みみずくって知っていますか?
春を感じる日曜の静かな大学のキャンパス
僕は彼に声をかけられた。
僕は今大学4年生で就活中。というか公務員志望なので試験に向けて学校の図書館でひたすら勉強中。
この就職氷河期に負けたくない一心で月曜日から日曜日まで毎日学校の図書館へ足を運ぶ
この顔に就活カット。きもすぎる。早く氷溶けて洪水が起こればいいのに。
しかし日曜はいい
講義がない。それだけでこんなマンモス大学のキャンパスが静かになるのか
やはり日曜は勉強に集中するにはもってこいだ
その週の日曜日も実家から何本も電車を乗り継ぎ大学へ向かう
最寄りの駅につき5分程歩くと大学の門が見える
レンガ作りの立派な門をくぐり図書館へと歩を進めた
やはりキャンパスは静かだ。天気もかなりいい
よしっ!
と気合いを入れ図書館に入ろうと思った瞬間に声をかけられた
「あの、みみずくって知っていますか?」
話しかけてきたのは同い歳くらいに見える男
肌は白く童顔だかうっすら鼻の下に髭が生えているのが分かる。服装はよれよれのTシャツに破れたジーパン
失礼だがボロボロという言葉がよく合う
そして見るからに纏っている空気が暗い
フケがたまった髪は大変長く耳と目を覆い前髪のすき間から微かに白目が確認できた
空を見ながら歩いていたせいか図書館の前にいたその男に気付かず反応が遅れてしまった
「みみずく・・って?梟みたいなあの木菟ですか?」
少し間が空いたが彼の質問にゆっくり答えた
こちらをじっと見てくる。いやな目線だ。
「はい」
短い返事に続けて男は話す
「僕はみみずくが嫌いです。なぜかと言うと耳があるからです。だから嫌いです。とりたいんだけどあれは耳じゃないからとれないんです。だから嫌いです。」
・・・・はい?
何を言ってるんだ?
よく息継ぎもしないで言えたなと変な所に感心をしてしまった
確かに木菟の耳は本当の耳ではなく羽角(うかく)と呼ばれる飾り羽が耳のように見えるだけ
子供の頃に図鑑か何かで読んだことがある
いきなりのことで文字通り目が点になり言葉が出ない
戸惑う僕に彼は真顔で聞いてくる
「あなたもみみずくはずるいと思いますよね?」
まったく話が見えない
なぜかよくわからないが不快な気分になる
答えるのもバカらしい
「いやぁ・・・よくわかんないでごめんなさい。ちょっと図書館で人待たしてるんでもう行きますね・・。」
嘘をついた。早くこの場を立ち去りたかった。
軽く頭を下げ僕は図書館の自動ドアへ向かって再び歩き始めた
男を背にして歩いているので顔は見えない
好奇心に負け横目で男の方へ目を走らせる
男はまだ僕を見ていた。
階段を上りながら
あんな変なやつ学内に入れんなよ。
と門の横で構える警備員に心の中でつぶやく
図書館3階の席につき教科書を広げていると後ろにいた女の子の2人組から図書館の下に変な人がいたやらなんちゃらと聞こえてきた
間違いなく彼だろう
気になりはしたが勉強をしないといけないという気持ちがそれに勝った
気持ちを切り替え机に向かう
しかしその日は不思議と勉強が身に入らなかった。
この出来事の忘れかけた記憶を呼び起こされるまで時間はそうかからなかった
数週間後に大学の近くのアパートで20代の無職の男性が逮捕された
隣の部屋から異臭がすると主婦から通報が入り警官がそのアパートへと駆けつけた
通報のあった部屋のインターホンを鳴らすと若い男が出てきた
玄関のドアを開けたときは吐き気がするほどのひどい臭いがしたらしい
警官の訪問に男はひどく取り乱した
何かを察知した警官はすぐに応援を呼び、駆けつけた同僚と共に男の部屋の中へ入った
ゴミがちらかる狭いワンルーム
その中央には汚い段ボールが置いてある
あまりの臭いに顔を歪める警官達。その中の1人が恐る恐る段ボールの中を確かめる
中を見た警官はその場で吐いた
段ボールの中には
耳があった
いくつもの耳
大小様々な耳
ただ耳だけが入っていた
引きちぎられた耳だけが
ナイフなどの鋭利なもので切り取られたのでない
雑に
まるでそれは強引に手で引きちぎったようだった
数は2、30はあったのではないだろうか
犬や猫のものがほとんどだった
しかしその中に1つ
人間の耳らしきものがあった
警官に取り押さえられていた男は
「はぁぁなぁせぇぇぃ!!やめろぉぉぁ!!!お前らがぁぁ悪いんだろぉぉぁ!!耳があるから悪いんだろぉぉぉ!!!耳がぁぁぁぁぁぁ!!」
警官2人に押さえられながらもすごい力で抵抗し何度も何度も叫び続けた
この男が住むアパートの前のマンションに住む友人からこの話を聞いた
その時自分の家にいた友人はパトカーのサイレンを聞きすぐ部屋を飛び出し野次馬に混じり一連の流れを見ていたらしい
とにかく男の叫び声が凄まじかったと言う
(ニュースや新聞で記事を探しましたがありませんでした。高卒の警官の知り合いがいたので全部ではありませんが詳しく聞けました。)
この話を聞いてすぐ僕の頭には木菟の彼の顔が出てきた
友達にその男の特徴を聞いたがあまり顔は見えなかったらしく自分の中で彼だと断定できる要素はなかった
しかし僕は間違いなくその捕まった男は木菟のあの彼だと確信をしている
あの日
図書館の前で話しかけられたあの日
じっと見ていたから
いやになるくらいじっと見ていた
僕の目じゃない
じっと・・。
耳を見ていたから
僕の耳を見て彼はずっと話をしていたから
怖い話投稿:ホラーテラー 氏神さん
作者怖話