【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編7
  • 表示切替
  • 使い方

涙の肝試し

前回の話「怖いのはソイツじゃない」で女子トイレに平気で入る俺が怖いという

指摘があったので、まずは「俺」という人間の話から。

俺は昔から「男らしい」というのが嫌いだった。

かといって女になりたい訳でもないんだけどね。

髪の毛もとにかく伸ばしたかったし、現在も結構長い。

で、大学生の時に「女装コンテスト」ってのが開催されてて、

3年連続出場して3年連続優勝したこともある。

メイド服着て、メイド喫茶に行き、メイドさんを困らせたこともある。

まあ、俺の事は軽い変態だと思ってもらってもいい。

簡単に説明するとそういうことだよ。

まあ、そんな変態な俺だから変な人間とはよく関わってた訳だけど

今回は心霊的な話な。

俺は自分で霊感が強いとは思ってない。

音や声、気配は感じるけど、見えた事はない。

ってことで今回の話も幽霊が見えたわけではないんだけどね。

じゃあ本題に入る。

これは大学2年の夏休み、時系列で言うと「見てる理由」の

彼女の事件から1年たつかたたないかってくらいだな。

休学してた分勉強が遅れてたんだけど、友人Kが頭がよかったおかげで

なんとか前期試験をパスして、補修なしで休みに突入できたんだ。

Kは夜遊び好きのホラー好きで、よく心霊スポットとかには

ドライブがてらに行ったりしてたんだ。

しかしKはまったく霊感がないらしく毎回

「またなんもなしかよー!つまんねえなー」

こんな感じで全然霊とか見えてないんだ。

でもKはなんとしても怪奇現象を体験したいらしく、

より怖い心霊スポットを探していたんだよ。

そんなKが「今度のは絶対大丈夫だぜ!間違いなく出る!」

そういって俺に肝試しを持ちかけてきたんだ。

Kの話では、大学がある街の隣の街の住宅街で最近一家心中があり

どうやらその一家はコンクリート埋めで床下から発見されたらしい。

警察も現場検証途中で、まだその家は遺体を掘り出したこと以外は

触られてないらしいとの事だった。(そういえば大学の連絡網が回ってきたなー

とか思いだしてた)

一家心中でコンクリート埋めって・・・自殺かそれ?って思ったんだけど

警察は自殺の線で捜査してるらしかった。

そこに俺とKと女の子2人の計4人で行きたいって言うんだよ。

俺はあの事件以来、女子とはあまり関わりたくなかったんだよな。

そう言ってごねてたらさ

「じゃあ2人で行こうぜ!今日だぞ!女の子呼ばねーなら強制な!」

俺は昔から押しに弱いんだよね。

Kが車を出すって事でOKしちゃったんだ。

俺も霊感強くないっぽいし、そんな緊急事態にはならないだろうと思ってね。

それでその日は、夜までKと遊んで、ファミレスで飯食ってたらちょうど日付が変わろうとしてたんだ。

「じゃあ、そろそろだな。じゃあ出発するか」

Kが車に乗り込む。

あまり気乗りしないまま、Kの車でその場所に向かったんだよ。

大学近所のファミレスから30分くらい走っただろうか

その場所はすぐに見つかった。

普通のバルコニー付き庭付きの2階建て一軒家。

ただ「KEEP OUT]みたいな黄色いテープで庭から囲ってあった。

雰囲気なんだが、明らかにその家だけ暗く感じる。

庭から見えるガラス戸が半分開いている。

侵入は簡単に出来そうだった。

ただ、庭に行くには玄関前の門から入らなければならない。

Kは雰囲気に呑まれてるのか、少し楽しそうだった。

2人でまず門に向う。

キイイイイイ・・・

門を開けて敷地内に侵入しようとしたとき

玄関前のセンサーが反応したのか、玄関前が明かりに照らされた。

・・・おいおい、センサーまだ機能してんのかよってビビってたら

カチャ

玄関を開ける音がしたんだ。

まずここで超ビビった。

Kがドアノブを回している。

「おいおい!カギ開いてるぜ!マジか?マジか?これ玄関から入れってことか???」

小声でこうはしゃいでるんだよ。

俺は内心ガクブルで、何も言えなかったんだ。

ガチャ

玄関はいとも簡単に開いた。

そして、ここまで来たらやっぱ中に入るしかねーだろと

自分を奮い立たせ、玄関の中に入ったんだ。

この時、妙な感じがしたんだ。

空気が暖かい、生温かいとかじゃなくて

少し心地の良い暖かさを一瞬だけど感じたんだ。

でも一瞬だけだった。

また不気味な感じに戻ったのな。

ただなんとなく、土足で上がるのはマズイなって、

そう思ったんだ。

まあ、それで靴を脱いで中に入って行ったなんだよ。

玄関を抜けるとでかいリビングがあって(玄関上がったら右側に階段)

