友人(以下Aとする)の体験談です。
Aの家族は毎年お盆になると里帰りをするらしく、受験シーズンにも構わず遠い祖父の家へ新幹線で向かったそうだ。
祖父の家は近くに山や田畑が広がるような田舎にあったが、それなりに人や店も多く、近所に寺や広い敷地のC神社もあった。
その日は従兄弟のBとC神社を探検するということになり、歩いて5分もしないC神社に向かった。
大きな赤い鳥居が見え、入ってすぐ左に竹林が広がっているのがわかる。
B「この前あの竹林から呪いの藁人形を打ち付ける音が聞こえたよ!」
A「えー何それ?竹に杭なんて打ち込めるの?」
B「うーん、さぁ?」
ふざけながら進んでいると左側に小さな鳥居が見えた。その先には古い階段が続いており、途中に何個か同じ鳥居が挟んでいる。
周りには木々が生い茂って光を遮断しているせいか、暗い雰囲気を醸し出していた。
B「あ、A姉ちゃんこっち行こう!」
Bがその鳥居を指差す。
A「え、拝殿はこっちじゃない?」
なんとなく嫌な感じがしたAは正面に向かって歩き出そうとする。
B「いーじゃんこっち行こうよ!こっちのが探検っぽいよ!」
A「えー…わかったよ…」
押しに弱いAは仕方なくBの後に続いた。
B「…うわっ!蜘蛛の巣!」
3個目の鳥居には蜘蛛の巣が張っていたらしく、人が滅多に訪れないことを物語っていた。
A「ねー…、やっぱ戻んない?拝殿に行こうよ」
Aは幽霊や妖怪等の類いは信じない方だが、神聖な域へ踏み込んだような、いつもと違う空気に恐れを感じていた。
B「えー、A姉ちゃん怖いの?上まで行ったらね」
BはAに構わずどんどん先へ進んでいく。
A「別に怖くないけどさぁ…」
置いて行かれそうになり内心焦ったAはペースを上げる。
しばらく上ると階段が途切れ、奥に小さながお社が見えた。
A「これ…何を祀ってるのかな」
B「ばあちゃんが“まっしゃ”とか言ってたよ」
A「まっしゃ?」
B「この神社で祀ってる神様と関係ない神様だって」
A「ふーん…」
「拝殿はあちらですよ」
A「!!?」
後ろから低い声が響いた。
階段を上ってきた気配は無かった。
「こちらは末社ですが、礼拝ですか?」
後ろを振り返ると一人の男が立っていた。
夏だというのに黒いセーターに黒いズボン、首には深緑のマフラーを巻いている。
A「ぃや…ちょっと道…間違えちゃって」
必死に平常を装い、声が裏返りそうになるのを抑える。
「ガァガァ!!!」
A「ひっい…!!」
突如後ろにある末社に烏が3羽もとまり、羽をばたつかせながらしわがれた声でうるさく鳴き散らす。
A「B君、帰ろう!!……!!?」
隣にいたはずのBがいない。
辺りを見回すが、やはり何処にも姿が見当たらない。
A「B君!?B君!!?」
「ガァガァ!!ガーァガァガア!!!」
烏がうるさい。30羽はいるんじゃないかと錯覚する程の大音量が木々にこだまする。
A「な、なん、なんなの…これ………!!?」
「……○…○○○」
男が何か呟いている。
烏がうるさい。
「○○くし…、くろ…○○ぬり○○……○○つふし…、め○○…」
Aはその後の記憶がなく、気が付いた時には最初通った鳥居の前で倒れていたそうだ。
その場から逃げるように帰ったAは、Bになぜ先に帰ったのかと問い詰めたが、Bは困惑したように“神社になんか行っていない”と答えたらしい。
後日談。
Bの家(祖父の家)は農家をやっており、烏がよく作物を荒らすため、作物に毒(農薬)を仕込んだところ、翌日には烏が3羽死んでいたそうだ。
怖い話投稿:ホラーテラー 空閑さん
作者怖話