数年前私は社会人のサッカークラブに所属していました。
週に一度近くの小学校のグランドを借り、仲間同士で仲良く仕事終わりに汗を流していました。
ある日、いつものように練習をしていると、メンバーの蹴ったボールがゴールを大きくそれて、後方にあるプールの中に飛んで行きました。
時刻は8時過ぎでナイター用のライトさえついていましたが、夜の学校というのは大人といえど不気味に思えるわけで。
暗闇に消えたボールを一同確認しましたが、嫌な事は後回し的な発想で、無くなったボールが運悪く自分のでなければいいや、くらいにしかその時は思わず何もなかったように練習は続き、その内にそんなことは忘れてしまいました。
いつもの流れでパス練習をした後ゲームを終えると、ライトを消してグランドの一段上で一服しながらだらだらと世間話をしていました。
そういえば・・・
ボールの件に気づいた頃には三人になっていました。
すると、暗闇に目が慣れたのか遠く、青白く見えるプールに、チラチラと何かが動いているのが見えました。
よく見るとそれは水着を着てこちらに手を振る少年でした。
季節はジャージの上にジャケットを羽尾っても寒い12月で、余りにも異様な光景に固まるしかありませんでした。
「ややややばくないかあれ・・・」
「いやいやいやいや、やばいっしょ」
「どうする?」
「さむい」
「とりあえず・・・・・」
「手振ってみるか」
あまり怖くはありませんでした。そして恐る恐る手を振り返してみる事に。
プールの少年はわき腹に何かをかかえていて、それが先程なくなったボールだとすぐに分かりました。
少年は一生懸命手を振り続け、ボールを返してくれようとしているのですが、感情のない人の形をしたものがそれっぽくただくねくねと動いているだけのようにも見えて、とにかく気持ちが悪い。
「あのボール○○のだよね?」
「いらない、いらない、いらない、いらない」
「でもこのまま帰ったらなんか可愛そうじゃない?」
「・・・・」
「確かに」
少年にボールを返してもらうため?なのか流れ的に空気をよんだ結果。一行は物音ひとつしない暗闇のグランドを南極のペンギンのようになりながらプールの方へと歩き出しました。
プールに近づくに連れ、少年の姿が前よりもくっきり見えるようになり、見る気になれば表情まで見える距離まで来たのですが、少年の足元あたりを見るのが私たちでは精一杯でした。
景気よくヘーイ!ヘーイ!とボールを促すと。
素直にポーンポーンと弾む音がして、ボールが転がってきました。
ボールを拾い上げるとびしょびしょに濡れていて、気色悪さにふとプールに目をやると、そこにはもう少年はいませんでした。
恐らくこの小学校の七不思議の内の一つを、大人になった今更に体験してしまったのかもしれませんが、この話はまだ終わりではありません。
あからさまな恐怖は去り緊張がとけて、ひょいとびしょびしょのボールを○○に渡すと、予期せぬ返事が返ってきました・・・
「おれんじゃない・・・」
エレベーター酔いのようなグニュッと地面が沈むような感覚に襲われ、謎のボールを三人で囲んで見ていると急に恐ろしくなり、ボールを高く蹴り上げると、競う様に車に飛び乗り逃げ帰りました。
以降そのサッカーチームには顔を出していませんが三人とも別に変わりなくやっております。
怖い話投稿:ホラーテラー ハミーポッポーさん
作者怖話