大学生のSの話。
その日Sは、大学の友人三人と共に、とある廃墟に来ていた。
見るからに不気味なその建物は、いかにも幽霊や得体の知れないものが出そうな雰囲気だった。
「な、なぁ。本当に大丈夫なのか、ここ?」
三人の友人の内、Aはかなりびびっていた。
「大丈夫だよ。何かおきたら走って逃げてくりゃいいだろ。」
「そうそう。万が一何か出たら、俺が成敗してやるよ。なんちゃって。」
余裕にかまえてるこの二人は、BとC。
「じゃあ、そろそろ行きますか。」
SはA、B、Cと共に、その廃墟に足を踏み入れた。
ひんやりと冷たい空気が、建物の中を漂っている。壁には所々に穴が空いていて、外見から想像するのよりも、中はもっとぼろかった。
「やべぇよ。ここ絶対なんかでるよ。」
Aはさっきからずっと弱音をはいている。
「確かにここには何かいるかも......」
Bは冗談まじりにそう言った。
「まあまあ、落ち着けって。」
Cがそう言った時、
パリンッ!!
「.......!!!」
何かの割れる音が、廃墟にこだました。
「おい!今の何だよ!」
Aは半分パニックになりながらBに尋ねた。
「か、風でグラスか何かが落ちたんだよ。」
こんな所にグラスなんてあるわけない。
BとCも、かなりびびっている。
.......ふりをしていた。
(よしよし二人とも演技がうまいぞ。)
Sは心の中でほくそえんでいた。
実はこれ、SがAに仕掛けたどっきりだった。
BとCはグル。Aをより恐がらせるため、協力してもらっているのだ。
さっきの音は、Sが別の友人Dに頼んでしてもらったことだった。
(さあ、つぎがくるぞ。)
Dが今度することは、足音たて、自分たちをおいかけまわしながら、行き止まりにうまくAを誘い込むこと。
こつ...こつ...こつ...
「何だ、今の足音.....」
SはAが足音に気づくよう、わざと大きな声で言った。
「えっ.......ほっ本当だ!!どうしよう!!」
狙いどうり、Aは完全にパニックになった。
「こっちに逃げるぞ!!」
Bはそう言って、打ち合わせどうりのルートを走りだした。
「ちょっ、ちょっとまって!!!」
AはBの後を追いかけた。
SとCは、二人の後を追いかけながら、必死に笑いをこらえていた。
(このままいけば、行き止まりだ........よしっ!)
S、B、Cは予定どうりAを行き止まりに誘い込んだ。
「いっ、行き止まりだっ!!!」
Aの顔は恐怖と涙でぐちゃぐちゃになっている。
(くくくっ、も、もう限界!!!)
「ぶぁっははははっ!!」
Sは耐えられなくなり、とうとう笑ってしまった。
「ぶっはははははは!!」
「あははははははは!!」
BとCもつられて笑い始めてしまった。
「えっ、何!なんでわらってるの!!?」
Aはかなり混乱していた。
その時、Dが正体を現した。
「わーっ!!」
「うわーーーっ!!........て、D?」
「あっひゃひゃひゃ!!!」
SとBとCの笑いは、よりいっそう大きくなった。
「な、何だ。そうだったのか.......よかったー」
SはAに全てをばらし、Dを含めた5人で廃墟を後にしようとした。
「いやーこんなにうまくいくと思わなかったな、S。」
「これも、Dが協力してくれたからだよ。しかし、Aの慌てっぷりは本当爆笑だったな。」
「本当、面白かったー。」
S達5人がどっきりのことを面白おかしく話していた時、
「ん?......何だ?」
Bが廃墟の奥の方を指差した。
「えっ、何..........あれは!!」
廃墟の奥から血まみれのワンピースを着た女が、こちらに走ってくる。
「で、出たーーー!!!」
S達5人は外に向かって一斉に走り出した。
「ここまで走れば、もう、だ、大丈夫だろ。」
S達は廃墟の外で座り込んでいた。
「ま、まさか本物が出るなんて。」
「本当だよ!」
「マジ、あせったー!なあ、B。」
「くっ、........くはははははっ!!」
「なっ!B、どうしたんだよ!」
「お、お前らちょっとまってろ。」
「えっ、Bどこ行くんだよ!」
なんとBは、廃墟の中へ一人で入って行ってしまった。
「なんだ、あいつ」
「もしかして、取りつかれちゃったのか!」
残されたS達がそんなことを話していると、
「お前ら、おまたせ。」
「B!お前なにして......うわっ!」
なんとBは、さっきの血まみれワンピースの女を連れてきたではないか。
S達は何がおきたのか分からず、ただただ呆然とした。
「おい、もう変装とけよE。」
「あっもういいの。いやー驚いた?2重どっきりでーす。」
女の正体は、Bの彼女のEだった。
Bは、S達に内緒で別のどっきりを仕掛けていたのだ。
「S、驚いたか?」
「はっははは、なんだそうだったのか。」
「ちくしょー俺達がだまされるなんて。」
Cはかなり悔しがっていた。
「みんなすっごくおどろいてたねー。.......あれ」
「ん、どうしたE?」
「みんな、6人じゃないの?」
「は?」
「私が追いかけてる時、確かに6人いたんだけど........」
あと一人とは、誰のことだ?
怖い話投稿:ホラーテラー 青二才さん
作者怖話