中編3
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遺書

また、アイツがまとわりついている。

昼間は気配を感じるだけだが、夜はぼんやり人の形をしているのがわかる。僕にしか見えないみたいだ。

夢にまで出てくる。

いつもアイツは背中を向けて僕に言う。

『来るな!近寄るんじゃない!』

その言葉、そのまんまアンタに返したいんですけど…

幽霊?

とり憑かれている?

まぁ、そんなことはどうでもいい。今の僕はそんなモノにかまってはいられない。

死ぬことすらなんとも思わない。だってその場所、その方法を考えているぐらいだから。

だからアイツは死神なのかもしれない。

『魂はあなたのものだけど、体は神様から借りているものだから大切にするんだよ』って母さんがよく言ってたな。じゃあ、返してやろうじゃねーか。

最近死ぬことを考えるとアイツは現れ、同時に体が熱くなる。

死に対する興味とか執着が、変なモノを寄せつけるのかな。

ほんと、人生ってムカツク事ばかりだ。なにもかもがうまくいかない。

僕は生まれつき体が弱く、入退院ばかり繰り返してきた。

3歳の時に父さんは死んで、母さんは一生懸命育ててくれた。だから、物心つくころから贅沢は言わなかったつもりだ。

でもいつからか、歯車が狂っていった。

小学生の時、学校のクラスの給食費がなくなった。先生まで僕を疑った。

次の日、僕の椅子が無くなっていた。

その日からイジメが始まり、だんだんエスカレートしていく。

高校に入学してからも、それは続いた。

ある日、退院して学校へ行くと

僕の机に花が置かれていた……

なにか、今まで張りつめていたものが、プツンと切れた。

世の中全てを憎むようになった。

この恨み、どう晴らしてやろうか。

この苦しみから解放される方法は復讐しかない。

その思いが僕の背中を押した。

今までずっと恨んできたこと全部書いてやろう。

そしてそれを遺書にしてやる。

書かれたやつらはどんな顔するかな。

ざまぁみろ!

ワクワクしてきた。

よし、準備に取りかかろう。

こういうのは鉛筆じゃなくてボールペンで書くのかな?

えっと、紙と封筒は…。

確か、母さんが仏壇の棚に手紙とかしまってあったはずだから、それぐらいはあるだろう。

棚の引き出しを開けた。

案の定、お年玉袋やら祝儀袋やら入っていて、便箋と封筒もすぐ見つかった。

よく見ると奥に箱があり、なんとなく開けてみた。

クシャクシャにシワになった紙が出てくる。

その紙にはこう書いてあった。

『遺書』

あれっ?

まだ書いてないんですけど…

もしかして、お手本?

内容を読んでみた。

『お前も聞いたように、あの子の命は今夜手術しなければ、助からないだろう。

しかし、手術するための輸血に必要な血液が足りないと担当医に言われた。

あの子の血液型は特殊だからね。

俺のなら輸血できるが、一人から輸血できる量にも限界があるからと担当医に断られた。

結婚して10年、やっと授かったあの子が苦しむ姿を見る毎日はもう耐えられない。

緊急を要することだ、こうすることであの子を救うことはできるだろう。

それぐらいは医者である俺にもわかる。

俺の全てであの子を守りたい。

俺の自殺のこと、

輸血のこと、

絶対にあの子には言わないでくれ。

そして、この手紙と血液を担当医に渡してくれ。あいつなら、わかってくれるはずだ。

たくさん、伝えたいことあるがもう時間がない

辛い 思いを さ せてすま な い

ずっと あいして く れて、あ り が と う』

それを読んだ日以来、父さんの気配を感じることはなくなった。

怖い話投稿:ホラーテラー ソウさん  

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面白かった。良くできてますね!

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