「列車が目前に迫っても目を閉じず、頭が割れても気を失わなかった悪霊の正体が、これだ」
兄は色褪せた、一枚の写真を俺の前に置いた。
あどけない顔をした少女が微笑んでいた。
「可愛いだろ?小学校の修学旅行で遊園地に行った時撮ったものらしい」
・・・・・・・
「3年後に、この娘列車に飛び込むんだ。ちょうどY(妹の名)と同じ年齢だ。たまんないよ」
!
「この娘がもしもYだったらと思うとなおさらな」
!!
「Yだったら俺、いじめた奴探し出してぶっ殺すかも知れない」
〈ぶっ殺す〉兄らしくない言葉に思わず頷いてしまう自分に少し恐くなる。
「なら俺は、大悪霊の仲間入りだな」
!
「天国と地獄なんて、まさに紙一重の差だと思わないか?誰がいつ悪霊になってもおかしくない」
・・・・・・・・
「俺、ずっと気になってて調べたんだ。その娘、30年近く前・・・・」
兄が声を詰まらせる。
俺も胸が一杯になり視界がぼやける。
長い沈黙が続いた。
「その写真、その娘の母親から預かったものだ。もう、見た感じおばあちゃんになってた。いかさま霊媒師じゃないって分ってもらうのに1年近くかかったよ」
・・・・・・・
「俺はその娘を救いたい!何としてでも!!あの年老いた母親の為にもだ!!」
!!
「お前、中学ん時、俺の霊感は凄い!ってみんなに言いふらしたろ?」
「だからそれは、何度も謝っただろ」
「いや、実は、感謝してるんだお前のこと。今はな」
?
「中学の同級でTっていたろ?」
「親がや○ざって噂の?」
「(笑)実は高2ん時スポットに誘われたんだ」
「へー、で?どこ行ったん?」
「Tの実家の裏山」
「まじ?」
「俺実は、あの踏切の一件以来、そういうとこ行くの止めてたんだ」
「怖くなったんだろ?」
「それもある。悪霊にはファブ○ーズが効かないって分かったしな(笑)」
「当然だろ!俺、病院で兄貴の話聞いた時、別の意味で心配したもんな、兄貴のこと」
「いや、霊がいい匂いに反応するのは確かだ。ただ、やばい霊になればなる程、反応は鈍くなるみたいだけど」
?
「霊体が曇ればそれだけ、匂いを感じなくなるってことなんだろうな」
・・・・・・・
「だから俺、Tの誘いも当然断るつもりだった。親がや○ざだろうが何だろうが嫌なものは嫌だからな」
「兄貴は確かにそういうとこあるよな」
「だけど、奴の話聞いて興味が湧いたんだ。子供の頃見つけた、山奥の廃神社の事が気になって仕方なかったらしいんだな」
「いかにも何かありそうって感じだな」
「そもそも、祠だけとかなら分かるけど、山奥に神社建ててどうすんの?って思ったわけさ。そんなとこ、一体誰が参るのよって、単純に」
「確かにな」
「まじで、不思議な所だった。天国と地獄がお互い干渉し合わずに、静かに佇んでるって感じで」
??
兄とT、Tの彼女が裏山に入ったのは朝の10時。
兄はその山を仰ぎ見た時から既に、かなりの霊気を感じていたという。
(大勢の人間が殺されている)
すぐにそう思ったらしい。
恨みや苦しみの念が凄まじく山に入るのを一瞬躊躇したそうだ。
奥に進むにつれますます強くなる悪霊の気配。
TもTの彼女もそれを感じたのか、途中で「止めよう」と言いだした。
兄は二人を止めなかった。
(その方がいい)
と思ってむしろ山をおりる事を勧めたという。
「確かに怖かったが、俺ってある一線を越えると〈来るなら来いや!〉って気持ちになるんだな、不思議と」
霊の気配は濃厚になったが、何故か身の危険は感じなかった。
「悪霊といっても、その山、無惨に殺された霊たちの溜まり場なんだ。伝わるのは痛みや苦しみだけで、殺意はあまり感じなかった」
それは突然目の前に姿を現した。
鳥居の跡らしきものとそまつな祠があるだけの廃神社。
腐った土のような臭いが辺りに立ち込めていた。
次で終わりにします。長々とすみませんでした。ここまで読んでくれてる人が一人でもいてくれたら、それで充分です♪
怖い話投稿:ホラーテラー 双子の弟さん
作者怖話