せっかくの連休なので歴史好きな親父と一緒に寺院巡りの旅行に出た。
一泊二日の予定で初日は有名所を見て回った。
やはり生で見る大仏は迫力が違う。
二日目はガイドマップを見ながら比較的小さめなお寺を巡る。
とある寺院の前に来たが親父が「あれ?ここは案内に載ってないな」と不思議がっていたが、行動派な父は山門から中へ入っていった。
俺も続いて中へ入るが何だか変な感じだ。何とも言えない空気?と言ったら良いのか。親父は気にしてないようでズカズカ参道を歩いていく。
他に参拝客は居ないようだ…
真正面の本堂に入ってみる。静まり返っている…住職も誰も居ないようだ。
何よりおかしいのは有るはずの本尊が無い。親父も首を傾げている。
右手側にある廊下から奥へと進んでみる。
迷路の様な通路になっていて所々何やら文字が書かれているが読めない。
さすがの親父も気味が悪くなってきたのか足早になった。
ようやく長い通路を抜けてさっきの場所に戻ってきたが、何かが違う…
仏像だ!さっきは無かったのに…
憤怒の表情をしているので明王の仏像だろう、何故か目を閉じているが。
たしか仏像の意味って「目覚めた者」だったはず!
頭の中が?だらけになり親父に「とりあえず出よう」と言おうとしたが親父も同じ考えだったようで目で合図し急いで本堂を出た。
その時
「お待ちなさい」
突然後ろから声がかかり俺は心臓が止まるかと思った。が、親父は冷静に声をかけてきた住職らしき人に「すいません、拝観料が必要でしたか?」と切り返す。
しかし住職は「拝観料はもう頂きましたので結構です。お気をつけてお帰り下さい」と無機質な声で言い意味深な笑顔を向けてきた。
俺たちは「失礼しました」と言い寺院を後にした。
変な気分になったので次は気分転換にガイドマップに載っている由緒ある寺院に向かった。
その寺院は先ほどとは打って変わり賑わっておりホッと安堵できた。
「こんにちは」
また後ろから声がかかるが今度は優しい声だった。
振り返ると『良い人』の模範のような住職さんが居てこう続けた
「どうやらあなた方は良くない場所に招かれたようですね」
俺たちは驚き先ほどの事を話してみた。
「恐らく拝観料として取られたのは寿命だと思われます。」
「このまま放っておく訳にもいきませんので、そこへ案内してもらえますか?」
「せっかくの旅行が大変な事になったな」と苦笑いの親父。
先ほどの寺院へ着いた
「あれ?こんなにボロかったっけ?」
外観もだが、参道も草が生い茂っていた。
まるで狐に化かされたようだ。
住職さんは連れてきたお弟子さん数名と共に本堂を囲むと何か念仏を唱えだした。
数分後…どうやら終わったみたいだ。
「これで大丈夫です」
住職さんはそう言うと本堂の中へ入って行き中の様子を見て戻ってきた。
「目が彫られていない仏像がありました。恐らくアレがここを廃寺にした元凶でしょう。私共の寺に移し手厚く祀りましょう」
そうして俺と親父の旅行が終わった。
あれが元気だった親父との最後の思い出か…
あの住職さんの寺が火事で全焼と風の噂で聞いた
最近よく幻聴を聞く
無機質な声で
「お待ちなさい」
「命を置いていきなさい」
怖い話投稿:ホラーテラー G.Wの申し子さん
作者怖話