中編3
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ビーズ人形

私が中学生の頃、同じクラスに他県から転校してきた男子がいた。

転校生(T)は、整った顔立ちをした美少年だった。

大人しいが、手先が器用で勉強も得意という事で女子からは結構人気があった。

しかし、その反面で一部の男子の嫉妬も買っていた。

こそこそと陰湿ないじめが幾度となく繰り返された。

そんないじめを受けても、Tはニコニコしていて一切怒ることもなかった。

私もそんなTを見て、(大したもんだ)と感心していた。

いじめていた男子たちも、思うような反応がなくてつまらなかったのか、やがていじめも無くなっていった。

そんなある日のこと。

部活が終わり、教室に忘れ物をしたことに気づいた私は、校舎へと取りに戻った。

もう夕方になっていた校舎の中は、人もいなくシーンと静まりかえっている。

廊下を歩き、自分の教室の少し前まで来た時だった。

教室の中で、誰かが一人ポツンと残り何かしているのが見えた。

気になりソーッと覗いてみると、それはTだった。

電気もつけず何かに病みつきになっているようで、覗く私の気配にも全く気づかない。

普段のTからは想像のつかない何か異様な雰囲気と、暗い中で夕日に照らされたニコニコした顔がひどく不気味に見えた。

とても教室に入っていく気にはなれず、気づかれないように静かにその場を去った。

そんな事があって、しばらく経った頃だろうか…

クラスの中で、妙な噂がたっていた。

私は先日見たことを一切しゃべらなかったので、他の誰かから出た噂だったのだろう。

「Tがニコニコ笑いながら、いじめていた男子たちへの恨み辛みを手帳にビッシリ書き連ねていた」

果たして真実かどうか…まるで信じがたい噂だったが、それは瞬く間にクラス中に広まってしまったのだ。

それまでTをよく囲んで騒いでいた女子たちが、少しずつTから離れだした。

そしてあっという間にTはクラスの中で浮き、孤立してしまった。

それからしばらく経って…Tは親の都合で再び転校することになった。

一応、それまで少しは親しくしていた一部の生徒がTに別れを惜しみ挨拶していた。

そしてTは最後までニコニコとした顔を崩すことなく、学校を去っていったのだった。

Tが去った、翌日の事…

Tを特にいじめていた男子数人の机の中から、見覚えのないビーズ人形が一つずつ出てきた。

白と黒の変わった材質のビーズを組み合わせて作られたそれは、人の形をしていた。

誰が入れたかは分からないが、恐らくTではないかと噂された。

奇妙なのは、そのビーズ人形…

左右の手足、どこか一部分がそれぞれ欠けていたのだ。

前に流れたTの噂も相重なり、クラスの皆はとても気味悪がっていた。

そして、それから数か月も経たない内に、その男子数名が立て続けに事故に遭った。

ある男子は、突然ブレーキがきかなくなった車に突っこまれた。

次に、別の男子が歩道橋の上から謎の転落事故。

そして、もう一人の男子は工事現場で資材落下事故の巻き添えに…

あまりに悲運と思える事故により、手足に骨折・複雑骨折の大怪我…

それはまさに、ビーズ人形の一部分とほぼ一致していた。

件のビーズ人形は全て集められ、寺にて丁重に供養された。

寺のお坊さんはそのビーズ人形を一目見るなり、険しい顔つきをしていたそうだ。

それほどに強力な念が、あのビーズ人形には込められていたのだろう。

後に、Tは代々伝わる呪術などに関わる家の生まれだったのではないかと、噂が流れた。

Tは、あのニコニコした笑顔の裏で着々と恨みを持ち、人知れず呪いを進行していったのだろうか…

今でも、あの放課後に見た夕日に照らされるTのニコニコした不気味な笑顔を思い出すと、背筋がゾッとする。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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