一人暮らしを始めたAという大学生の話。
Aは自分の実家から、いつも大学へ通っていた。
両親は、子どもがいつまでも家に居るのは嬉しいらしく、一人暮らししたら?何て一言も言わなかった。
だが、Aももう成人。
いつまでも親の世話になっているわけにはいかない。
(一人で暮らせるようになって、父さんと母さんを安心させないとな.........)
Aは家を出る事を決めた。
両親にそのことを話すと、
「本当に大丈夫?ずっと家にいても別にええんよ?」
かなり心配なようだった。
「母さん、俺ももう大人だよ。心配すんなって。」
何とか親を落ち着かせ、Aは無事?に実家を出た。
「ここが俺の部屋か...........」
Aは部屋の中をぐるりと見回した。
しみ一つ無いきれいな部屋を見ていると、心が澄んでいくようだった。
十二階建てマンションの、八階の角部屋。
家賃は高かったが、少し背伸びをした甲斐があった。
(ここから、俺の生活がスタートする...........やべぇ、超わくわくしてきた。)
Aは完全に舞い上がっていた。
少ない荷物整理をちゃっちゃと済ませたAは、その日一日、自分の部屋でゆったりと過ごした。
「...........ん、あれ、俺いつの間に寝てたんだ。」
Aは携帯を見た。
午前五時をまわっていた。
「あー、気持ちの良い朝だ。」
Aは思いっきり体を伸ばした。
一人暮らしをして始めての朝は、とても気分が清清しかった。
ふと、Aはあることに気がついた。
台所の蛇口から、水が流れっぱなしになっている。
(?俺、昨日蛇口なんて触ったっけ。)
昨日の事を思い出そうとしたが、他の事に夢中で記憶が曖昧だった。
(とにかく気をつけないと、金を無駄にするのだけは止めないと。)
Aは特に気にはしなかった。
だが、その日Aが大学から帰ってきた時。
「誰もいないけどただい.........えっ!」
部屋の電気が全てついている。
「俺、電気なんてつけなかったよな.............」
Aは確かに電気をつけてはいなかった。
が、今は全てついている。
「おかしいな.....」
わだかまりが残ったが、Aは気をつけるだけで、それ以上は考えなかった。
だが、そういう事が毎日続いた。
朝目が覚めると水が出っぱなしになっている。
帰ってくるといつの間にか電気がついている。
他にも、閉めたはずの扉が開いていたり、冷蔵庫が勝手に開いていたり.............
極めつけは、使った覚えの無いトイレットペーパーが、トイレの中で散乱していた。
Aは困り果てていた。
Aがどんなに気をつけていても、それらの問題が解消される事は無かった。
さらにそれは、日に日に酷くなっていった。
朝、すごい勢いで出ている水の音で目が覚める。
蛇口から出る水の量がどんどん多くなっていく。
気づくと冷蔵庫が全開になっている。
食べ物が勝手に無くなっていく。
そしてある日。
Aが家でのんびりしていると、
ガッ、ジャーーー............
トイレの水が勝手に流れ出した。
「おいおい........」
Aは途方にくれた。
誰かのいたずらかと思ったが、鍵はいつもしっかりかけている。誰かが隠れて住んでいるのかとも思ったが、部屋中探しても隠れられるような場所は無かった。
(じゃあ何なんだ...........)
そして、ある日の事。
Aが寝ようとした時だった。
携帯がなった。
「............非通知?」
誰かのいたずらかと思い無視した。
だが、止まる事なく鳴り響く。
「しつけえなぁ!」
Aはしびれを切らし電話に出た。
「もしも...........」
「いるよ」
プッ、プープープー...........
一言残して、相手は電話を切った。
その瞬間だった。
「......っ!!」
背筋に悪寒がはしった。
部屋のすみに誰か居る。
じっとこっちを見ている感じがする。
どこから現れたのか、全く分からない。
(なんだ.....!誰だ........!)
Aの体は硬直した。
「だからここにいるよ」
女の声だ。
今度は肉声だった。
「うわっ!!!」
Aはすぐさま部屋を出た。
それからは、もう部屋に戻る事が出来なくなった。
得たいの知れないものが、部屋に居る。
考えただけでぞっとした。
(今までの事も全てあれが原因だったのか...)
それからは友達の家でしばらく寝泊りをした。
だがずっと居るわけにもいかない。
高い家賃を払ってせっかく住んでいるんだ。
Aは友人についてきてもらい、自分の部屋へ向かった。
「おい、早く開けてくれ。」
「分かってるよ!全く......何をそんなに恐がっているんだ。」
Aは恐くて、自分では玄関を開けることが出来なかった。
「じゃあ開けるぞ。」
友人が玄関を開けた。
「...........どうだ、何かいるか。」
Aは友人に尋ねた。
「.............」
「おい、どうしたんだ?」
「聞くな!!」
「えっ!!」
友人はすぐに玄関をしめると、強引にAを連れてマンションを後にした。
友人の顔は、かなりこわばっていた。
「おい!どうしたんだよ!!」
友人の顔が青ざめていくのが分かり、Aもだんだん恐くなってきた。
「おい!お前何見たんだよ!おい!!」
Aはパニックになりながら友人に尋ねた。
「お前、一人暮らしだよな......」
「ああ。」
「じゃあ何で玄関で女が待ってたんだよ。」
もしAが玄関を開けていたら..........
Aは結局実家に戻り、二度とそのマンションに近づ事は無かった。
両親だけは、嬉しそうにしていた。
怖い話投稿:ホラーテラー 青二才さん
作者怖話