短編2
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幻肢の指輪

とあるお店が在る。

俺は曰く付きなコレクション兼商品にまるで磁力に引き寄せられるように何度も訪ねてしまう。

そして今日も…

「やあ、いらっしゃい。

今日もコレクションを見たいそうだね。存分に見ていってくださいな」

この店は会員制だ。

会員になる条件は一つだけ、いつか商品を買う事。

いつになるかは、客次第だそうだ。

特典は好きな時に品物を閲覧できる。

ここは、そんな店。

整然と並ぶコレクションを眺めていると店内の淡い光を反射してキラキラ光る物があり足が止まった。

そこには綺麗な指輪があった。

「店主、この指輪はなんですか?」

「ああ、この指輪は…」

店主の話が始まった。

指輪の持ち主は20歳の女。女はそれなりに幸せに生きていた。

ある時、病気になり視力を失った。

だが女は絶望などしなかった。

支えてくれる優しい彼氏がいたから。

彼は言った。

目が見えないからなんだ、君は何も変わらないと。

女は幸せだった。

世界で一番の幸せ者だと思うくらいに。

ある時、女は彼に手を引かれながら歩いていた。

いつもの日常、幸せな時間。

何気ない事が幸せで堪らなかった。

だが、一台の車が幸せな時間をぶち壊した。

女は命は取り止めたが両腕を失った。

彼は泣いた。

まだ女から何か奪うのかと、渡す筈だった婚約指輪を握り締めた。

女の意識が戻った。

女は彼の無事を喜び手が痛いと言った。

彼は涙が止まらなかった。女は目が見えないが故に幻肢痛がリアルだった。

言えなかった。

手がないと…

彼は違う事を言った。

結婚しよう。

女の幻肢の指にそっと指輪を置いた…

女は嬉しかった。

目には見えないが指輪を感じられた。

幸せだった。

だから彼には幸せになってもらいたかった。

これ以上、彼の荷物にはなりたくなかった。

その夜、女は延命装置のスイッチを切った。

ない筈の指で…

「それが、この指輪です」

悲しみと喜びが混ざったような不思議な思いを感じた。

「おそらく世界で一番の幸せ者の指輪です。あなたにはそんな相手はいますか?」

流れる雫を見られないように足早に店を出た。

怖い話投稿:ホラーテラー 月凪さん  

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