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中編6
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審判の間~異常事態~

『ちょい、資料どこ?』

『またですか?

懲りてくださいよ…。』

『とか言って、

また準備してくれるんでしょ?

そんなツンデレな君も好き…』

『大概にしてください。』

『……はい。』

いつの間にか、

俺はこの部屋にいた。

明らかにおかしな空間。

目の前の巨大な二つの門。

そして、俺より若そうな謎の男女。

『佐藤くん?』

目の前の男が、

突然俺の名を呼んだ。

『あぁ。』

『佐藤、拓也?』

『あぁ、そうだ。』

『よっし、きた。

今度は正解だー。』

『……?』

『あー、こっちの話ね。

ようこそ審判の間へ。』

審判の間…。

もちろん聞いたことはない。

だが目の前に見える、

『天国』『地獄』の門。

『なるほど…、

俺死んだもんな…。』

『あ、今度の佐藤くんは

自覚ありっぽいね。』

『さしずめアンタは、

閻魔大王か何かか?』

『ぐぁ、つまんね。

もうバレた。』

『で、俺は?

天国?地獄?』

『怖いくらいに

飲み込みが早いね佐藤くん。

もうちょいうろたえてくれた方が

俺的にはかなり楽し…』

『地獄でしょうね。』

閻魔の横の女が答える。

『ふん、やっぱりそうか。』

『ちょ、ちょっと…

宣告は俺の仕事…』

『佐藤様が死んだ原因、

それは人間による死刑…。

死刑になるだけの悪事も

書類から見受けられます。』

『あぁそうさ、

俺は大勢の人間を殺した。

だから地獄が妥当だろう。』

『自ら地獄を認めるとは、

珍しいお方ですね。』

『俺が天国じゃおかしいだろう。』

『潔い方ですね。

……大王様、何を隅っこで

すねてらっしゃるのですか?』

『え…?別に?

すねてねーよ、別に。

二人で話進めちゃって

のけ者にされたとか

思ってねーよ、別に。』

『それより大王様。

最終宣告をお願いします。』

『わかってるわかってる。』

目の前の男、閻魔大王様…

いや、もはや閻魔くんか。

閻魔くんは書類を片手に、

俺の方を向きなおす。

『佐藤拓也23歳。

閻魔大王の権限において、

お前を地獄…』

『やだね。』

『……ん?』

『地獄行きに該当するのは認める。

だけど大人しく地獄行きに

なってたまるか。』

俺は走る。

突然の出来事に、

閻魔くんも女も唖然としている。

『待ちなさい!』

女が巨大な鎌を構えるが、

俺は横をすり抜けて、

『天国』の門に体当たり。

無理やり門を開けて、

中に駆け込んでやった。

『潔いどころか、

往生際が悪い男だねぇ。

往生際っていうか、

もう死んじゃってるけどー。』

『大王様、呑気なことを

仰っている場合では…!

今度こそ「上」から大目玉ですよ!

地獄行きの者を天国に…』

『このままにしておく訳

ないでしょーが。』

閻魔大王の顔から、

笑顔が消えていた。

門の向こう側に広がるのは、

まさに『天国』の名に恥じない

美しい世界だった。

『これが天国…!』

俺は思わず声に出す。

しかし、気を抜いていられない。

なんせ閻魔を振り切って、

無理やりここに来たんだ。

とりあえず、走る。

あてもないが走る。

しかし初めて来る土地、

しかも敵が敵だ。

むやみに動き回ると、

相手の思うつぼかもしれない。

しばらく進むと、

いい所に林があった。

ここに潜んで、

事態がどう動くか見るとしよう。

木陰に駆け込んだところで、

どんっ

誰かにぶつかる。

『うわ!』

『うわあぁぁ!!』

相手は俺以上に驚いた様子だった。

『お、驚かさないでくれよ。』

見るからに気の弱そうな男が

声を裏返しながら言ってくる。

『あー…すみません。

ちょっと慌ててて。』

『あっ、もしかして、君も?』

急に男は叫ぶ。

『へ?』

『そうか、君もか!

君も僕と同じなんだね。』

『え…?アンタも逃げ…』

『よし、君も一緒に行こう!』

何やら話が勝手に進む。

だがこの話から考えると、

俺とこの男は境遇が同じだと

考えていいのか?

