『人に話してはならない。』
和尚さんと僕の約束だった…。
友人Aは、家を建て替えをする間、家族で借家に住む事になったらしい。
A:「それがさぁ、かなりボロいんだよね。」
それを聞いた僕は、友人3人とAの借家に遊びに行く事にした。どんだけボロいか見てみたかったし。
学校で待ち合わせて、自転車で借家に向かった。入り組んだ住宅街を走って行くと、
あった。
ひときわ古ぼけた家。廃屋と言っても納得するほどの家だった。
今にも壊れそうな玄関をAが開けると、
違和感を感じた…。
玄関を入って、まず階段が目の前にあるのだけど、後から無理矢理つけた階段のようだった。
しかも、何故だかヒンヤリとした空気が上から流れてきた。
(なんか、気持ち悪りぃな。)
そう思いつつも、実際に住んでるAに気を使い、黙って家にあがった。
しかも、Aの部屋は2階なので、気持ち悪いと思っていても行くしかなかった。
2階に上がると、
ひび割れた窓ガラス・破れまくった障子・キズだらけの柱。そして、ほとんど日が差さない薄暗い部屋だった。
でも僕は、それよりも部屋全体の妙なよどんだ空気が気になった。
とりあえず、みんなで床に座り、他愛のない会話をしていた。すると、友人の一人が、
「なぁ、アレ何?」
目線の先には、壁の下の方に板がはめ込んであった。
その板には取っ手もなく、開けて収納できる感じではなかった。
Aは無言だった。
言い出した友人Bと僕は、気になって板を調べてみた。
やはり、取っ手はなく、黒い縁取りがされた古ぼけた板だった。
B:「開けてみようぜ。なぁ!A!いいよな!」
相変わらずAは、無言だった。
かまわずBは、Aの定規を板と壁の隙間に差し込み、板を少しずらした。
B:「おい!ずらしたトコ掴んで、開けろよ。」
僕は、言われた通り板を外した。
その瞬間、生暖かい空気がムワっとした。
中は、大人1人寝転がれる程の奥行きと幅の何もない空間があった。
ただ、その家の古ぼけた感じとは対称的に“眩しい程、真っ白”なのだ。まるで、つい最近塗り替えたように。
Bと友人達は、何もなかった事に拍子抜けしたのか、笑っていた。
僕は、笑えなかった。
僕の持っている板の裏、つまり真っ白な空間側の板に
無数の手形がついていたからだ。
赤茶色の、おそらく乾いた血であろう手形を見た僕は、動けなかった。
声を出そうとしても、出ない。板を離したくても手が動かない。
周りの友人達は、気づかない。
(助けてくれ…!!)
僕は、恐怖で泣きそうだった。
「どうした…?」
誰かが僕の肩を触った。
…Aだった。
その瞬間、体が動いた!
僕は、板を放り出して叫びながら家から飛び出した。
自転車に飛び乗り、メチャクチャ走った。一刻も早く、あの家から離れたくて。
翌日、Bや他の友人に質問攻めにあった。突然帰った理由、叫んでいた理由。
僕は、思い出したくないので適当に流した。
Aは、あまり話さなかった…。
そんなある日、
Aが泊まりに来いと言って来た。
どうやら、建て替えが終わった新しい家に遊びに来ないか、という事らしい。
気は進まなかったが、あの借家ではないし、あれ以来気まずくなったAとの関係も修復したかったし、泊まりに行く事にした。
≪続く≫
怖い話投稿:ホラーテラー 葉月さん
作者怖話