの外が騒がしくなる。

(肝試しが終わってみんなが戻ってきたんだ)

そう思って俺がテントの外へ出ようとしたその時

「開けちゃ駄目!!」

兄が叫んだ。

その瞬間

心底ぞっとした。

皮膚感覚とでもいうのだろうか。

(人間じゃない!)と

本能が叫ぶ。

再び外が静まりかえる。

空気が、ずんっ、と重くなったような気がした。

母親が俺に近づいてきて抱き寄せる。

嫌な気配を感じ取ったのだろう。

目が怯えていた。

声はしないのに、外には確実に、多くの、得体の知れない何かがいる!

突如テントに嫌な臭いが充満する。

それを言おうとして兄を見る。

兄は

目を見開いてテントの一点をじっと見つめていた。

「中に入ってきたんだ。白くてぶよぼよに膨らんだ最高に気味の悪い奴が」

兄はその時金縛り状態で、目の前で起こる事態をただ見ている事しかできなかったらしい。

3体がテントの中に入って来たという。

どれも説明しようのないくらい醜く腐っており、目にあたる部分は空洞で顎の部分は溶けたように無くなっていた。

兄の目の前で・・・・最初の2体が母親の身体に吸い込まれるように入っていったらしい。

「辛かったよ、何もしてあげられないのが」

最後の奴は兄の目前まで来て消えたという。

その瞬間胃から腐った海水としか言いようのない塩苦い液体がこみ上げてきて心の中で(死ぬー!)と叫んでいたという。

どれ程の時間が経ったのか分らない。

青年部の人が顔を覗かせた時には、兄は母親の身体に顔をうずめて泣きじゃくっていた。

「タクシーを呼んで下さい!」

母親が叫ぶ。

それからの事はまさに夢うつつ状態だ。

キャンプ場から駐車場まではかなりの距離があり、妹を抱えた母親と、俺達2人、みんな泣きながら歩いていた。

母親は兄に泣きながら謝っていた。

「ごめんね、帰りたいと言った時にすぐ帰れば良かったね」

兄は泣きながら別の事を考えていたという。

(このままじゃ、母さんが死んじゃう!!)

駐車場ではタクシーが既に待っていた。

そして、、、3人が泣きながら車に乗り込みドアを閉めた瞬間、兄にとっては忘れようにも忘れられない事が起こるのだ。

「気配が消えたんだよ!!きれいさっぱり!

あとかたもなく!」

車の中で妹が目を覚ました時

(寝ていてくれて良かった!)

と思う一方で、

(もしかしたらあの死霊ども、海のにおいの中でしか、住めないんじゃないだろうか?)

などと考えていたらしい。

目の前で母親が化け物に憑依される、、、

兄は自分の無力さを噛みしめていたという。

(霊と〈におい〉には密接な関係がある!)

その日を境にして、それを証明するための、悪霊を退治する方法を見つけ出す為の、兄の心霊スポット巡りが始まるのだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 双子の弟さん  

Concrete
コメント怖い
0
2
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