『仲間ができたら心強い。

一緒に行こう。』

『行くって…?』

『こっちだ。』

男は仲間ができて

気が大きくなっているらしい。

まあ行く宛もない。

こいつについていくか。

『見つかるとヤバい、

急いでいこう。』

やはり男も人目を気にしている。

かなりの距離を歩いたが、

ようやく男の言う『目的地』が

近くなってきたらしい。

『よし、行こう、君。』

『こ、ここ…?』

男が指さすのは、

どうも天国にはそぐわない、

薄気味悪い森だった。

『まぁ確かにここなら

身を隠せそうだな。

ここで動向を見て…』

『さぁ行こう。』

『聞けよ!』

もはや男は俺の話を聞かず、

無我夢中にどこかを目指している。

何かやっぱりおかしくないか?

今更になって思い始める。

そもそも天国に無理やり入った人間が

そんなにいるものか?

『なぁアンタ、

どこ目指してるんだ?』

『何を今更。』

最初の気の弱そうなこいつは

どこにいったんだ?

『俺は閻魔に見つからなきゃ

何でもいいけどさ。』

『閻魔に見つからない?』

『アンタも審判の間から

逃げてきたんだろ?』

『え?』

嫌な感じがする。

ここに来て話が噛み合わない予感だ。

『君、審判の間から?』

『アンタ違うのか!?』

『違うよ僕は…』

『何だよアンタの早とちりかよ!』

『……』

審判の間を逃げたことを、

他の奴に知られてしまった。

これはなかなかまずい。

騒ぎを起こされると困る。

俺の頭には一つしかない。

この男、殺してしまえばいい。

天国の人間が死ぬのかはわからない。

だがこのまま逃がせない。

『そうか、君、

閻魔大王から逃げたのか。』

『あぁそうだ。

それをアンタに知られたからには…』

『なら好都合だよ!!』

!?

予想外の言葉が発される。

『そうかぁ、なんだあ。

助かったよ君!』

『何を言ってるんだ?』

何だこいつ…

天国にこんな気味の悪い奴が

いるものなのか?

『見ぃつけた♪』

聞き覚えのある声がした。

振り向くと、そこには、

閻魔くん…

いや悠長なことを言ってられない、

閻魔大王の姿があった。

『閻魔!』

『わぉ、呼び捨て。

どこまで俺のこと、

コケにしてんの?』

閻魔に、さっきまでの、

あのヘラヘラした感じは

一切感じられない。

『閻魔大王様ァ!!』

気の弱そうな男が、

急に声をあらげる。

『やあやあ。』

『僕はここに住む天使です!

実は貴方にお会いしたいと

思い申し上げていました!』

男は続ける。

『僕は悪魔になりたいんです!

天国なんてつまらない!

僕を悪魔にしてください!』

『え~何なの君~。』

『だからこの天国と地獄の境目に

出向いて来たのです。

貴方にお会いできるかと…。』

『それでそれで?』

『そ、そうしたらここに来る途中、

違反者を見つけました!

貴方に献上します。

ですから…』

そこで巨大な鎌が、

その男(天使?)を斬り裂いた。

『ぎゃあああ!』

男は悲鳴をあげ、

そのまま消滅した。

『やれやれ…、

とんでもない天使が

いたものですね。』

『本当だよ~、

大体俺にそんな力

ないっつーの。

ねぇ佐藤くん。』

閻魔がこちらを見る。

『てか佐藤くん、

何でこんな所に?』

『う…』

『運悪いね君~、

自分からここ来たの?』

俺は閻魔に背を向け、

逃げるため走り出す。

『ヘイ、鎌持った彼女~♪』

『何でしょう、大王様。』

『……斬っちゃって。』

死神の鎌が迫り、

俺はぶったぎられた。

『今回の騒ぎは、

もみ消せませんよ。

一瞬とはいえ、

天国に地獄行きの人間を

入れてしまったんですから。』

『大丈夫大丈夫。

だって変な天使いたもん。』

『意味わかりませんよ。』

『あんな危険思想の天使くんが

天国にいたんだよー?

これでチャラにできるって。』

『何とかなりますかね?』

『許してくれるよ神様も。』

そんな会話が聞こえる。

俺どうなるんだ?

因果応報ってやつか。

結局地獄みたいなもんだ。

審判の間はまだ

天国でも地獄でもないが、

天国か地獄の中で死んだら、

どこへ行くんだろうな。

怖い話投稿:ホラーテラー テティさん   

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