これは夢の話です。
私は見覚えの無いガランとしたホームに一人立っていました。
すると何故か聞き覚えのある声のアナウンスが聞こえてきました。
「まもなく電車がまいります。」
間もなく遠くに列車の影が見え始めたのですが、いっこうに近づいてきません。
随分と遅い列車だなと思ったのですが、ようやく列車が近づいて来た時、その不自然な遅さの理由が分かって私は思わず吹き出してしまいました。
なかなか近づいてこないと思ったのは、その列車があまりに小さくてまるで遊園地の遊具のような大きさだったからです。
「あぁ、これは夢なんだな」
私は小さい頃からよく夢を覚えているのが得意で、毎日親や友達に話したりしているうちに、夢の中にいても「これは夢なんだな」と分かるようになっていました。
私の前にゆっくり止まった列車には前に運転手の格好をした猿と、数人の男女が真面目な顔をして乗っている。
その時の私は彼らの真面目な様子がおかしくて、明日友達にこの話をするのが楽しみで、迷わずその電車に乗ってしまったのです。「どうせ夢なんだから」そう思って。
しばらくはどこかで見たような見覚えのある景色が流れているのを楽しんでいたのですが、ふと前を見るとぽっかりとトンネルが開いているのに気がつきました。
そして、その出口が見えないほど長いトンネルに入った時、突然アナウンスが流れたのです。
「次は活けづくり〜活けづくり〜」
急に薄暗いトンネルに入ったばかりで、夢と分かっていても心細い気分になっていた私はこの言葉で「活けづくりって(笑)」と楽しくなり、他の人はどんな顔でこのアナウンスを聞いてるのだろうと振り返ったのです。
そこには生きながらに切り刻まれる男の人がいました。
無言のまま狂ったようにのたうちまわる男の人の周りには、無数の猿が小さい刃物を持って群がっていたのです。そして見る見る間にただの肉片になっていく男をただ呆然と眺めていた私のほうを、一匹の猿が振り返り、静かに笑いました。
「これは夢。夢でしょ。夢夢夢夢あsfっだgf」
そして、永遠に続くようなトンネルの中、必死に夢から醒めようとしていた私に、またあの声が聞こえたのです。
「次はくりぬき〜くりぬき〜」
それから、私は一切振り返る事ができませんでした。
ただ、断続的にアナウンスが鳴るたび、柔らかい何かがぐしゃぐしゃに壊される音と無数の荒い息づかいが聞こえてきたことだけは覚えています。
「次は顔はぎ〜顔はぎ〜」
そのアナウンスは間違いなく、私のすぐ後ろで聞こえました。
そして、無言で殺されていくと思っていた被害者の声が初めて聞こえたのです。
後ろで猿に襲われている男は小さい声でこう言っていたのです。
「これは夢なんだ。頼むから醒めてくれ」
その瞬間、私は絶叫しながらベットから飛び起きました。
夢から醒めたばかりなのに、息は荒く、全身水をかぶったように汗まみれで。
私は震えが止まらないまま、枕元にあったペットボトルのお茶を飲んで落ち着こうとしました。
そして、はっきりと夢から醒めた事が分かった時、ようやく落ち着いてため息を漏らしたのです。
次の瞬間、「次はこの続きから見せてあげよう」という声が部屋の暗がりから聞こえてきたのです。
もう夢を見ていない事は誰よりも私が一番よく分かっていました。
それから、私は眠っていません。もう4日になります。
怖い話投稿:ホラーテラー さん
作者怖話