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短編2
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『天狗の穴』

少し短いが聞いてくれ

俺がまだ中学生の頃の話。

一緒に住んでいた、祖母が

「裏の山頂の神社に参拝したい」

という訳で、両親の許可を取りつけリウマチ気味の祖母の手を取り、まだ朝霧の残る早朝、山頂を目指した。

標高235メートルの低い山なのだが、鬱蒼と生い茂る樹木が見方によって人面木にも見える。

登山口からほんの数十メートルで樹木が太陽を覆い隠す。

子供の頃から、霊感なんてもんはないがこの山だけは寄り付く事はなかった。

それも祖母の言い付けのせいである。

「あそこは婆ちゃんと一緒じゃなきゃ駄目よ、絶対だめだからね」

昼間だといのに携帯ライトで祖母と前方を照らしながら進んだ。

暫くすると、木々を飛び移る生き物の気配が。急いでライトを当てると異様に長い両腕を持つ何かが垣間見えた。

ざざっ

ざざっ

俺達を追い込むかのような布陣でそれは近づく。

「天狗様じゃ…」

天狗…?繋いだ祖母の手は小刻みに震え、汗ばむ。俺も祖母の狼狽ぶりからただごとでないと理解した。

ざざっ

ざざっ

さっきより音が近い。

再びライトを何かに狙い当てようとしたが容易ではない。

チラッ

見えた。

その醜悪な面が見えた。両目は魚のように離れ、まんまるな口、そしてなによりも鼻が無い…いや、無いというより、ぽっかりと大きな穴が空いていた。

俺は恐怖でかすれた声で祖母に聞いた。

「婆ちゃん、天狗って鼻高いんじゃないか?あれには穴が空いてるぞ」

祖母は肩で息をしながら答えた。

「天狗様の鼻はな、山に来た者の腕を上腕から食いちぎり、自らの顔の穴に立てるそうだ…」

それを聞いた俺はパニックを起こした。

殺される…殺される…

傍らには怯える老婆。しっかりしなければ…。

そう決心すると、俺は全速力で山を駆け下りた。暗い森で縺れる足。渇いた舌。

漸く登山入口の光りを見た。

ゲキテツが撃ち出した弾丸のように山を後にした。

行きは2時間はかかったが帰りは15分て駆け抜けた。だてに陸上部には所属してはいない。

命からがら家に帰ると、喉を潤す為にミネラルウォーターを一気に飲み干した。

夕方、共働きの両親が帰宅、家族三人すき焼きをつつきながら奇妙な出来事を語り合った。

両親は、はなから笑って俺の話なんて信じてなかったけ。

俺はあの時のすき焼きの味を一生忘れない

『美味しいすき焼きの話』−完−

怖い話投稿:ホラーテラー 悪戯小僧さん  

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