前に書いた『嫌いな数字』ではレンズさんのストップがかかり大幅にカットして無理矢理に終らせる形になってすみませんでした。
本当はカットした部分を書きたかったのですが、あの時の話は絶対に駄目と言われました。
でも他の事ならとシャンメリー3本とレンズさんの主食であるお菓子で許可が出ました。
では本編です。
ある短期バイトで知り合ったかなり不思議な雰囲気を持つ女の子レンズさん。
あの時は二度と会う事はないと思っていたが、次のバイトでまた一緒になってしまった。
神が居るとしたら俺は嫌われてると思う。
「あれ、メガネ?あんたも妙なバイト選んだね」
やっぱメガネって呼ぶんだ。メガネかけてねぇよ。
少しだけ久しぶりに見たレンズさんは上機嫌。
それに、寝癖までではないが少し髪がハネてる。
まぁどうでもいい。
「なんでこんな変なバイト選んだの?」
変って貴方も選んだんですよねレンズさん。
「いや、時給いいし楽だと思って」
「ふーん、楽じゃないと思うけどね」
なんか意味深な言葉。
それに妙な上機嫌に厄介な事になりそうな予感を感じ、レンズさんと一緒に居たくない病が発病しそう。
バイトの内容は二人で道のやや端の方で椅子に座ってるだけ。
自分達に興味を持ち話し掛けてくる人とスルーする人の数を数えるという物で、目的は人の無関心さを調査するとの事。
カウンター2つと結果を記入する用紙を受け取り俺が話し掛けてくる人を、レンズさんがスルーする人をカウントすると決めバイトが始まった。
まだ朝も早かったせいか人が通らない。
やっぱ楽だなーなんて考えてるとカチリと音がする。レンズさんのカウンターが1をカウント。
間違えて押ささったかなと思い気にしなかった。
五分後またレンズさんのカウンターがカチリ。
二回目だとあれ?と思い周りを見る。誰も居ない。
「レンズさん、誰も通ってないよ」
「うん。見えなかったね。」
変に真面目な所がある俺は真面目に仕事をしないレンズさんにイラッとした。
「ちゃんと仕事しよう。給料分は。」
「してるよ…」
「じゃなんでカウントしたの?」
「人が通ったから。メガネには解らなかったの?」
全く解らない。
周りを見ても誰も居ない。
「誰も居ないし周りにも見えないよ。」
はぁ、とため息をつき記入用紙の裏に何か書き俺に渡してきた。
「メガネなら解ると思ったんだけどな…見るんじゃなくて観る…」
用紙の裏には、見る→観ると書いてある。
なに?っと言いかけた時、カチッと音がしてカウンターが3に。
この人には何が見えてるんだよ。じゃなくて観るか。まだ始まったばっかだよ。1日こんな感じなの?
面倒だなぁと考えていると
「ちょっとメガネこそ仕事しなよ。はい押して。」
誰も居ない。
ちょっと待って、俺がカウントするって事は…
恐る恐る聞いてみる。
「あの、レンズさん誰か居る?」
クスクス笑うレンズさん。
「自分で観なよ。とりあえず押して。私は無理だから」
最後だけ妙に真面目に言いまたクスクス笑ってる。
かなり気にはなったけど自分だけでも仕事はちゃんとやろうと思いカウントはしなかった。
「あーあ、怒られても知らないからね」
怒られるのはあんただよと思い聞き流す。
レンズさんのカウンターが10を越えた頃に人が少しづつ通りカチカチと音が聞こえる。
たまに誰も通ってないのにカチリ。
お昼になっても俺のカウンターは0のまま。
みんな無関心っていうか興味があっても話し掛けてなんかこないよなーと考えていると、レンズさんが鞄をゴソゴソとしている。
「お昼だね、ご飯たべよ。」
そして出てきたのは、お菓子。
それを椅子の後ろにそっと置く。
ゴミ投げんなよと思い
「あの、ゴミ…」
鞄からお菓子を出し俺に押し付けながら面倒臭そうに「はいはい。さ、ご飯食べよ。」
ご飯ってお菓子?
レンズさんは凄く美味しそうにポリポリ食べてる。
物凄い違和感。
レンズさんはお菓子とは無縁のイメージ。
人は見た目じゃないなーと思いながら貰ったお菓子を開けた。
たまにはこんなのも悪くないか。
お菓子のお礼に朝から思ってた事を教えてあげる事に。
「あの、レンズさん髪ハネてる」
「そう…。あたしあんまり鏡って見ないから」
女の子なのに?
「え?なんで?」
聞いた瞬間、なんか空気が変わったような気がした。
鏡はね…たまにしか本当の事を映さない…
人は自分の好きな角度でしか鏡を見ないから…
観る事が大事なのに自分で自分は観れないから…
そんな身だしなみ意味ないでしょ?
