今から、50数年前、冬の北海道で起きた事件である。
真夜中、しんしんと雪のふる原野をニ両編成のディーゼル車が走っていた。乗っているのは運転士と車掌のニ人だけ。乗客はいない。車内には、唯一の暖房器具である、だるまストーブが赤々と燃えていた。
突然、線路の上に、一人の女性が立ちはだかった。運転士は急ブレーキをかけたが間に合わない。列車は女の人をはね、数十メートル走って止まった。
飛び込み自殺である。
すぐに、近くの駅に連絡して、警察を呼ばねばならない。しかし、今のように無線が発達していなかった時代である。結局、運転士と車掌のうちどちらかが一人残って、一人が残って、一人が隣の駅まで歩いて連絡することになった。じゃんけんの結果、車掌が残ることにきまった。
運転士が去ったあと、車掌は一人車内にのこり、やがてうたた寝をはじめた頃、窓の外から、
ズブッ・・・ズズズ・・ ・
何かを引きずるような音が聞こえたである。いったいこの雪の降る原野に何がいるというねか。自分と、死体しかいないはずなのに。
ズブッ・・・ズズズ・・・ズブッ・・・ズズズ・・・
引きずるような音がどんどん近づいてくる。そして、ドアが開ける音がして隣の車両によじのぼってきた。ドア一枚へだてた隣の車両に何かがいる。やがて、ドアが音もなく開いて・・・。
一時間後、運転士が警官をつれて戻ってきたとき、車掌の姿はどこにもなかった。列車のそばには、女性の下半身だけしかない。三十分も探しただろうか。ふと上を見上げた運転士は、あっと息を呑んだ。
線路わきの電柱の上に、車掌がよじのぼって凍死しといたのである。その背中には上半身だけの女の死体がしがみついていたという。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話