短編2
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愛されたかった人形

とあるお店が在る。

俺は曰く付きなコレクション兼商品にまるで磁力に引き寄せられるように何度も訪ねてしまう。

そして今日も…

「やあ、いらっしゃい。

今日もコレクションを見たいそうだね。存分に見ていってくださいな」

この店は会員制だ。

会員になる条件は一つだけ、いつか商品を買う事。

いつになるかは、客次第だそうだ。

特典は好きな時に品物を閲覧できる。

ここは、そんな店。

整然と並ぶコレクションの1つから視線みたいな物を感じ足が止まった。

そこには古びていてボロボロな人形があった。

「店主、この人形はなんですか?」

「ああ、この人形は…」

店主の話が始まった。

人形の持ち主は5歳の女の子。

母親から酷い暴力を受けていた。

最初の頃はまだ良かった。母親にも罪悪感があり暴力を振るった後は優しかった。

暴力が終れば優しい母親になると解っていたから耐える事が出来ていた。

女の子はまだ優しかった頃に買って貰った人形に話かける。

お母さんは本当は優しい。悪いのは自分だと壊れそうな自分をコントロールしていた。

自分がして欲しいと思う事を人形にした。

優しく髪を撫で愛した。

母親が離婚をした。

それからは母親から罪悪感が消えた。

今までより強く叩くようになった。

ご飯もたまにしか用意してくれなくなった。

なにより辛かったのは暴力が終わった後も優しくなくなった事だった。

女の子は壊れそうだった。どうしていいか解らない感情を人形にぶつけた。

とても大切にしていた筈なのに…

叩かれれば人形を叩く。

髪を引っ張られれば人形の髪を引っ張る。

針で刺されれば針で刺した。

人形に変化があった。

引っ張り過ぎて髪が伸びていた。

女の子は不思議に思い忘れていた優しい気持ちを思い出した。

髪を整えごめんねと謝った。

もう、しないからねと髪を撫でた。

人形にとって幸せな時間だった。

次の日、母親の暴力は酷かった。

昨日の事が頭に浮かんだが感情がコントロール出来ず人形にぶつけた。

そして人形は勘違いをした。

髪を伸ばせば優しくしてもらえる。

愛してくれると。

人形は髪を伸ばした。

でもそれを女の子が見る事はなかった。

母親に突き飛ばされた時に頭をぶつけ死んでしまった。

女の子が死んでしまった事を知らない人形は髪を伸ばし愛される事を待っている。

「その人形がこれです」

寂しそうな視線を感じ悲しい気持ちになった。

「この人形は、まだ待ってるんですよ。また愛される事を。髪を伸ばしながら」

そっと髪を撫で店をでた。

怖い話投稿:ホラーテラー 月凪さん  

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