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長編11
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20年の想い

以前「突然すぎて…」を投稿した者です。

今回は少し長い話なので分けて投稿します。

去年の年末、宅配便が荷物を持ってきた。

俺宛てにはなっているが、差出人は…ミミズが這ったような字でよく読めない。

好奇心から、なんだろうと早速開けてみる事に。

中身は包装紙にくるまれていたので剥がしてみると、100×150×50くらいの真っ黒な木製のパズルみたいな箱が入っていた。

なんだ?

酷く気味が悪い。

開けるかどうか迷っていると携帯が鳴る。

親友のFからだ。

Fは中学高校と同じ学校に通い、今は地元から離れているが戻って来たら今でもよく連んでいる。

正月も呑む約束をしていた。

電話に出るとどうもFの様子がおかしい。

何かに怯えているような感じだ。

「どうした?」

「いや、一昨日マンションに戻ったら宅配便の不在通知があって、連絡したらすぐ届けてくれたんだけどよ…開けてみたら薄気味悪い箱が入ってたんだよ」

俺はまさかと思い自分の所に届いた箱を手に取り

「もしかしたら木で出来た黒い箱か?」

「なんで知ってるんだ?あっ!お前が送ったのか!?」

「んなわけないわ!…俺んとこにもさっき届いたんだ」

「お前中見た?」

「いや包装紙剥がしたら携帯鳴ったからまだ開けてはいないけど…Fは見たのか?」と聞くと間をおいて

「……ん、髪の毛と紙が入ってた。髪の毛もそうだけど、その…紙がな……血が乾いたような赤茶色で【F呪殺願】って書いてあるんだ」

寒気がした。

俺にも同じ物が入っているのか?

誰が?何のために?

少し戸惑っていると

「…!……Y!」携帯の向こうからFの声が聞こえる。

「あぁ悪い。ちょっと考えてたから…」

「それが…晩からおかしな…起こってよ…夜な夜な…来る……なん…怖いんだよ」

「何か電波途切れるぞ?ちょっと待て、俺見てみるわ!」

と手に持っている箱を開こうとした。

「あれ?開かないぞ?」力を入れて何度も引っ張ったが開く感じがしない。

「F、お前どうやって…」と言いかけて電話が切れている事に気づいた。

かけ直したが話し中の通話音しかしない。

その後何度もかけたが繋がる事はなかった。

結局開かないし、無理に開けるのを躊躇ったまま夜を明かした。

起きてすぐFに電話してみるが、相変わらず呼び出しはするが出る気配はない。

どうするか考えていると携帯が鳴った。

Fか?と着信を見ると高校の同級生のUだった。

Uは市内に住んでいて、たまに会っていた。

俺とFとUは何をするのも一緒で、本当に仲のいい3人組だった。

「おは〜、U早いな」と言うとUは

「お前休みだからって怠惰な生活送ってるなぁ。もう昼過ぎだぞ!」

時計を見ると12時を過ぎていた。

箱が気になってなかなか寝付けなかったからだろう。

「はいはい、それで立派な生活を送ってらっしゃるUさんはどんなご用ですか?」と笑いながら言ったのだが、Uの言葉を聞いた俺は凍りついた。

午前中Uの所にも箱が届いたらしい。

「開けたのか?」と聞くと、俺と同じでなかなか開かないので今は放ってあるようだ。

俺は「今すぐ向かうから箱を開けるな!」とUに言うと、あまりに真剣な態度にUも「分かった」とだけ答えた。

30分でUのマンションに到着し、俺は昨日Fから連絡あった事を含め全て話した。

「う〜ん…それにしたってどうする?気味が悪いからってこのまま置いてても埒があかない。それにFも連絡取れないのもおかしいし」

たしかにUの言う通りだ。しかし箱よりもFの事が気になった俺は

「なぁU…遠いけどFの所に行ってみないか?何もなければそれでいいんだが、Fは何かに怯えているようだった。俺はFと最後に電話していたのに、もしFに何かあれば俺は後悔しそうで…」

