●霊はまったく出てきません
●やや長文ですので お暇な方のみ任意で
●人間の怖い話です
ご了承のうえ どうぞ。
以前に販売の仕事に携わっていた友人の社員研修資料を見せてもらった。
【クレーム内容と対応について】
クレーム対応に求められる内容を大きく二極化すると、【A】事由が正当な理由を持つ場合 と、【B】持たぬ場合 に分かれる。
さらにこれを二分すると、【a】金品・賠償・謝罪 等の「善処」で収まる場合 と、【b】収まらない場合 とに分けられる。
【A】【a】タイプ・【A】【b】タイプ・【B】【a】タイプ・【B】【b】タイプの4つである。
といった内容の文面があった。
なるほど、わかりやすい。
最近になって【B】【b】タイプのクレーマーの部類に、「モンスターペアレント」という存在が認知されてきたように、学校という場所は【B】【b】タイプのクレーマーが実に集まりやすい。
私が経験した 最も怖いモンスターペアレントの話です。
その頃の私は大学の教授助手として働いていた。
私が働いていた頃の助手は私を含めて4人。
在職期間が一番長いSさんを筆頭に、一番年上のOさん、新人のNさん、そして私という構成。
その頃、私たちの担当する学科の1年生に仲良しグループがおり、男:4 女:2の6人でいつも行動していた。
彼らは全員が遠方出身者のため一人暮らし。
互いの家を泊まりあったりしながらほぼ毎日一緒に遊んでいる様子だった。
職場における子供たちの恋愛模様を見るのが大好きだった私たちは、彼らの中からいつカップルが生まれるのかとワクワクして見守っていたが、若い男女が親元を離れて毎日一緒に行動しているわりに、彼らの中に特定のカップルが生まれる様子は無かった。
そう見えていた。
ある祝日。
学生や教授達は休みだが、仕事を残してしまっていた私たちはOさんを除いた3人で休日出勤。
仕事は午前中で片付いたが、なんとなく全員でその場に留まり、人気のない学内で教授の目がないことをいいことにコンビニ菓子をつついて談笑。
緊張感ゼロの空気漂わせる研究室に、突如1本の電話。
(? 休日なのに・・・?)
受話器を取り上げ 顔に近づけようとしたその数瞬・・・・
女性の金切り声。
なにかを泣き叫ぶ女の子の悲鳴。
後ろのほうからなにかを喚く男性の怒鳴り声。
足音。
物のぶつかる音。
電話機に衝撃をあたえたときのゴワついた雑音。
それらが受話器から一気に飛び出してきて、一瞬で切れた。
構内に学生がいないぶん、なまじ静かだった研究室に電話越しにあるまじき大音量がよく響いた。
「空気が凍りつく」っていい表現です。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
全員 空回る思考力でオロオロしている隙に再び電話のコール音。
当然、誰も受話器に触れられず電話をただ凝視(笑)
長い呼びかけ音がやっと諦めたように切れると、間髪いれずに再び着信。
第2ラウンドのコール音の中、先程聞こえた物騒な物音のことを考え
「事件性あり? 出なきゃヤバいでしょ!?」⇒電話をとる
と
「いやいや、なんで休み(祝日)の研究室にかけてくるの? おかしいでしょ」⇒電話をとらない
の意見があがった。
しかし考えてみると、一般的に公表されている電話番号へかけると大学の総務課へ繋がるものだ。
各研究室へ直結する電話番号は通常、学校内の学科や課だけが使うものであり、一般公開はされていない。 直結番号へかけてくるのは職員と一部の在籍学生のみ。
だが、身内(学校関係者)ならば無人の可能性90%以上の休日にかけてくるとは考えにくい。
緊急の要件なら携帯にかけあうのが常である。
満場一致で「電話をとらない」を選択。
結局、謎の着信は2回目であきらめてくれたようだが妙な気味悪さを感じて その日はさっさと帰宅。
事件が起きたのは その翌日。
朝、まだ学生もまばらな時間。 昨日の奇妙な出来事をOさんに話しながら今日の授業準備をする研究室に電話のコール音。
「はい。 ○○大学△△科研究室です。」
応対文句を話しかける電話の向こうには女の子のしゃくりあげる泣き声。