大事なのは他の人にどう観られるか…
一番いいのは他の人にやってもらう…
でも、あたし一人だから…だから、適当にしか出来ない…
なんか解らないけど重い話を聞いてしまった。
空気が重い。
余計な事を聞いたと激しく後悔した。
気まずい沈黙のまま、時間が流れあと少しで終わりという所でレンズさんは爪を噛みながら沈黙を破った。
「あのね、ある所で女の子が轢き逃げされたの。去年の今日に」
久しぶりに喋ったと思ったら何それ?
いまいち意味が解らない。
「もし、その場所がここって言ったらどうする?」
ザワっと鳥肌が立ち急に意味が解る。
「もし、その子が朝からずーっと話し掛けてきてたらどうする?」
ざわざわと記憶が蘇る。
レンズさんが誰も居ないのにカウンターを押せと言った。
「あの、それ…」
「もし、その子が一緒に来てって言ってたらどうする?」
レンズさんの言いたい事が完全に理解できた。
こんな時だけ頭の回転が早くて嫌になる。
カウンターを押せと言った時、最後だけ真面目に言った事は確か私は無理だから。
その後に怒られると。
後ろに置いたお菓子。
気付いてしまうと色んな意味で嫌すぎる。
余計な事を言いやがって。レンズさんは俯き爪を噛んでる。
指先から血が流れても止めない。
「レンズさん血が…」
「その子は自分が死んだ事を解ってない。自分の事は観られないから…だから、ちゃんと観て教えてあげなきゃ…」
「そんな事どうでもいいよ、血出てるから。爪噛むの止めなよ。」
言いながらレンズさんの手を取る。
かなり酷い事になってる。
「そんな事?どうでもいい?」
掴んでいた手を振りほどかれた拍子に血が目に入り視界が赤に染まる。
粘つく液体に目が反射的に瞼を閉じる。
目を拭おうとした手を掴まれ軽くパニックな俺。
「ちょ、なに?」
「いいから、そのまま目を開けて…」
振り払おうとしても手を放してくれず仕方なく諦め薄目を開けてみる。
薄く赤く染まっている視界。
「今さ、意思を持って何かを見ようとしてないでしょ?なんでもいいから観ようとしてるよね。そのまま後ろを観て」
早く手を放して欲しかったから薄目のまま後ろを振り向くと、頭から血を流し片手の無いボロボロな女の子がいて唖然とし良く見ようと反射的に目を拭う。
いつの間にかレンズさんは手を離してたみたい。
目を擦りもう一度見てみると何も見えない。
ただ、気になったのはボロボロなのに、あの子は笑ってた。
全く怖くない。
寂しいような悲しいような不思議な気分。
レンズさんはハンカチを貸してくれた。
「観えたよね?教えてあげて。自分が死んじゃってる事を」
ハンカチで目を拭き自然に思った事を口した。
「なんでレンズさんが教えてあげないの?」
ため息をつき指に絆創膏を貼りながら呟いた。
「あたしは言葉を持ってないから…。」
言葉って?普通に喋ってるのに?
「あたしは喋ってるだけ…。会話なんて出来ないから…」
なんか辛そうな感じがして何も聞けない。
「メガネなら出来るよたぶん…だから、やって」
なんとなく、やらなければいけないような気がして解ったと言い後を振り返った。
もう何も見えなかったけど、さっき観えた姿を思うと自然に口から言葉が出た。
「もう君は死んじゃったんだ。だから、もう行かなきゃ」
伝わったのか解らなかった。
でもレンズさんが笑ってる。
レンズさんの笑顔で伝わったんだなと思いなんか嬉しかった。
仕事しなきゃなと思い俺はカウンターを押した。
バイトの終わりの時間がきて係の人が結果と備品を回収に来た。
結局、俺のカウンターは1。
それを見た係の人は少しだけ眉を潜めて、お疲れ様でしたと言い解散となった。
帰り道、レンズさんが教えてくれた。
「このバイトの本当の目的って知りたい?」
「え?人の無関心さを調査するって」
「まぁそうなんだけど、少し違う。本当は、あの事件を思い出させる事」
なんか上機嫌なレンズさん。
「あの事件ってまだ犯人が捕まってないでしょ?だから、あの子の親が忘れられてうやむやにならないようにあの場所に私達を座らせてたの」
「え?事件って皆知ってるの?」
俺はレンズさんに言われるまで全く知らなかった。
いや、知ってたかもしれないけど忘れただけかもしれない。
「だから誰も話し掛けてこなかったでしょ?あの子以外。目的は達成したんじゃない、チラっとでも事件を思い出した人がいれば」
凄く嬉しそうに喋るレンズさん。
「あと、バイバイってさ」
いきなり真面目な声と雰囲気に驚き立ち止まりレンズさんの顔を見る。
なんとなく髪のハネてる所が目に入る。
「はーお腹減った」
鞄からお菓子を出してポリポリと食べ髪のハネを撫でながら俺とは反対の方に歩いて行った。
やっぱお菓子って似合わないな。
急に髪を直し始めた事を考えながら割といい気分で帰路についた。
怖い話投稿:ホラーテラー 鍵仁さん
作者怖話