気付けば、あれからもう10年以上になる。
私が、中学二年の頃の話。
夏休みが終わり、まだ残暑のある二学期の始め…
同じクラスの女子Nが、自宅で首を吊り自殺した。
まだ幼さの残る私にとって、それはあまりに衝撃的な事だった。
Nとはクラスだけでなく同じ陸上部に所属していた為、よく話す仲だった。
そんなNに、彼氏ができたと聞いたのは一年生の冬の事だった。
付き合っていたのは、同じクラスの男子K。
そのKもまた、私とは良く話す親しい仲だった。
まだまだ幼かった私は、よく二人を冗談でからかったりもしていたが。
からかう反面、私はNに密かに恋していた…
そんな事情もあり、突然Nが自殺をしてしまった事は私にとって驚きだった。
後になって思い返してみれば、その以前からNの様子はおかしく、予兆のようなものも確かにあったのだ。
しかし、何もしてあげられなかった事が深く悔やまれた。
葬儀も終わり、放課後Kと学校で話していた。
「Nの事…何か、心当たりはないのか?」
Kはしばらく黙っていたが…やがてポツリポツリと話しだした。
…ちょっとした喧嘩から嫌気がさしたKは、Nの事を冷たくあしらってしまった。
「まさか死ぬだなんて思わなかったんだ…」
Kはまだ恋愛を知るには幼く、Nはあまりに急ぎすぎた結果の悲劇だったのだろう。
今ではそうした事情も理解できるが、その頃の私が理解するにはまだ早すぎたのかもしれない。
Kの話を聞いた私は、意識がプツリと途絶え…
気付くと私は、Kの胸ぐらを掴み殴っていた。
Kは抵抗するでもなく、ただ黙って殴られていた。
やがて正気に戻り「ごめん」と謝る私を残し、Kは静かに私の前から去っていってしまった。
何とも言えない思いで、私の心は冷たくなり果ててしまっていた。
人の死……
恋心………
それまで特に意識もしなかった事が、自分に重くのしかかってくる。
毎晩Nの写真を眺めては、一人ひたすら泣いていた。
そして、それから徐々に私はおかしくなっていた。
K死ねK死ねK死ねK死ねK死ねK死ねK死ねK死ねK死ねK死ねK死ねK死ね………
気付くと、ノートのページ全面に書きなぐられている。
まったく記憶がなかった。
私自身Kに怒りさえ感じれど、恨む事などなかった。
なのに、こんな事を…
自分の意思以外のものに行動を支配されていく…
そんな感覚を覚え、恐怖に震えた。
ある夜には、部屋のMDコンポが突然鳴りだした。
Nが好きで良く聴いていた歌手の曲。
明るい感じの曲のはずが、まるで別物のように暗い曲調となって響いていた。
眠ると夢の中で、Nが首に縄をかけるシーンや、私がKの首をしめるシーンが…
(やめろ…私はそんな事を考えてはいない!)
誰にともなく、頭の中で必死に叫んだ。
しかし他にも悪夢や怪現象は続き、無くなることはなかった。
そんな事が続き、私は心底疲れ果てていた。
気分も憂鬱で、何をしても楽しくない。
(こんな事ならばいっそ…)
そう考えた時もあった。
そんなある日のこと。
私はある覚悟を決め、Kと話していた。
今まで一人で抱えていたNへの思いや今までに起こった事を全て打ち明けた…
Kは黙って全て聞いてくれた。
そして一通り聞き終えると、その口を開いた。
Kもまた、Nが死んでからというもの罪の意識に悩まされていた…
毎日のように悪夢を見ては、私と同じくおかしな現象を見てきたと。
そして私と同じく、悲しく寂しかったのだ…
そのあと私とKは、一緒にNの家へ行き線香をあげてきた。
思えばNが死んで以来、はじめてKと心から通じあえた気がした。
「そういえばNが生きている頃は、よく仲良く遊んだよな…」
帰り道を二人歩きながら、ずっと懐かしく語り合っていた。
それからというもの、私とKに悪夢や怪現象は一切なくなった。
今でもKとはよく親しくしている。
「Nも、今思えば優しい子だったよな……
自分が死んで、俺達がぎこちなくて寂しかったのを見ていたくなかったのかもな…」
ぶっきらぼうなKには似合わないセリフだったが、それに私は黙って頷いた。
怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん
作者怖話