数軒の民家を通り過ぎ、温泉街を抜けると峠道の始まりにはゲートがある。
雪が降り始めると雪崩が起きるため峠は毎冬通行止めになるのだ。
夏場は開いているそのゲートを通りぬけ、私たちを乗せたメガネ車は更に上を目指す。
いつ動物が飛び出すかも知れない夕方の峠道は普通なら徐行するところだが、メガネさんは無言でアクセルを踏み込んでいった。
関係ないけどメガネ車はなんか臭かったのを覚えてる。何日も髪を洗ってない人の頭の臭いみたいな・・・なんかそんなの。
無言のメガネさんを差し置いて、車内ではKがふざけて峠の滝の怖い噂を披露していた。
「峠にあるびっくりマークの標識は幽霊が出る知らせだ」なんていう事実無根の噂から、「カーブの先は異界に繋がる道路が続いていてみんなカーブを曲がらずに直進して崖に落ちる」等々。
Eが本気で怖がって必死で私にしがみついていると、目的の場所に到着したらしくメガネさんはゆっくりと路肩に車を寄せた。
黄昏時。
誰ぞ彼時とはよく言ったもんで、車から降りた時は夕日が山に沈んだ直後の薄紫色が山中に広がり神秘的にも薄気味悪くも感じた。
確かに隣にいるEの顔がやっとはっきり見える程度で、先にガードレールを飛び越えたYとKの顔はぼんやりとしか掴めなかった。
私「で、ここにきてどうすんの?」
車を止めた後一人でゴソゴソと車の荷台をまさぐっているメガネさんに声をかけると、ゆっくりとこちらを向き直ったさっきまでスラックスにポロシャツをインというスタイルだった彼はかなりの重装備にカスタムされていた。
頭にはよく時代劇の坊さんが被るような笠(?)をかぶり、私のイメージ的には山伏の人たちが装着しているような白いボンボンが連なったタスキ状のもの。手にはシャンシャンなるわっかのついた鉄の棒という出で立ちだった。
因みに笠には意味不明なお経のようなものがびっしり書かれていた。
Eはもうその時点で半狂乱。もう帰るもう帰るの壱点張り。
さすがの異様さに私を含むその他三人も、いやいやいや心霊スポットよりもこいつのほうが怖いし。マジで何しに来たのこの人???
と警戒心丸出しだった。
そうこうしているとメガネさんは「こっちこっち!滝に降りてみよう!」と超テンションの高い声で先頭に立ち遊歩道に降りて行った。
峠の滝は昼間ちょっとしたハイキング用として地元の人には親しまれている場所で、私たちも実際小学校の遠足で行ったことがあったが、天気のいい昼間はあんなに気持ちのいい遊歩道なのにその時はどうにも不気味だった。
歩いても1時間ちょっとあれば温泉街までは戻れるが、この暗さの中徒歩で戻るなんて考えただけで億劫だった私たちは、渋々メガネさんについて行った。
最後まで車に残ると言い張ったEは、一人で残る恐怖に耐えきれず嫌々ついてきていたが、意外と歩きだすと楽しくなってきたようで「遠足の時みたーい!」とはしゃぎながら付いてきた。
私たちの列は、懐中電灯を持ったメガネさんを先頭にYK、私、Eの順番で進んでいった。
シャン・・シャン・・という音を森に響かせながらしばらく進むと、だいぶ見づらくなってきた視界に白い物が多数浮かんだ。
最初は暗くてよく見えなかったが、よくよく見てみると
木にくくりつけられた無数のお札・お札・お札・・・
それに気づいたYとKも「なんだこれ!?きもい!帰るべ!!」と踵を返そうとした時、メガネさんがYを後ろから抱きしめ「危ない!!!」と叫んだ。
私とKは訳がわからずただもう泣いていた。こんなパニック状態なのに私は頭の中でメガネさんが必要以上にYに触っていることに違和感を感じて彼らをめっちゃ見てしまった。
はっと気付くとEの声が聞こえない。
木々が生い茂った森の中、いつのまにか日が沈みきった今、視界はほぼ無いに等しい。
私「E!E!?どこにいる!?」
返事はない。
この時すでに彼女はアッチに盗られてしまっていた。
ゆっくりですみませんが続きます。
怖い話投稿:ホラーテラー 岬漁業部さん
作者怖話