その隣に台所。

リビングに通じる廊下の途中に風呂とトイレがあるんだ。

とりあえずリビングへ向かったんだよ。

リビングの床下がめくられていたんだ。

ああ、なるほど・・ここで発見されたのかなって思ってたら

多分風呂だろうな、シャワーの音がしだしたんだよ。

ただこれも一瞬で、バッ!て風呂の方角を振り向いたら

音は止んでたんだ。

Kには聞こえてないみたいだった。

「なになに?どーしたんだよ」って小声で言っている。

その後はリビングでは特になにもなく

「ここまで来たんだからさ、二階も行こうぜ」

Kがノリノリでそう言ってくるもんだから、二階も行くことにしたんだ。

玄関横の階段まで戻る。

その途中にある風呂をチェックしたけど、別に何もなかったんだな。

無事に階段までたどり着いて、二階へと上がったんだ。

二階は子供部屋が二つ、一つは多分男の子でもうひとつは女の子の部屋だったな。

兄ちゃんと妹なんじゃないかなって思ったんだよ。

女の子の部屋の方が男の子の部屋より幼い感じがしたからな。

これも別に異常なし。

学習机も本棚もテレビもそのままで、綺麗なまま残ってたな。

特に何もないし、じゃあ降りて帰るかって階段に向かおうと思ったら

パタパタパタって階段を下りて行く音が聞こえたんだ。

「おい・・・今の・・・」

Kが言った。

これはKも聞こえたらしくビビりつつも2人で階段に向かったんだ。

一階がざわついているのが分かる。

なにやら話声が沢山するんだ。

これはKには聞こえたないみたいだったな。

ここでちょっと気付いたんだけど

・・・まさか、まだ生活してねーか?って思ったんだ。

こちらに対して何も危害を加えるような真似をしてきてないなら

向こうはまだ気づいてないのか?

それとも敵意がないのか・・・いや、それはあまり期待できない。

人様の家に勝手に上がりこんでるんだから、失礼極まりないよな。

前者が正しいと踏んで、俺はKにもう帰ろうって言ったんだ。

なるべく慎重に、物音は極力立てずにね。

Kはしぶしぶ納得してくれた。

階段を下りるときも慎重に、しかし相変わらずざわざわ聞こえる。

結構楽しそうだった「アハハハハ」とか笑ってるのも分かるんだ。

一階に近づいていくとね。

台所からも包丁の「トントン」って感じの音がするんだ。

完全に飯時だろって思ったよ(そんなに余裕はないけど)

階段を下りた時点でセーフ。

一階にたどり着いたら玄関はすぐそこだ。

玄関を開ける音くらいなら一歩踏み出せば外だろ?

それなら余裕じゃねーかって思ってたんだ。

思ってたんだけど、気づいてしまったんだ。

Kが履いてきたのはヒールの高い革製のブーツだった。

Kはそのブーツを履こうとしている。

リビングの音がKには聞こえてない分コイツは余裕なのか。

「バカヤロー!もう靴下でいいじゃねーか!」

小声でそう叫ぼうって思ったんだけど、もう遅かった。

カツン

ブーツのヒールが鳴った。

同時にリビングのざわざわもピタッと止んだんだ。

ヤバい・・・・完全に気付かれた・・・・。

そう思ったら今度は玄関の電気が点いた。

Kも俺も体が硬直している。

Kは「え?なに?」って感じで余裕が見られるけどな。

すると台所の方から声が聞こえたんだ。

大人の女性の声で

「あら、もうお帰りになるの?タッくんの御友達でしょう?

タッくん・・・ここのところ

一人ぼっちで、妹とはあまり遊ぶような歳じゃないから寂しそうにしてたのよ。

またいつでもいらしてくださいね。」

また、玄関が暖かくなった。

同時に俺の目から涙が零れ落ちた。

気付いてたのか・・・

そして、俺も気付いたことがあった。

玄関の暖かさの正体だ。

家に入った時に感じたアレは御客を迎えるときと送り出す時の感覚そのものだった。

つまり、玄関のセンサーが反応した時点で俺たちは迎えられてたことになる。

やっぱり、この家族はまだ普通に生活してるんだなって思ったな。

Kはなんかもうキョトンとしている。

俺は「お邪魔しました。また来ますよ」

そういってKを連れて家を出た。

Kは「は?お前誰と喋ってたんだよ!」

ってしつこく聞いてくるんだけど俺はそんなこと無視して

「明日、昼間でいいからまたここに連れてきてくれ」

そう頼んだ。

花を持っていくとなんか失礼だから駅前のケーキ屋の

クッキーを手土産にまた来よう。

そう思ったな。

後日談

マジでクッキー持って行きました。

Kは「つまんなかったなー」って感じだったけど。

タッくんって言うのは長男で高校三年らしい。妹は小学二年だそうだ。

俺がその当時19だから、年齢が一緒だと思ったのかな。お母さんは。

怖い話投稿:ホラーテラー クラッチさん  

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