Uは俺の肩をポンと叩き「ドライブがてら行って来るか?」と明るく言ってくれた。

Fの住んでいる都市まで片道3時間。

途中何度も電話したが、そのうち充電が切れたのか「おかけになった電話〜」と無機質なガイダンスが流れるだけだった。

峠は圧雪アイスバーンで思うように走れなかったが、年の暮れの為ほとんど車はなかった。

それでもFのマンションに着いた頃にはすっかり暗くなっていた。

Fの部屋の前に立ちインターホンを鳴らす。

ピンポーン

ピンポーン

ピン…ポーン

出てくる気配はない。

ドアノブを掴むが鍵がかかっている。

俺達は1階の管理人室を訪ね、事情を説明して管理人のおじさん立ち会いの元、開けてもらう事になった。

管理人さんが鍵を差し込みドアを開けると、生暖かい風が吹き抜けた。

「F!おいいるのか?」と中に入ると、管理人さんが悲鳴を上げた。

その視線の先には床一面に広がる血の海、その真ん中で俯せに倒れているFがいた。

「F!!」と叫びながら駆け寄ろうとする俺はUに押さえつけられた。

「Y!落ち着け警察だ!警察を呼ぼう!おじさん警察呼んで!」Uは慌てながらも的確に指示していた。

警察が来るまでの間、2人共堪えきれず涙を流していた。

第一発見者である管理人さんを含めた俺達は、その日遅くまで事情聴取を受けた。

Fは死後24時間以内で、俺とUのアリバイは簡単に証明された。

警察が一番頭を抱えていたのは死因。

床一面埋めるほどの血を流していたFの体には傷一つなかったのだ。

明け方、警察署を出た俺達は管理人さんにお礼を言ってファミレスに入る。

テーブルの上に珈琲とサンドイッチが置かれたが、手も付けず2人無言だった。

窓から見える知らない街の風景。

Fが死んだという現実を突きつけられる。

何も話したくない。

何も考えたくない。

何も…出来なかった。

そう思うと流しきったはずの涙が頬を伝った。

それを見て今まで黙っていたUが重い口を開く。

「これ…」

テーブルの上に見覚えのある箱を置いた。

箱はバラされていてその中から一枚の紙を取り出し広げた。

B5より小さめの折り目の付いたその紙には【F呪殺願】と赤茶色で書かれている。

「どうしたんだ?」と聞くと

「パソコンの横に置いてあったから箱ごと持って来た。呪いが原因かどうか分からないけど、どうせ警察も呪いなんて悪戯だと思って信用しないだろ?それに箱を送られてきた俺達だってどうなるか分からないぞ。ならこれを知り合いのお寺で見て貰おうと思ってさ」

そうだった。

悲しんでばかりはいられない。

俺だってまだ死にたくないし、Fが亡くなった上Uまで死んでしまったら…

「よし、地元に帰ろう!」俺達は席を立った。

ほとんど寝ていないので交代で運転しながら帰った。

戻ったのは昼過ぎで、Uはどこかに電話してこれから向かう旨を伝えていた。

Uに連れられて行ったのは市内近郊のお寺で、自宅の方を訪ねるとUの知り合いの住職さんが優しそうな笑顔で出て来た。

早速例の箱を見せると、住職さんは急に険しい顔になり「ここじゃなんだから場所を変えよう」と歩き出した。

通された部屋は長机と座布団が置いてある8畳ほどの広さだった。

「U君…それとY君だったね、これは呪言の一種のようだ。」

「じゅげん?」俺とUは顔を見合わせる。

「言霊って聞いた事あるだろう?大昔、言葉がもっていると信じられた神秘的な霊力の事を言うのだが、この紙の言葉に人の強い思いが宿りこの箱に閉じ込めているんだ。そしてそれが開かれた時、呪いが解放される…亡くなったF君は気の毒だが、君達はまだ開けていないから助かったんだ」

「箱は呪いを閉じ込めているとして、髪の毛はどういう意味なんですか?」俺は尋ねた。

「おそらく髪の毛自体には呪いの意味はないだろう。君達に恐怖心を植え付ける為に一緒に入れたのではないだろうか?いずれにせよ紙に書かれたこの血文字、これは大変危険なものだよ。箱はこちらで責任持って処分するが、この先また同じように呪いを受けるかもしれない…気をつけるように」

結局箱はお寺に預け御札を貰って帰った。

Uと別れ帰り道、俺は思い出しながらゾッとした。

呪われた?誰に?俺だけじゃない。

俺達3人に恨みを持つ人間…

皆目見当がつかなかった。Fとは中学からの付き合いだが、Uとは高校の2年から同じクラスだ。

しかしFとは1年の時だけ同じクラス。

3人に共通する知り合いなんていないんじゃないか?社会人になってからの知り合いか?