「・・・じ、じょ・・・っ助手・・っさん? ●●・・・で・・っす」
例の仲良しグループの1人だった。
「!? どした? なんかあった!?」
「ごっ・・めん・・・・・な・・さい! すぐ! すぐ・・・逃げて! ・・・・うちのっ・・・親っが・・・今から・・・学校に行く・・・って!」
しゃくりあげながら必死に「逃げろ」と訴える声。
「親に会わないで」 「逃げて」 「ごめんなさい」
と、うまく発声できない声を振り絞って訴える彼女。
どうやら彼女の住む学生寮から彼女の両親が大学に向かっているらしい。
しかし、親が訪ねてくる事のなにがマズイのか問うても「ごめんなさい」を口にするばかりでハッキリしない。
状況理解以前にヤバさを感じたが、今日の仕事がある。 どうしたものかと迷っている間に電話は途切れた。
昨日の一件が頭をよぎったが、全貌がまったく見えてこない。
モヤモヤした不安はあったが、目の前の仕事があったため仕方なくそれぞれ一限目の授業を補佐していた。
「このまま何事もないのでは?」と油断がうまれてきた頃に突然、他科の助手が研究室へ飛び込んできた。
≪総務課窓口で、学生保護者と思わしき男女が怒鳴りちらして騒ぎになっている≫
・・・・・一人だったら泣いていたかも。
昨日の事情を知らないOさんと、すでに半泣きなNさんを残してSさんと共に総務課へ走る。
廊下を走る時点で聞こえてくる怒鳴り声は昨日の電話で聞いた声に酷似していて、なんだか妙に頭の中で「昨日の出来事の真相がわかる」と不謹慎にもワクワクしていたのを覚えている。
総務課に入って目に入ったのは、身なりはいいのに首から上は「スッピン」「ボサボサ頭」というアンバランスな女性が総務課職員にむかってカウンターを手でバンバン叩きながらキーキー喚きちらす姿と、これまた身なりはいいのだが、窓口内に侵入しようとするのを職員2人がかりで引き止められて暴れる男性の姿。
床一面にはカウンターに常備されていた文具類や書類が散乱し、窓口内にいつもカウンターにいた植木鉢が無残に転がって泥をまきちらしていた。
ヤバイ。
しかし、見ないふりなんて出来るわけない状況。
「失礼します!! △△科研究室の者です!! もしもs―――――
「ああああああぁぁぁぁぁ――――――――――っっっ!!!!! この××××!! ×××××!!!(←※聞き取れません) ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っっっっ!!!!!!!」
大絶叫とともに張り手をくらった。
続いて髪をつかまれ目の前でなにやら怒鳴り始める。
(なんで女ってケンカするとき相手の髪をつかむんでしょうね)
頭皮の痛みと、絶叫のたびに顔面や手の甲に飛んでくるツバがひどくて、抵抗も叫ぶこともできなかった。
怒鳴りつけられる内容を聞いてる余裕なんてなかったが、言葉の端々に「なんでだ」「お前らのせいだ」みたいな事が聞こえた。
「ウ――――」だか「ヒ――――」だかが混ざったような、駄々っ子がよく出す鼻にかかった悲鳴みたいなのをあげて私の頭をガクガク振りまわす目の前の人間が、外見的に人生の折り返し年齢を迎えているであろうことが信じられない。
すぐさま女性は私から引っ剥がされ、さすがに行動を暴力沙汰に発展させた妻に不法侵入未遂(?)していた男性が止めにはいった。
多分、5秒もないくらいの短い出来事だったが「本気の取っ組み合い」を経験した思考回路は完全フリーズ。
馬鹿みたいにポカンとその場にヘタっていたのをSさんと総務課職員さんに引っ張られて廊下へ脱出。
壁の向こうからは今度は女の泣き声が聞こえてきたが、直後に私とSさんは保健室へ強制避難させられたためその後の顛末は見られなかった。
結局「アレ」はなんだったのか謎のまま一日を終えたが、次の日になり主任教授から助手全員、会議室へ呼び出されたことで真相を知った。
会議室には例の学生(以下、I)がいて、会議室に入ってきた我々の姿を確認すると、泣きすぎたのか真っ赤になってパンパンにむくんだ顔でひたすら「ごめんなさい」とくり返し謝ってきた。
以下、Iと主任教授から聞かされた今回の事件の詳細。
