『ちょい、資料どこ?』
『私にきかないでください。』
『うわー、冷たい。
そんなツンデレな君も
俺は好きだぜぃ。』
『訴えますよ。上に。』
『怖い怖い。
ハイハイ、真面目に
お仕事しますよ~。』
俺は呆然と佇んでいた。
まず、ここはどこなんだ?
周囲を見ると、
表現しづらいが、
空間が捻れているといえば
一番しっくりくるのか?
見ていると酔いそうな動きで
空気が揺れている。
そして正面には。
『天国』『地獄』と書かれた
馬鹿でかい門が見える。
そしてその2つの門に
挟まれる形で、
劣らず馬鹿でかい椅子がある。
『はい、資料です。』
『おっ、何だかんだ言って、
結局用意してくれるのか。
今晩一緒に飲まないか?』
『ちょこちょこ口説くの
やめてもらえませんか。』
『ぶったぎるねぇ。』
椅子に腰かける、
常におどけた口調の若い男と、
それより更に若い淡々とした女。
『えぇと、佐藤くん?』
俺と同じくらいの年に見える
若い男が突然書類を見ながら
俺の名前を呼ぶ。
『はい?』
『そろそろ本題に入るから、
質問に色々答えてね~。』
『あの…その前に…。』
『何~?』
『ここはどこですか?』
俺の質問に、
『ぶはぁっ』
男は吹き出す。
『え、もしかしてさ、
気づいてないの!?』
『何を…?』
『あっはっは、こりゃ傑作…』
『ここは審判の間です。』
遮るように女が言った。
『……うん、そう。
ここはそういう所。』
少し決まり悪そうに、
男も言った。
『審判の間?』
『ここはね、
天国と地獄の分岐点だ。
ここで魂の仕分けをするんだ。』
『!?
え?天国と地獄?
どういうことだよ。』
『だぁかぁらぁ。
君は死んだのだよ佐藤くん。』
死んだ!?俺が?
俺は記憶を辿る。
いつものように家を出た。
信号に引っ掛かった。
携帯をいじってた。
運転を謝ったトラックが目の前に。
『俺死んだ!!』
通常なら意味の分からない悲鳴を
俺はあげてしまった。
『そういうこと。
で、今から、
君の審判始めるから。』
『天国に行くか
地獄に行くかってこと…?』
『そうそう。』
『え…、あんた何者?
あんたも死んだのか?』
『あー、えっとねぇ、
俺、閻魔。』
『……閻魔大王!??』
閻魔って、閻魔って、
こんな感じなのか?
もっといかつい
ゴツいオッサンのイメージだった。
『で、立会人として、
彼女にいてもらうよ。』
『彼女は誰なんだ?
彼女は死んだのか?』
『ああ、彼女はね、
君の魂刈った死神。』
……もうどうとでもしてくれ。
あんな華奢な女の人に
俺は殺されたのか…。
『大王様、そろそろ。』
『よーし、始めよう。
佐藤くん、準備OK~?』
準備も何も…。
しかし閻魔大王様…、
いや閻魔くんでいいや。
閻魔くんは問答無用で
話を続ける。
『まず~、
君の生前の行いだけど。』
『俺、別に悪いことなんて
してなかっただろ?
大体俺まだ18だし、
そんなに悪事出来るような年月
生きてないしさ?』
どうせ死んだなら
天国に行きたい。
俺は俺なりに、
天国に行けるよう言葉を選ぶ。
『目立って悪事はないけど、
目立って善事もないなー。
天国に行かせるのも微妙だな。』
『じゃあ地獄に行けって?
俺18で人生終えて、
地獄に落とされたんじゃ
浮かばれねぇよ!』
『浮かぶも何も、
もう君こっちの世に来てる…、
まぁ下らない話はいいや。』
閻魔くんは少し
困ったような表情で、
死神の彼女の方を見る。
『ねーねー、
佐藤くんをどうしよう?』
『私には決め兼ねます。
それは大王様の権限ですから。』
『君の意見が聞きたいな。
あと君の俺に対する気持ちも
聞きたいなー♪』
『私の意見を申しますと…』
『わぁスルーだ。』
死神の彼女は、
『別段悪事をしてない者を
地獄送りにするのは、
「上」に何かと色々
言われそうですので、
佐藤様は天国へお送りするのが
よろしいのでは?』
と俺の方を見て言う。
『それじゃ天国でいっか。』
最終的に閻魔くんの
適当な判断によって、
俺はどうやら地獄は
免れるらしいが…
『俺は本当に死んだのか?』
『残念だけどね。
寿命が尽きたからねぇ。』
『なんで…、
なんでこんなに急に
死ななきゃならないんだ…』
『運命には逆らえないからね、
佐藤拓也くん。』
?
『ん?拓也?』
『え?拓也くんでしょ?』
『俺、一郎ですけど…』
『……ん!?』
閻魔くんは書類を見る。
しばらく黙って見る。
そして爽やかに笑う。
『あはっ、人違い♪』
『はあぁ!?ひ、人違い?』
『あっちゃ~、
書類ミスって作っちゃった。』
閻魔くんは苦笑い。
『大王様…』
『君に間違ったターゲット
教えちゃったみたい。
人違い人違い。』
『……「上」に怒られますよ。』
『内緒にしといてよー。
ほら、証拠隠滅!』
死神の彼女は、
はぁ、と大きく溜め息をつき、
どこからともなく
巨大な「鎌」を取り出す。
『申し訳ありません、佐藤様。』
『えっ、何?
何する気だよ。』
『こちらの手違いで、
とんだご迷惑を…。
どうか、このこと、ご内密に。』
それだけ言われて、
俺は彼女にぶったぎられた。
『一郎!』
ふいに俺は目を覚ました。
『一郎、気が付いたかい!』
『か、母さん?』
どうやら病院のベッドらしい。
身体中に激痛が走る。
『今夜が峠かと思いましたが、
ここまで回復するとは、
正直奇跡としか…。』
医者も驚いている。
あの世で死んだから
帰って来れたんだ!
とか言ったら、
頭イッちゃったって
思われるんだろうな。
それにしても、
小さい頃病気で死にかけて
いつの間にか完治。
運がいい人間だと思ったら、
人違いで抹殺。
人生何が起こるか
わからないもんだな。
どこかの同姓の誰かが、
改めてぶったぎられてないことを
願うばかりだ。
怖い話投稿:ホラーテラー テティさん
作者怖話