そんな事を考えながらも疲れていた為寝入ってしまった。

携帯が鳴る音で目覚める。

「…誰だ?」

時刻は夜中の1時過ぎ、電話を取るとUからだった。

「…はい…もしもし」

「Y、今お前んちの近くなんだ!すぐ着く!」一方的に話して電話は切れた。

数分後、鍵を開けていたのでUは入ってきた。

「どうしたんだ?こんな夜中に…」まだボーっとしている俺にUは慌てた様子で

「俺もさっき寝てたんだけど、窓の外を誰か歩いている音で目が覚めたんだ。最初はうるせーなって思ってたんだけど、何往復もしてるんだ。おかしいと思って電気付けないでカーテンの隙間から覗いたら…」

Uは唾を飲み込み間をおいて

「お前、Mって覚えてるか?」

「M?……Mってあの?」

「ああ、外灯に照らされた時見えたんだ。頬の下の火傷の跡が…顔にも見覚えがある。間違いないあれはMだ」

Mは学校帰りによく寄っていた喫茶店の女の子で、俺達より3才年上の明るく可愛い子だった。

珈琲を頼む俺達によく手作りクッキーなどサービスしてくれたり、みんなで海に行った事もある。

3人のマドンナ的存在だったが、誰一人抜け駆けする事はなかった。

ある夜Mの住んでいたアパートが火事になり、Mは命からがら逃げ延びる事が出来たのだが、顔や体に火傷の跡が残る重傷を負った。

喫茶店のママはMの叔母で「Mは復帰するのは無理かもしれない」と言っていた。

しかし心配する俺達をよそにひと月後Mはバイトに復帰したのだが、明るかったMの面影はなく、話しかけてもよそよそしかったり怯えるような素振り。

そんなMを見ているのが辛かった俺達も次第に喫茶店からも足が遠のいたのだ。

「Mがどうしてお前のマンション知ってるんだ?誰か知り合いが住んでるんじゃないのか?」

「いや、俺が電気をつけるとMは逃げていったんだけど…窓にこんなもん貼ってあった」

Uは紙で出来たヒトガタを俺に見せる。

真ん中にはUと書いてあり、窓の下には藁やマッチが落ちていたそうだ。

「多分年賀状やりとりしていたから、実家にでも電話してマンションを調べたんだろう。それにしたってあのMがどうして」と俺は思い出したように言った。

「そうだよな…あれから20年も経っているし、俺達はMを心配してたんだから恨まれる覚えは…うっ!」

Uは話していると突然苦しみ出した。

苦しそうにのたうち回る。

「おい!大丈夫かU!?」

俺は救急車を呼ぼうと携帯を手にした時、玄関の郵便受けから何か飛び出している。

………ヒトガタ?

急ぎ玄関に向かうと走り去る足音が聞こえた。

ドアを開けたが誰もいない。

俺はヒトガタを拾うと吐き気がした。

さっきUが言っていたようにUの文字があり、ちょうど心臓の辺りに針が刺さっていた。

針を抜くとUは落ち着きを取り戻したが、その夜は一睡もする事が出来なかった。

朝方住職さんに電話すると「すぐこちらに来なさい。それと外に出る時小さくてもよいので鏡のような物を持ち歩きなさい。鏡は神聖な力が宿っており、呪いを跳ね返すとも言われますからね」

