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中編3
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めくらめっぽう

僕は恋をした。歴史上の誰もを狂わせた、あの情熱。

白く透き通った肌、艶やかな黒髪、いつでも微笑んでいる彼女。一目惚れに理屈はいらない。

道ですれ違う度に、僕は切ない。

僕と彼女を隔てる壁が一つ。僕は生きていて、彼女は死んでいる。つまり、彼女は幽霊だ。

障害はいつだって恋情を燃え募らせる。

恋は盲目、ロミオとジュリエットはどう結ばれた?やることは決まってる。

ロープを首に足元の台を蹴り、僕は自殺した。

事は済み、計画通り僕は幽霊になれた。

しかし誤算が一つ。首吊りの影響で、僕の姿は全体的にデロ〜ンとなってしまったのだ。

そしていつもの僕なら、好きな人と会う時、まず容姿を気にするだろう。ましてや今の僕はデロ〜ンだ。客観的になれ。

だけど、恋の盲目、青春の勘違い、ついに彼女と話せるんだ。居ても立ってもいられない。大丈夫、僕はイケメン、惚れさせる。

僕は彼女の出没場所に向かった。いつもの様に佇ずむ彼女。

その彼女に、僕はありったけの想いをぶちまけた。

彼女はやはり微笑んで、しかし、それだけ。何も反応がなかった。

そりゃ、いきなり知りもしない奴に話しかけられたら、そうなる、当然だ。でも違った。彼女には、僕が見えていないらしいのだ。

状況を観察して、ようやく理解した。

幽霊だからといって、他の全ての霊が見える訳ではないらしいのだ。

生前から霊が見えるくらいだ、僕には多少の霊力はあるのだろう。

しかし彼女は、他の霊が見えるほど、霊力は強くないみたいだ。

これは困った。

いまさらに僕は、デロ〜ンとした自分を見られなかったことに安堵していた、けど、このままじゃ死に損だ。何とかしないと。

結論は簡単。彼女の霊力を高めればいい。

難しい問題は、そんなことが可能なのかどうかだった。

発見した。

様々な怪談・幽霊箪に共通な、そして単純な事実に、僕は狂喜した。

人の怨みは強い。怨みが強ければ、それだけ、霊は恐ろしくて、手強い。

彼女を怯えさせ、怨念を高めさせれば、おのずと霊としてグレードアップするというものだ。

悪霊くらいになれば、僕を見えるし話せるだろう。これしかない。

第一段階として僕は、自分の霊力を上げる修業の日々を過ごした。

数年後、現世や他の霊体に干渉・破壊できるまでの力を手にいれた僕は、いよいよ行動を開始した。

最初は「いつも見てるよ」などと壁に血文字を浮かべてみたが、回りくどく、彼女にはあまり効果がなかった。

彼女は自分へのメッセージだと気付いていたかどうかも分からない。

次に僕は、魂で精製した弾丸で、彼女を撃ち抜いてみた。見えない狙撃者に彼女は怯えるだろう。

しかし、彼女を直接傷つけることは、僕の望むところではなかったので、すぐに止めた。

上手くいかない。僕は新たに計画を練り、段階的に実行していった。

まず彼女の思念波を読み取り、両親や友人など、生前の彼女と関係する者たちを知り、その人たちを不幸のドン底に陥れた。失業、借金、病気、離別、破滅、などなど、生かさず殺さず力の見せ所だ。

そして彼ら彼女らの絶望や無念の想いを、思念として彼女に植え付ける。

彼女はショックを受け精神的に弱る。

そこで世界各地に向かい、封印されている悪霊・怨霊どもを解き放った。暴れる奴らをシメ上げまとめる。これが一番骨の折れる仕事だった。

従えた悪霊どもを弱った彼女にブチ込んでかき混ぜる。

弱り切った彼女は、悪霊に完全に取り込まれ、融合する。誕生するのは、凶悪な邪神だ。

彼女は毒々しい青黒い肌と、蛇のようにうごめく縮れた灰色の髪を持ち、いつでもニタついていた。やがて彼女は世界を恐怖で支配した。

多分、僕のことも見えるようになったと思う。そしてもう、僕なんかとは釣り合わない。

僕はデロ〜ンとしていて、彼女は輝くばかりに禍禍しい。彼女を崇め奉る信者だって、たくさんいる。

僕はどうだ!? 僕は孤独な童貞幽霊、デロ〜ンなダサ坊だ!

でも良いんだ。僕はもう満足だ。叶わぬ恋がある。僕は必死に行動した。それで十分。思い残すことはない。

僕は成仏した。

しかし、障害はいつだって恋情を燃え募らせる。

恋は盲目、ロミオとジュリエット。

僕も邪神となって、再び現世に降臨した。

怖い話投稿:ホラーテラー 今日は5月9日!さん  

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