一昨日の謎の電話はやはりIがしたもので、騒ぎを起こした男女もやはりIの両親だった。
どうやら一昨日は、Iの両親が休日を利用して一人暮らしの娘の様子を見にきたそう。
しかし、母親がIの部屋でグループメンバーと写っている写真を見つけてしまったのが事の発端。
ただのスナップ写真ならばよかったのだが、その写真の彼女は下着姿。
その他の連中がどんな装備だったのかは聞かなかったが、下着姿の女と写っている時点で≪お友達同士の清く正しい仲良しショット≫の線は消える。
当然怒り心頭の両親。
ここで、怒りの矛先を娘や、写真に写っていたグループメンバーだけに向けてくれたのならば ごく普通。
矛先は我々 学校関係者に向けられた。
「「「「なんで そうなる!?」」」」
な我々一同。
両親の言い分は
● 学校は娘にふさわしい友人を作れる環境を配備すべき
● 娘に不埒なマネをしでかすような学生を入学させた学校に責任がある
● なぜこんな事態になる前に学校は娘の私生活を守ってくれなかったのか
● 学校側から不届き者の学生に処罰を与えるべし
だ、そう。
あぁ、そういえば昨日怒鳴ってたセリフ・・・それっぽいこと言ってたな・・・・。
・・・・ってか 知るか。
むしろ躾や配慮って あんたら(親)の仕事だろ それ。
Iも自分の両親ながらうったえる内容が常軌を逸していることに恐怖を感じて逃げ出し、あの「警告電話」の後は両親に出くわすことを恐れて大学へ近づくことも出来ず、友人宅にずっとかくれていたとのこと。
昨日の暴力行為の理由にするにはあまりにも理不尽な内容に 怒り:2割 呆れ:8割 でなぜか全員で半笑いになっていた・・・・。
「君たちに責任は一切ないし、怒りたい気持ちもあるだろうが 今後は一切I家の両親とは関わらないように」
と教授の〆のお言葉。
言われなくても そうします。
その後のことは学校の上の人間が対応していたので我々は詳しくは知らないし、知りたくもなかった。
一応殴られたわけなので、正式に文句を言える立場だったが「もう関わりたくない」気持ちのほうが強く、なにより目に見えてゲッソリしている主任教授に面倒をかけたくなかったので その辺は忘れることにした。
当事者のIはその一件以来、学校へ出席した姿を見たのは2回程だけ。
ある日、主任教授から彼女が退学したので処理しておくよう指示があったのが最後。
一方、グループメンバー達にも今回の事件についての話し合いがメンバーそれぞれの両親と大学とで行われた。
詳細は他言せぬよう厳しく言われていたが、目撃者であふれ返る集団生活である学内において「噂」のようなものが発生するのは止めようもない。
ヒレをふんだんに付けた醜聞はすばやく広がり、メンバー全員、出席率がガタ落ち。 自主退学した子も一人出た。
仲良しグループはほぼ自然消滅。
結局まともに卒業したのは2人だけ。(残りの子達は単位不足ギリギリでお情け卒業)
それから数年経ち、当時の助手は全員助手の仕事を退いたが、Sさんとは今でも親交が続いていて、たまに飲みに行ったりして助手時代の話に花を咲かせる。
きまって話題にあがるのは「モンスターペアレント」のネタ。
「娘が酔っ払って財布を落としたってのに、一緒に飲みにいった友達が盗んだ!って「財布の弁償をさせるから」なんて学生名簿ブン取りにきた奴いたよね~」
「他大学への編入試験に落ちたってこと何故か大学のせいにしてるのいたね~・・・ 「編入が無理なら無料であと2年大学に残して学ばせろ!」とか普通にゴネる域じゃないよね!」
色々と見てきた「理不尽」を酒の肴に語ってみる。
わが子への愛情ゆえと言えば聞こえはいいが、彼らのフィルター越しに見る世界がどれだけ「都合のいいもの」でなければならないのかは未知数だ。
「わがまま」って怖い言葉ですね。
4年以上経過した今尚 心の底では「笑い話」には出来ない思い出のひとつ。
※ 学生たちに関わる話でも色々、濃い目の怖い目をみてきたので
この話の様子をみて また投稿させていただくか検討させていただきます。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話