僕は何も考えることなく、
黙って今来た道を指差した。
するとまた、頭の上から声がした。
『おめでとう。
君は矛盾なく
道を選ぶことができた。
人生とは選択の連続であり、
匿名の幸福の裏には
匿名の不幸があり、
匿名の生のために
匿名の死がある。
しかしそれは決して
命の重さを否定することではない。
最後に、ひとつひとつの命が
どれだけ重いのか感じてもらう。
出口は開いた。
おめでとう。
おめでとう。』
僕はぼうっとその声を聞いて、
安心したような、虚脱したような感じを受けた。
とにかく全身から一気に力が抜けて、フラフラになりながら
最後のドアを開けた。
光の降り注ぐ眩しい部屋、
目がくらみながら進むと、
足にコツンと何かが当たった。
三つの遺影があった。
父と、
母と、
弟の遺影が。
彼の話が終わった時、僕らは唾も飲み込めないくらい緊張していた。
こいつのこの話は何なんだろう。
得も言われぬ迫力は何なんだろう。
そこにいる誰もが、ぬらりとした気味の悪い感覚に囚われた。
僕は、ビールをグッと飲み干すと、勢いをつけてこう言った。
「……んな気味の悪い話はやめろよ!楽しく嘘の話しよーぜ!ほら、お前もやっぱり何か嘘ついてみろよ!」
そういうと彼は、口角を吊り上げただけの不気味な笑みを見せた。
その表情に、体の底から身震いするような恐怖を覚えた。
そして口を開いた
「もう、ついたよ」
「え?」
「『ひとつ、
作り話を
するよ』」
怖い話投稿:ホラーテラー をわりさん
作者怖話