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中編5
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タクシー運転手の【怪】

飲み会の帰り

いつもの様にタクシーを捕まえて家路に着こうとしていた

乗り込もうとしたタクシーが何故か乗車中の札のままだったのに気付いたがさほど気にしなかった

「〇〇までお願いします」

行き先を告げると車はゆっくりと走り出した

酔ってタクシーに乗るといつも癖の様なもので、ついつい運転手に聞いてしまう

「今まで乗せて来た中で一番怖かった体験って何?」

オカルト好きで話好きの俺のいつもの質問である

ただこの質問は読んでる人も是非やって欲しいのだが大抵の返事が

「いやぁ…あんまりないなぁ…」か

「私じゃないけど聞いた話で~」

などなど

大抵が体験談無しor第三者から聞いた話、なのである

まぁ、家までの暇つぶしなので大した話は期待してないがこのパターンにも飽き始めてきた今日この頃

この運転手はどんな話をするのか期待混じりに耳を傾ける

すると運ちゃんが…

「いやぁ…あんまりないなぁ…」

と、一言

(おぉ…パターンその①見事に入っちゃったなぁ)

しかし、開拓精神は必要である!もっと突っ込んで聞いてみた

「えぇ、何か一つ位あるでしょ?例えば乗せたハズの客が目的地に着いて後ろを振り向いたら消えていて…シートを見たらグッショリ濡れていて…とか」

そう話すとクスッと笑って運ちゃんは…

「あぁ…そりゃあきっと、雨の日に酔っ払いを乗せて目的地に着いた頃、シートから落ちて足下で寝てたとか、そういう話に尾ひれがついただけですよ」

と一蹴

悔しくなってじゃあアレはコレは?

と、ムキになって聞いてみたが全てを理論的に返されてしまい歯がゆい思いをした

(全く…つまらん奴だ…リップサービスって言葉を知らんのか)

と思っていると徐に運ちゃんが話始めた

「そう言えば…聞いた話なんだが…」

(あちゃーパターンその②入ったよ…)とツッコミつつ話を聞いた

ある運転手が山間の客を乗せて来た帰りの話だ

明け方であったが辺りはまだ暗く

霧がかかり視界は悪かった

疲れと眠気、おまけに慣れない道

不運な事故が起こる条件は満たしていた

見通しの悪い右への急カーブで運転手は年配の女性を跳ねてしまったそうだ

車のほんの左の方をドンッと軽くぶつかっただけだったが

ガードレールを越えお婆さんは崖をころげ落ちていった

車に傷は無く、人通りも無いを良い事に

運転手は事故を無かった事にし帰宅した

事故を起こしてから2日が過ぎていた

ニュースや新聞を隙間無く見ていたが

年配女性のひき逃げ事件はのらなかった

なんだ…もしかしたらそれ程大した事故じゃなくて…

実は婆さんは生きていて自力で崖から這上がっていたのかも知れない…

などと都合の良い想像を膨らませ男は悪気もなく日々を過ごしていった

事故から一週間

運転手の周りで奇妙な事が起こっていた…

道端で手を上げた客がいたので目の前で止まりドアを開けた

乗って来ない

外を見ると怪訝そうにコチラを見ている

「どうしました?」

と、聞くと

「あぁ…誰も乗ってなかったのか…」と、言われたり

いくら直しても乗車中のまま全く動かない札…

極め付けは仮眠の為に某駐車場内で寝ていた時に

フト起きてみると車は駐車場内ではなく例の崖に止まっていたそうだ

流石に命の危険を感じた男は自首してこの業界から足を洗ったそうだ

事故現場を調べた所、案の定遺体はあり男は刑に服した…

運ちゃんの話に少し涼を感じた頃、自宅に着いた

「なんだ、良い話持ってるじゃないですか!」

見直した俺は金を払いながら言う

すると運ちゃんは…

「…良い話ではないんだけどね…償いきれない罪と一緒で下ろしたくても下ろせないお客さんもこの世には居るんだよね…」

後部座席を見ながら染々と語る運ちゃんの表情が印象的だった

走り去る車を見送りながら何気なく赤い乗車中の札を見ていた

(最初から最後までつきっぱだなアレ…)

ウチの前の通りは見通しが良く

且つ直線の長い一本道

切り替えるタイミングは幾らでもあったがタクシーはそのまま最初の交差点を右折した…

まさかあのタクシーの運ちゃんがあの話の?

ナイナイ…と思いそれ以上考えはしなかった

が、いつもタクシーに乗ると後部座席の真ん中に座る俺が何故かあのタクシーの時は左に詰める様に乗っていた事

あと本当は最初、俺もあのタクシーが止まるとは思ってなくて

直ぐ後ろを走っていた別のタクシーに向かって手を上げていた事は今でも不思議に思う

償いきれない罪は一体どうしたら償えるのか…

答えは不運にも亡くなった老婆しか知り得ない事なのだろう

別の男の話。

仕事が終わり時計を見ると終電はもうとっくに過ぎてる時間だった

(タクシーでも拾ってサクッと帰るか)

手を上げるが一台も止まらず

(んー、参った)

と、思っていると乗車中の札を表示しながら一台止まってドアが開いた

(お、タイミング良くココで降りるのか?)

待っていると運転手から一声

「乗らないんですか?」

中を見ると誰もいない後部座席が見えた

(表示位変えろ!)

と、思ったが口に出さず目的地を早々に伝え目をつむる

冷房が効いてるのか肌寒い

前を見るとついていない…

風邪か?と思い鼻から一瞬、ススル様に空気を吸った

線香臭い?運転手の匂いか?

更に気にせず行儀は悪いが横になろうと右の方に倒れ込もうと体を傾けた

トンッ

何かが右肩にぶつかりハッと目を開けた

見ると何も無い

人、二人分位の空間がそこにはあった

(気の…せい?)

何気なく前を見るとバックミラーに見覚えのない老婆がジッと正面を見ていた

(あぁ…気のせいじゃなくてこの方のせい?)

叫びそうになったが老婆の視線がこちらを向きそうな気がしたので自重した

すると運転手が

「お客さん寝たかったら横になって下さい…着いたら起こしますから」

と吐かす

(ココに?横に?それに着いたら?それとも憑いたら?…笑えんわ!)

一刻も早く下車したくなった俺は

「あ!腹痛い…イタタタタ…お腹も空いた気がするんで…もぉ、ホント呼んでるんで…降ります…スイマセン…」

と、意味不明な事を口走り強引に下車

「大丈夫?病院まで連れて行こうか?」

優しく聞く運転手

(大丈夫、あの世まで連れていけ!そのババアを!)

と、強く思った

釣りも受け取らず走って逃げた

後ろを振り向くとまだタクシーはいた

後の座席を見るとソコには何も居ない

が、走り去る車の助手席を見ると老婆の後ろ姿が微かに見えた

運転手の方をジッと見ているようだった

(あの婆さん…何処まで乗ってくのかな…)

見えない客の目的地は知るよしもない

怖い話投稿:ホラーテラー 独りさん  

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