俺の住んでいる町の一画に、長年空き家になっている一軒家があった。
もともとは人が入れないように全ての出入り口が板でふさがれていたが、先日、高校の不良仲間と一緒に面白半分で玄関をこじ開けた。
空き家は外観そのものはかなり古めかしかったが、中は意外にもフツーだった。
他人に荒らされたような形跡はなく、中はガランとしていた。
少々無理すれば人が住めそうなほどの快適さがあった。
家の持ち主はわからないし、空き家とはいえ家宅不法侵入であることは理解していたが、その快適さから、気付けば毎日のようにたまり場として使うようになっていた。
今ではすっかり俺たちの憩いの場と化した。
「おばけ屋敷」と名付けたこの空き家で、来る日も来る日も酒をあおり、たばこをふかし、毎日飽きるまで騒いだ。
楽園のようなこの「おばけ屋敷」を誰にも横取りされたくないと思った俺たちは、みんなで知恵を絞り、ひとつの妙案を思いついた。
「このおばけ屋敷に関わるとびっきり怖い7不思議を考えて、町中に噂を広めれば、誰も近づこうとしないんじゃないか?」
俺たちは嬉々として7不思議づくりに取りかかった。
そして完成した。
俺たちはさっそく友人を通して町中に噂を広めまくった。
「玄関に入ると、正面に飾られた鏡に映った自分が血の涙を流す」
「空き家になって何年も経つが、仏間はいつも線香臭い。耳をすませるとどこからともなくお経が聞こえてくる」
「風呂場に入りドアを閉めると、磨りガラスの向こうで誰かがこちらを見つめている」
「雨の日、ベランダから見える庭にある大きな木に女性の首つり死体が見える」
「階段を登ると、見えない何かが追いかけてくるように、半歩遅れて足音が聞こえる」
「二階にいると屋根裏から赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる」
・・・・・・・
しかし、俺たちの知恵は浅知恵だった。
目論見とは裏腹に、逆に心霊スポットとして人気が出てしまったのだ。
もちろん最初は「マズいことになったなぁ~」と思った。
しかし、そろそろドンチャン騒ぎにも飽き始めていた俺たちはその状況を逆手にとり、おばけ屋敷を探検しに来る奴らを驚かすという新しい遊びを始めた。
おばけ屋敷のことを隅々まで知り尽くしている俺たちにとって、こっそりと部屋の片隅に隠れて、奴らを驚かせるなんて簡単なことだった。
俺たちは互いに「いかに上手に驚かせたか」を自慢しあうようになった。
そんな仲間同士の競争心もあってか、おばけ屋敷は心霊スポットとして、町中で知らない人間はいないほどになった。
自分たちのいたずらが、この町に一つのおばけ屋敷ブームを巻き起こしたことに、誇りすら感じた。
しかし、俺は自分の家庭内のある事情により、状況が一変することとなった。
父親が経営していた会社が倒産。住んでいた邸宅を売り払い、安い借家に引っ越すことになったのだ。
その引っ越し先というのが・・・・・・・あの「おばけ屋敷」だった。
状況が状況だけに、家賃の安いその家に住まざるを得なかったが・・・・・。
おばけ屋敷として有名な空き家に、再び人間が住むという状況はこの町の人々にとって格好の笑いの種となった。
もともと自分が蒔いた種ではあるが・・・・・まさか、それによってこんな惨めな思いをすることになるなんて、思ってもみなかった。
気付けば、あれほど仲の良かった不良仲間も俺から逃げるように疎遠になっていった。
そして、この家での生活を続ける俺を、さらに大きな不幸が襲った。
俺はこの家で毎日、奇妙な心霊現象に悩まされているようになったのだ。
その心霊現象というのが、自分たちが面白半分ででっちあげたはずの、あの7不思議だった。
「7不思議は俺たちが勝手にでっち上げた嘘っぱちのはずなのに・・・。それが現実となってしまったのか・・・・・なぜだ!!!」
あまりに理解し難い状況だったが、まぎれもなくそれは現実だった。
そして、俺はあることに気付いた。
俺がこの家で体験した怪奇現象はまだ6つだ。
そして、すっかり忘れていた最後の一つを思い出した。
それは・・・・・
「この家の庭には惨殺された一家全員が埋められている。一家は再びこの家での生活に戻ろうと、新しい住人から命を奪うために満月の夜に地中から這い出してくる」
今夜は・・・・・満月だった・・・・・。
怖い話投稿:ホラーテラー 未熟者さん
作者怖話