俺は小さい鏡を探し自分とUに持たせお寺に向かった。

お寺では住職さんが待っていて、暗幕の張られた部屋に通された。

俺とUは隣り合わせに正座させられ、経本を渡され住職さんについて一緒にお経を上げた。

2時間ほど読んだ後、Mが持っていたヒトガタを近くの川に流すと言っていた。

そんなのでいいのか?と思ったが、知識のない俺達は住職さんの言葉に納得した。

「流し雛って水に流して身を清める意味合いがあるんだよ。ヒトガタも同じような意味合いで呪いを水に流してしまうんだよ」

お寺を出た俺達は例の喫茶店に向かった。

喫茶店に着いたが開いてないようだ。

行くあてもない俺達は30分くらい入り口近くで座っていると、一台の車が建物の横についた。

運転している人は怪訝そうな顔つきで窺っていたが、降りてくると

「お客さんですか?ごめんなさい、しばらく休みなんです」

と沈痛な面持ち。

間違いないママだ。

Uはママに話しかけた。

「あの〜俺達の事分かりますか?」

ママは振り返り、ジーッとUの顔と俺の顔を交互に見ている。

「もしかして…〇〇高校の?」

覚えていてくれたようだ。こんな時だが少し嬉しくなった。

「そうです!UとこっちがYです!」

「懐かしいわね…ずいぶん昔の事だけど、貴方達を見てるとついこの間のことのようね」

ママはあまり元気がないようだった。

気になったが俺は

「Mちゃん…ってたしかママの姪っ子さんでしたよね?昨日見かけたんですけど今どうしてますか?」

そう言うや否や、ママの顔色がみるみる青ざめていくのが分かった。

「ママ、正直に言うと俺達Mちゃんに大切な用事があるんです!」

Uも急き立てる。

少し無言の後、ママは中に入るように促した。

入り口のプレートを【準備中】なのを確認すると、ママはテーブルに着き話し始めた。

「貴方達も知っての通り、Mはあの火事以来変わってしまったわ。あの後唯一の肉親だったMの父親が亡くなってね…それから一層内に籠もってしまったわ。人と接する事も出来ない状態だったのよ」

俺とUは暫し顔を見合わせたが、無言のままお互い頷きこれまでの話をする事にした。

「まさか!Mがそんな恐ろしい事………いえ、F君がお亡くなりになった事はご冥福をお祈りするけど…」

「まさかって、現に昨夜俺のマンションで彷徨くMちゃんを見たんですよ!」

Uは声を荒げた。俺はUを宥めながら

「俺も初めは信じられませんでした。あの優しかったMちゃんがそんな事するはずないって…だけどUの話を聞いた後、Mちゃん俺のとこにも来たようなんです。郵便受けにUのヒトガタが入ってました」

「そうなの…本当なのね…ごめんなさい貴方達には迷惑をかけたわね……貴方達には本当の事話さなければならないわね」

ママは涙ぐみながら話を続ける。

「Mはね…一週間前死んだわ。デパートの屋上から飛び降り自殺したの。自殺する前日Mが突然店に顔出して、荷物を送ってほしいと梱包された小さな箱を3つ置いていったの。いま思えば貴方達へ送る物だったのね…そしてMは」

『叔母さん、今まで苦労かけたけどもうすぐ終わるから…好きな人といつまでも一緒にいられるの…私いまとっても幸せよ』

「何年振りかしら…あの子の笑顔は…嬉しそうに話していたあの子が…まさか自殺するだなんて……」

俺もUも驚いて声が出ない。

どういう事だ?

Mは俺達を全員呪い殺そうと箱を送った。

だけどMは既にこの世にはいない…昨日Uが見たのは?うちに来たのは?

そう考えているとママが話し始める。

「だけどね…MはFの事が好きだったのよ。あの頃からずっと変わらず…君達3人の関係を壊さないようにって気持ちを押さえていたけど…そのMがどうして!」

MがFの事を?

じゃあ何で俺達まで呪いの箱なんて…

分からない事だらけだった。

泣きじゃくるママを後に喫茶店を出た。

腑に落ちない様子のUは

「なぁY、どういう事なんだ?俺全然分かんないわ!MがFの事好きで自殺するのにあの世に連れて行ったって事か?呪言で?じゃあ俺達は?」

「仲が良かった頃のように俺達も連れて行こうと思ったのかもな…」

そう言ったけど、俺もよく分からなかった。

ただ一つ分かった事は、先月Uが交通事故で半身不随となった。

その数日前、マンションの郵便受けに足の切れたヒトガタがあったらしい。

呪いはまだ終わっていないという事だけだろう。

長文読んで下さりありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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