【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編3
  • 表示切替
  • 使い方

笑ってる

笑ってる、また笑っててやがる。

あれは5年前のいまぐらいの暖かい季節だった。

暑くもなく寒くもない日の夜のことだ。べつに寝苦しかったわけでもなかったのだが、不意に目が覚めた。

6畳の部屋の中は真っ暗だ。ふと違和を感じた。女が部屋のドアの前に立っている。しかも笑って。

目が慣れてきたのか段々見えてくる。整った顔立ちに髪は肩のところまであり、スラッとした体型によく似合うワンピース。色まではわからないが、まぁ白だろう。

嫌悪感や恐怖感を感じさせないそういった笑み。微笑みかけるようなそんな感じ。

正直ちょっと萌えた。この手の話はこのサイトに限らずいくらでもあるはずだ。『笑い女』だったり『笑う女』であったり様々だ。

俺自身もそういった体験をした人の中の1人なのだろう。今までもそういう霊的な現象に遭遇してこなかったわけではない。今回のこれもそういうものの1つなのだろう。

そう思った。怖いとは思わなかった。この女が『悪いモノ』という印象ではなかったから。

それからたまに現れるようになった。何をするでもなく、ただ笑ってドアの前に立っている。

その日もいつものように現れた。

「??」

何だかいつもと様子が違う。

笑ってる。確かに笑ってはいるのだが、何か違う。

例えるなら、自分にとって何か嬉しいことがあった、そんなような。今までの印象とは全く違う。何だろう?恐怖、嫌悪、そんなものを感じさせる笑み。

怖い、気味が悪い、確かにそう思えたのだが、それよりも

寒い

寒かった。ただ寒かった。部屋の中がわけのわからない寒さで覆われていた。

そんなはずねぇ。5月だぞ。部屋の中がそんな真冬みたいな寒さになるわけがねぇ。

でも、寒い、すごく寒い、寒い、寒い、寒い・・・

気がつけば朝だった。何だったんだよ、あれ。夢オチ?いや・・・

いつまでもボーっとしてるわけにもいかないので、朝の支度をしようとした時、ケータイが鳴った。

「もしもし」

「もしもし、ねーちゃんだけど・・・」

「どした?朝っぱらから」

「うん、・・・お兄ちゃんがなぁ、亡くなってしまった」

「え!?」

飛び降り自殺だったそうだ。自殺の原因はわからないし、遺書もない。全く思いあたる節がない。

というよりあってたまるか。その日は兄貴の結婚式の当日だ。

これから幸せになろうってやつが自殺する理由なんてわかるはずがない。兄貴はただのサラリーマンで人当たりもよく人間関係でトラブルを起こすような人ではかったし、金銭面でもそのはずだ。

夕方、兄貴の通夜が開かれた。もちろん俺も参列した。

お坊さんがお経を読み上げている。ふと俺の視線が棺桶にいった。

!?

笑ってる。あの女が棺桶の上でこっちを見て立っている。

寒い、まただ。でも昨日ほどではない。

女はただ笑っていた。

その日を境にあの女は現れなくなった。

だが、4年経った去年の夏。姉が亡くなった。

自殺だった。朝の通勤途中に駅のホームから飛び降り電車に撥ねられた。

うちの家族も姉家族にも姉の自殺の動機について全く見当もつかないという。

しかし、動機ではなく原因なら俺は知っている。

姉の亡くなった夜。俺の部屋のドアの前に女が立っていた。

また、笑ってる

怖い話投稿:ホラーテラー Accelaさん

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