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中編4
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ばあちゃんと靴

両親が離婚して、母に引き取られた俺は母と祖母の3人暮らしをしていた。

母さんは昔から身体が弱く、風邪をひきがちだった。

それに比べてばあちゃんはもう60過ぎなのに相変わらず元気で、孫の俺には仕付けをよくする人だった。

貧乏だった俺の家庭は借金まみれになりながらも地味に暮らしていた。

俺が8歳だったときのこと。

友達と野球をやる約束をしていたから早く家に帰り「ただいま」と大きな声を出しながら靴を放り投げたとき、ばあちゃんは俺の頭を叩いた。

その頃はなんで叩かれたのかわからなかった俺はばあちゃんに言った。

「なにすんだよ、ばあちゃん!」

「靴を脱ぐときゃ踵そろえんかい、ばかもの」

靴を並べなくちゃいけないなんて、他の家ではやっていない。頭だって叩かなくていいじゃないか。

そう思いながらも友達と野球をやり、家に帰った。

「ただいま〜」

そう言い、靴を投げ捨てると台所から匂う味噌汁の匂いにつられ、居間へと直行。

ばあちゃんが食器を並べていて、母は料理をしていた。

「おかえり、良太。手洗ってきんしゃい」

そうして夕飯。

大好きな揚げ物をペロリと食べた俺を見て、ばあちゃんが言う。

「良太。ばあちゃんのも食べんしゃい」

そう言い、俺はばあちゃんの揚げ物もペロリと食べた。

夜眠りについていたとき、居間から聞こえる小さな音に目が覚めた。

枕元の時計を見てみると丁度3時ごろ。こんな夜中なんだろう、と起きてみると居間にはばあちゃんの姿があった。家の窓から見える月を見ていた。

「ばあちゃん?」

「良太かえ。どした、便所か?」

「ううん。なんか起きたん」

「そうかえ。ちょこっとこっちおいで」

ばあちゃんにそう言われ、ばあちゃんの横に座った。

窓から見える月、家の裏にはたくさんのヒマワリが咲いていた。地面をおおうヒマワリの花びらが月の光りに照らされ、少し緑色に見えた。

「良太」

「なに、ばあちゃん?」

「昼間、頭叩いちまって悪かったな」

靴のことだ。

「全然いいよ!少し痛かったけど、俺石頭じゃ」

「はっは!そうかえ」

「でもあの靴ボロっちぃよ。新しい靴が欲しいがな」

「あの靴ぁ、じいさんがお前と同じ年ぐれぇに履いてたもんじゃ。悪いがしばらくは我慢しとってくれや」

じいちゃんの靴だということ、俺はそのとき初めて知った。

じいちゃんは俺が2歳のときに死んだらしく、入院生活だったじいちゃんを俺は見たことがなかった。

ばあちゃんは、じいちゃんの靴を俺に粗末な使い方をしてほしくなかったんじゃないか。俺は冷えるような罪悪感を感じた。

貧乏だった俺らに靴すら買う余裕もなかったんだ。

「ばあちゃん」

「ん?」

「俺、新しい靴いらん」

ばあちゃんは驚いた顔をしていた。

「俺、新しい靴よりじいちゃんの靴のほうがいい!」

「そう言ってくれりゃ、じいさんも喜ぶがな」

ばあちゃんはそう言い、俺の頭をこするように強くなでた。

それから後のことは覚えていない。俺は普通に布団で寝ていた。

居間へいってみると知らない人たちがたくさんいて、居間の隣りにある和室(ばあちゃんの部屋)からは線香の匂いがした。

母の青ざめた顔を見て、俺は…

ばあちゃんが死んだ

そう実感した。

鳥肌が立ち、和室へと入ってみるときれいな顔をしたばあちゃんが眠っていた。

呆然となる俺の横で母は言う。

「母さん、実はずっと前から栄養失調だったの」

その言葉に俺は絶句した。

あんなにも元気だったばあちゃんが栄養失調だったなんて。

「このこと、良太には言わないでほしいって母さんから言われてたの…」

母の唇が震えてきて、自然と涙があふれた。目の前にいるばあちゃんは二度と目を開け、俺の頭を叩いてくれない。二度と話すことができない。

母は続けてこう言った。

「母さん、亡くなったの丁度夜中の3時ぐらいなんですって。それでね…」

俺は咄嗟に走り出した。

ばあちゃんの亡骸を見たくなくて、母さんの話を聞きたくなくて。

どうしたらいいのかわからないぐらい、悲しくなった。

俺はばあちゃんの葬儀には出なかった。

夕方。知らない人たちは帰っていくのを見送り、家に戻った。

「良太…」

母さんに名を呼ばれたが、俺は何も言わずに靴を放り投げ、2階の部屋にとじこもった。

それからずっと泣き続け、ついに泣き疲れて眠っていた。

翌朝。ばあちゃんがいなくなったため、畑の仕事を手伝いに早起きをした。

階段を降りていき、朝飯も食わずにいこうとしたとき、昨日放り投げた靴が丁寧にそろっていた。

それに驚き俺は母さんのいる居間へ向かった。

「母さん!靴そろえた?」

「靴…?そろえてないわよ」

「ばあちゃんだ…」

「?」

「ばあちゃんが靴そろえていってくれたんだ!」

母さんは俺がなにをいっているのか理解できていなかっただろう。

でも俺にはなんとなくばあちゃんがそろえてくれた気がした。

(あとがき)そのあと、靴の中にヒマワリの種が1つ入っていて、それを家の庭に植えておいた。

大変長文、ここまで読んでくださってありがとうございます。

これは実話で、実際に僕が体験した話です。

現在、母はがんで鳴くなりましたが、僕には妻と子供1人の幸せな家庭を送っています。

もうじき2歳を迎える娘の名前は「向日葵(ヒマワリ)」と言います。

そして、当時履いていたじいちゃんの靴は今も残っています。

本当にここまで読んでくださって、ありがとうございます!

怖い話投稿:ホラーテラー Rさん  

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