これは、今から10年程前の実体験である。
この当時私は大学生で、同じ大学のAと地元の幼なじみであるBとよくバスフィッシングに野池や川、ダム等に足を運んでいた。
その日もAの提案から兵庫県にある加古川に着ていた。関西圏を縄張りとしている人には知れたスポットの一つである。
夕暮れのいわゆる釣れ時を逃し、持参してきたカップ麺や弁当も食べ終わり数時間が経った頃、ここでは全く釣れる気配が無いという事と前日の雨で地面がぬかるみ過ぎていたため足場が悪く移動する事となった。
移動先は元いた場所からやや上流へ行っただけだが足場も幾分かはましで、膝より高い草が無かったので視界が開けており夜釣りするにはもってこいな場所であった。
一向に釣れる気配もないまま時間はもう深夜2時をまわった頃、私達は竿を置き月明かりのみのほぼ真っ暗闇の静寂の中、河辺に3人あぐらをかきなんてことない会話をしていた。するとAが急に声を荒げた。
A「待って!!静かにして!」
「ピッシャ ピッシャ…」
何かが水面をたたいたような音が近付いてくる。
勿論辺りに民家は無く近付いて来るとするなら同じ釣人ぐらいなもんだが、暗闇にも大分目が慣れ、もしそうなら直ぐ気付くはずである。しかし誰もいない…
すると、また
「ピッシャ ピッシャ…」
A「あっ!河からやわ」
B「ほんまや!」
耳を澄ますと確かにその音は正面から聞こえてくる。
俺「魚?」
A 「いや、どうやろ!?違う気がする。。」
B 「あっ!!何か泳いでる、ほら、アレ。。」
とBが正面を指差す。が私は視力が悪い。しかもこの日に限ってメガネもコンタクトも忘れてきている。
すると、またBが正面を指差しながら
B「あそこ、波紋が見えるわ」
「ピッシャ ピッシャ…」
A「魚っぽいな、、、いや亀かも!?」
B「亀じゃないわ、、、亀にしてはデカ過ぎる」
俺「えっ!?何?何?」
一人波紋すら確認出来ていないために一人プチパニック状態。
B「石投げたるわ、見とけよ!」
とおおよそ、そのモノの正体に見当が付いているのか、二人は至って冷静に小石を投げ出した。
ドボーン
ドボーン
ドボーン
A「あっ!!潜った。。たぶん」
B「やっぱり魚やで、鯉ちゃうか!?ってか大体場所分かったか?」
俺「うん。ってかさ、石当たったんちゃうか(笑)」
俺「で、もういてない?どっかいった?」
ここで私は確認したくて一人立ち上がった。
A「あっ!!あそこ!!」
Aが指差す先は正面からやや左に逸れなおコチラの岸に向け波紋が伸びていた。 今度は私にも確認出来たのである。私は正体が知りたく一人それに寄っていった。この時はまだ鯉、もしくわ昼間中洲にいた犬、最悪ワニであろうと践んでいた。
B「ワニかもやから、気ー付けろよ」
俺「わかってる!」
A「ないない(笑)」
私はビビリながらもなお距離を詰めていく。
B「アタマ??見えてるな。」
A「かな??岸に近付いてる。。」
このAの一言で一瞬たじろいだが、なお距離を詰めていく。実はこの時私はそれがどの辺りを泳いでいるのか確認出来ないでいた。先にも書いたが視力が悪いのである。
A「おっ!おっ!岸にもうじき着きそう!!」
B「あれ??着いた?どうなった?おらんくなった?」
AもBも二人はまだその場に座ったまま、私一人ソレとの距離でいうと五、六メートルまで詰めているのに急に見失った!なんて言われても困る。恐すぎる。
しばらく沈黙が続き、次の瞬間Aが
A「あっ!!!陸上がった!!」
私はこの一言で身構えた。そして正体を確かめてやろうという好奇心は消え失せ体中鳥肌が立った。
何故なら陸に上がった瞬間コイツは魚では無くなったのである。大きさからして亀でもない。そして犬でも無い気がした。
そしてBがとんでもない一言を言い放ったのである。
B「あっ!立った」
私は腰が抜けた。
生まれて初めて腰を抜かした。
シルエットでしか確認出来なかったが確実にソイツは立ったのである。
それも二足で。
消去法である。
魚でもない、
亀でもない、
犬でもない、
予想した最悪のワニですらない、
頭によぎったたった一つの存在…
河童である。
だから腰を抜かしたのである。
が、はっきり見えた訳ではない。ソイツは立ち上がったと思った瞬間振り返り、また川へと消えていったのである。
A「え?何、今の!?」
B「小さい人???」
俺「ぉ、起こして〜、腰アカン…」
二人に抱え上げられようやく立ち上がった俺は、
俺「見た?今のん、河童やろ!!」
B「マジかよ!?絶対違うわ(笑)」
A「ってか、せっかく近付いて見ようとしたのに、急に腰抜かして倒れるからアイツも驚いて逃げたやん(笑)」
この後、ヤツの正体についてあーでもない、こーでもないと暫く問答が続いたが最終的に夕方見た何故か中洲にいた犬に大きさと、中洲にいるなら対岸かもしくわコチラ側の岸を泳いで行き来しているだろう事、犬なら二足で立ったとしてもなんら不思議では無いという事で無理矢理納得させられてしまい、モヤモヤしたまま夜が明けていった。
日が昇り出す前ぐらいから釣り続行。そのまま一匹も釣れないままお昼が周り、一睡もしていない疲労感と空腹と初夏の熱にやられぐったりしていた頃ヤツが視界に飛び込んできた。
ヌートリアだった……
俺「…」
A「…」
B「…」
言葉にならなかった。
犬でもなかったからだ。
俺「………誰やねん」
俺達の前をゆうゆうと泳ぐその横顔は呑気そのものだった。。
昨晩あれほど騒ぎ立てたのが馬鹿らしく思えたのか、ただ虚しかったかなのか解らないが気が付くと俺達は夢中で石を投げていた…
何故か悪い事をしている気はしなかった。
一つも当たらなかったけど。。
後日談ではないが、ヤツの名前がヌートリアだと知ったのはこの日から数日後の事である。Aが調べたそうだ。
この経験から思ったのだが、今も語り継がれる各都市の河童伝説は多分俺と同じような経験をした人達のヒドイ勘違いなんだと思う。
一つ言いたいのは、この話し聞いた分には何一つ怖くないと思う、他の投稿作品の方が読むだけですら何万倍も怖いかと思う。だが実際自分が経験したと想像しながら見てほしい、AやBはまだ良い、現にこの時二人はそこまで怖がってなかったし。それとも俺がチキン野郎なだけなのか?
似たようなオチの体験談まだあるんだが、大阪の心霊スポットとして有名だった今は取り壊されたが旧阪大病院という所があった。そこで見てしまったのよ。
結論から言うとたまたま同じように怖いモノ見たさで来ていた男1女2の三人グループに病院内で遭遇してビックリしたって話しなだけなんだが、あろうことかコイツらバラバラで探検していたという肝の据わりよう!俺が遭遇したのも廊下の先から歩いてくる女性一人。。ココは馬鹿デカイ夜の廃病院。いくらこっちが12、3人いようとも女幽霊観てしまったと一つしかない二階の窓まで一斉に走り出し、この女のせいで足場無視して飛び降りた奴もいたからね。
まぁ何が言いたいかと言うと後々笑い話になるような事でも実際自分が経験しちゃうと肝が冷えますよっ!て事です。
終わり。
怖い話投稿:ホラーテラー ガマグチさん
作者怖話